第58話:そうしてまた異世界
「濃い一日だった」
それしか言うことがねー。百八財閥の令嬢に気に入られた。そのことで両親には心臓に負荷をかけ、俺としては申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが。それはそれとして。
「それではな。レイト様」
ヘルメス聖国で別れたグラディオがそう言ってきて、俺にキスをする。
「ちょ、聖女がそんなことしていいのか?」
「愛しているぞ。レイト様。ヘルメス聖国を支配する私を裏から支配する真の王様はレイト様だ。レイト様が望むなら、私はこの国を全て譲渡しよう」
「管理は頑張ってな」
で、ヒラヒラーと手を振る。そうして距離フリー。エイテル庭国の冒険者ギルドへ。今日は三階層からだ。
「それではお気を付けて」
そんなわけで受付嬢から激励を受けて、マテリアルアブソーバーでダンジョンに転移。ダンジョンもプリモーディアル・プリヴェント・プリズン・プリンシプルによって封印されたダンジョンマスターがその空間に心象風景を刻んで作られた異界だから、ある意味では異世界とはまた別の異世界と言える。
「アニキ。昨日は何してたっすか?」
「帰省」
「ヘルメス聖国?」
「まぁそんなところだな」
あっさり言いつつ、広大な城の中を歩いていると、トロールが襲ってくる。
「ジュリエット。よろしく」
「承りましたわ。レイト様」
修羅疾患でフィジカル強化。侵食触診で、トロールを黄金に帰る。そうしてアイテムボックスに放り込む。俺とジュリアンとジュリエットはアイテムボックスをそれぞれ持っている。横領していいぞとは言ってあるが、今のところその兆候もなく。
「無茶苦茶っすね。ジュリエットさん」
まぁアンノウンスキルだからな。触れたモノの属性を変えるスキル。それこそゴブリンをワタリガニに帰ることも可能だ。ちなみにマテリアルアブソーバーは無理らしい。ハミルトニアン曰く。
『アレは異界の入り口がこの世界に結晶化して繋がっていることが前提だからね。異界という空間に作られた玄関。家も小屋もない原っぱに扉だけ作って空間ができると思う?』
という理屈らしい。納得。
「じゃあとりあえず見かけたモンスターは全部黄金に変えて進むか」
「マジでお金持ちじゃないっすか……アニキたちって」
「ちゃんとスレイブにも分け前をやるから安心しろよ」
「いえ、拙は百階層まで連れて行ってもらえれば」
「ちなみにだが」
ダンジョンを攻略しながら俺は聞く。城を模したダンジョンだ。コンキスタドームでマッピングはしているし、罠の類も把握して避けている。最悪の判断はジュリアンのアンノウンスキルである後始末で回避している。
「なんでダークブルク夜城ダンジョンを攻略してほしいんだ?」
「そのー。分かると思うんすけど。拙は魔族っす」
ハミルトニアン?
『え、エッチなことですか?』
違えよ。魔族って何?
『反霊長。純霊長である人間と鏡写しの霊長で、魔術を使える希少な種族』
あれ? 魔術って人間しか使えないのでは?
『元々魔族が使っていた技術だったのだよー。魔族の技術だから魔術だねー』
ということは魔族も術式を励起できるのか?
『もち。十全に魔術を使えるよ』
じゃあ人間と魔族の違いって?
『人間は順転エネルギーで成長して、衰転エネルギーで劣化する。魔族は逆に順転エネルギーで劣化して、衰転エネルギーで成長する。なので生まれつきの魔族はすっごい弱くて、けれど長い時間をかけて衰転エネルギーを多量に取り込むと人間では相手にならないくらいの強さを手に入れるの』
元々順転エネルギーが目減りして衰転エネルギーが増大するのがこの世界のルールだ。つまり魔族は膨れ上がる衰転エネルギーでどこまでも強くなるわけだ。
じゃあ何で魔族は幅を利かせてないんだ?
『どうでもよすぎて検索する気にならないよー』
だろうよ。本当にどうでもいいことは全知であっても知る気が無いらしい。ハミルトニアンって役に立つのか立たないのか。
『ま、スレイブは面白いとは思うけどね』
その理由は?
『ひ・み・つ♪』
なんか引っかかるな。そうしてガンガン進んでいく。流石にダンジョンだけあって一階層だけでもすごく広い。食事と睡眠と排泄が要らない空間とはいえ疲労はあるので、休憩を挟む必要があり、そういう時は位置を記録してギルドに戻ってホテルで一泊するのだが。
「アイアンハーミットクラブだぜ」
百階層あるダークブルク夜城ダンジョンの十階層のフロアボス。アイアンハーミットクラブ。要するに鉄の貝殻を背負っているヤドカリ。しゃーない。
「エレクトキシン」
そうして速攻で毒殺して、その遺体をアイテムボックスに入れる。そのまま十一階層を探索し、十二階層に行き、その後で頃合いだろうとギルドに帰還。
「十階層のフロアボスを討伐したんだが……」
「あ、はい。ドロップアイテムの買取ですね。何が取れましたか?」
受付嬢が聞いてくる。
「ボスの遺体丸ごとだ」
「…………」
沈黙。まぁそうなるよな。
「ちなみにジョークの類では?」
「無いから安心してくれ。アイアンハーミットクラブなら解体したらいい素材がとれるって聞いたが」
「えと、白金貨二枚程度にはなるかと」
「じゃあそれでよろしく」
そうして解体工房にアイアンハーミットクラブを提供して、白金貨二枚を貰った。一応ヒュドラを提供したことで白金貨千枚の利益は証書のまま保存してあるが……ここで請求していいものか。ギルドも色んな冒険者に支払いをしているし、大量の白金貨を支払うわけにもいかないだろうし。そうすると証書はそのまま持っていた方がいいのか?
「へい! レイト氏! 今日はどこまでクリアしたんだ?」
「十二階層。まだまだ百階層までは遠いな」
「またまたー。十階層のフロアボスは倒したんだろ?」
「楽勝だったぞ」
「金も稼いだと」
まぁそうはなるんだが。
「わかったよ。好きなだけ飲め」
ギルドのバーのマスターに白金貨を一枚渡す。
「よっしゃー! 今日も飲むぞー! Sランク冒険者のレイト氏に栄光あれー!」
なんかこのままだとフロアボスをクリアするたびに酒をたかられそうなんだが。飲めや騒げやの宴会が発生し、俺はミルクを飲んで誤魔化した。相も変わらずジュリエットは酒をグビグビ飲んでいて、だが理性を失わない。
「レイト様~」
おっさんの姿ですり寄ってくるな。ちょっと恐怖だぞ。セルフミラージュの効果だとはわかっていても。
「今夜はグラディオと私とでしましょうね」
まぁヘルメス聖国にも定期的に顔を出す約束だ。グラディオとするのもそれは……な?




