第59話:グラディオのお仕事
「よっす」
謁見の間。ヘルメス聖国の王城で、俺が片手を挙げてグラディオに挨拶すると、護衛と称して謁見の間に縦並びになっている兵士たちが殺気立った。
「良いのです。レイト様は余の恩人。セイントブルク神殿ダンジョンで難儀していた余を救出してくれた救国の英雄ですよ」
「しかし陛下。それではあまりにも」
「これから余はレイト様とお茶します。謁見という堅苦しい空気は持ち込みたくないので、護衛はいりません」
「それでは誰が陛下を守ると言うのです」
「ああ、大丈夫です。レイト様がその気になれば王城……というかヘルメス聖国が地図から消えますから」
まぁヘルメス聖国だけで済めばいいな。この異世界の銀河系が吹っ飛ぶ可能性まである。
「では行きましょうか。レイト様。ジュリアン。ジュリエット嬢。それから……」
「はいっす! レイトアニキの第一の舎弟! スレイブと申すっす!」
ビシッと敬礼してスレイブがそう言った。舎弟にしたつもりはないが、まぁ俺を尊敬してくれているのだからツッコミは野暮というものだろう。グラディオは気さくにスレイブの肩を叩き、穏やかに微笑む。
「レイト様の舎弟になるなんて。アナタの人を見る目は確かなようですね。レイト様を支えてあげてください」
「いえー、そのー、足を引っ張ってばかりで。宿代やら食費やらたかっている寄生虫っす」
「いいのですよ。レイト様を尊敬しているならそれで」
そうして場所を移す。城の中庭に席があって、上品なアンティークが並んでいた。
「玉露でよろしかったかしら?」
グリーンティー。紅茶の文化は異世界にもあったが、日本を経験し、緑茶をいたく気に入ったグラディオは最近玉露にハマっているらしい。湯呑は日本から持ってきたもので、全員分を揃えてある。
「美味いな」
「茶の淹れ方を教えてもらってメイドに仕込みました。最近はもうすっかり仕事を覚えたみたいで」
異世界のメイドが普通に緑茶を淹れられるようになったと。
「ところで仕事はいいのか?」
俺が根本的なことを聞く。
「ありますよ」
玉露を飲みながらあっさりとグラディオは言う。
「政務か?」
「まぁ君臨すれども統治せず……ではありますから。そっちは宰相と部下に任せていますね」
つまり働かなくていいと。
「主にポーション作りを担当しております。王都の経済はこれで回っていますので」
百年前までそうで、今はまたその経済に巻き戻っている。マテリアルアブソーバーの価格も上がっているし、ヘルメス聖国が最も依存している経済は聖女グラディオの作るポーションなのだろう。
「どうやって作っているんだ?」
「お見せしましょうか?」
「そうだな。興味はある」
ポーションとか、ちょっと異世界のロマンがあるし。そうして仕事部屋に向かい、ズラリと並べられているポーションの類。
「もう出来てるんじゃないのか?」
「これは全部ポーションの素です。回復効果はありますが……言ってしまえば薬効に依存しているだけですね」
何でも錬金術師が錬成したもので、別に不良品というわけじゃないが、これだけだと飲み薬程度でしかないらしい。
「で、この一本一本に私の順転エネルギーを封入するんです」
なるほどね。人間の成長と回復を促す順転エネルギーを錬成されたポーションに封入する。そうして順転エネルギーを直接的摂取してケガを治す薬効を作るわけだ。
「…………」
何故かスレイブが青ざめていた。どうかしたのか?
『スレイブは魔族だからねー』
頭の中のハミルトニアンが教えてくれる。頭に羊の角が生えているので悪魔っぽくはあるが。
『魔族にとっては順転エネルギーが毒で衰転エネルギーが栄養なのよー』
中々ややこしいんだな。前にもそのようには聞いているが。
『でも衰転エネルギーは長生きするほど増え続けるから、年経た魔族は下手なSランク冒険者より強かったりするよー』
スレイブは?
『雑魚』
さいですか。
「つまりスレイブにとってはこの部屋は毒瓶の倉庫に見えているわけだな?」
「うっす。触れるのも怖いっす」
「気を付けてね」
そうして一本一本ポーションに順転エネルギーを封入していくグラディオ。そうして在庫の全てを聖女印のポーションに変えて。
「なんなら市場も見ていきますか?」
「是非是非」
というわけで、城の隣にある大聖堂。その裏口にポーションを運び込んで、そのまま大聖堂に集まっているポーション目当ての客がひしめいているのを見る。
「大金を稼げそうだな」
「儲かりはしますけどね。まだまだアリフレム王国への贖罪の金に関しては」
「そっちはフェイクリスト一族が労働で払うんだろ?」
「まぁそうですけど何万年も奴隷をして、その間にアリフレム王国がまだ残っているかと言われると」
たしかに。どう考えても国なんて百年単位で移り変わるよな。日本だって千年単位で残ってはいるが、それでも次の千年後に残っているかはわからないわけだし。
「ではローポーション十本で金貨五枚」
ポーションを仕入れに来た商人に、大聖堂の教徒がそのように商売している。
「高過ぎじゃね?」
「売っているあの教徒は直感スキルを持っていまして。相手の懐事情を何となく察せるんですよ。貧民が怪我を治したくて買いに来た場合はちゃんと安値で売っています」
なるほどね。
「その貧民を使って安く購入しようとすると?」
「直感スキルでバレます。ちなみに投獄刑ですね」
「…………」
「なので、もうこのシステムが有名になっているので小賢しく買いたたこうとする商人もいませんよ」
「ハイポーションだとどれくらいだ?」
「商人の懐にもよりますけど、白金貨を用意してほしい程度ですかね」
日本銀行券で八十万……。まぁ何でも治す魔法の秘薬と考えればむしろ安いのか。
「仲良くしている大陸の国の王族が買い求めたら、さらに価格が跳ね上がりますけど」
濡れ手に粟ってこういうことを言うのだろう。
「じゃあマテリアルアブソーバーに頼らなくてもヘルメス聖国はやっていけるわけだ」
「私自身が不滅なので……まぁ国がどうなるかは知りませんけど。一応お金には困りません。もちろんレイト様が国を欲しがるなら玉座を譲りますけど、レイト様にダモクレスの剣が落ちても困りますし。影の支配者でいてくださいね♪」
あー。はいはい。
「それでそのぉ。レイト様ぁ♡ 今夜のことですけどぉ♡」
「万事了解しました」
一国の王が俺の世話をする。巨乳だしケツデカだし。マジでグラディオっていい女。
あのおっぱいで奉仕されると俺のアレもギンギンだ。




