第57話:百八財閥の令嬢
「レイト様をわたくしにください」
おまえは何を言っているんだ、という言葉がここまで合致することも珍しい。百八クレナイさんが俺の両親に言ったことを、俺たちは十全に吟味していた。ちなみに父親は血の気が引いている。何やら百八クレナイさんを恐れているらしい。恐い要素あるか?
マジマジと彼女を見る。ブラックシルクを思わせるサラサラの髪。肉付きのいい身体に、お顔も綺麗だ。それこそ庵宿区でスマホを弄っていたら五分おきにナンパされるだろう。
「それはまぁそれとして、それって求婚しているのか?」
「ええ、求婚しています。レイト様にはぜひ百八の家の婿養子に……」
なんかすっごい話が意外性のある方向に進んでいるが、それはそれとして。
「で、なんで父さんは青ざめているので?」
「バカ! お前! 教育不届きを責められるのは私だが……百八様を知らんのか!」
「知らん」
一言で切って捨てる。
「戦前から続く日本の三大財閥の一つだ。GHQでさえ手を出せなかったアンタッチャブル。逆らうだけで日本では生きていけなくなる、総理大臣より敵に回せない御仁です」
へー。つまり百八クレナイさんは、その百八財閥の令嬢で、つまり金持ちのお嬢さんというわけだ。こんなに可愛くて腰が細くて、その上お金持ちとなれば、それは引く手あまただろう。その彼女が俺に求婚している。
「どうか御義父様。わたくしとレイト様の結婚を認めてください。必ず幸せにしてみせます」
「と、百八様が仰ってるが……お前はどうなんだ?」
狼狽えるように矛先を俺に向ける父さん。
「えーと。間に合っているというかなんというか」
ジュリエットとグラディオとそう言うことはしているし。今更現実世界で結婚するメリットも無いし。骨は異世界に埋めるつもりだ。
「レイト様は外国で活動しているということですが……」
「ああ、まぁ。ジュリアンたちとはそこで出会ってな」
そうして百八クレナイさんがジュリアン、ジュリエット、グラディオを見て、自分の胸に手を当てる。ジュリアンはともかく、ジュリエットは爆乳だし、グラディオも巨乳だ。しかもどっちもあり得ないほどの美少女で、女子としての魅力にあふれている。
「お付き合いされているのですか?」
「イエスアイドゥー」
ジュリアンには後で嘘も方便と言い訳しておこう。
「ではわたくしとは愛人契約を!」
だからそう言うややこしいことはだな。
「猫耳と銀髪がそんなにいいんですかぁぁぁぁ」
「超最高だろ」
可愛いし綺麗だしで文句のつけようもない。
「では御義父様!」
「あ、はい……」
百八財閥がどれほど怖いのかはわからないが、おそらく反応を察するに、気分次第で辺根斗ローンが潰される程度のことはされるだろう。
「レイト様は海外活動をされていると仰っていますが……学歴は?」
「高校中退です……」
そこはすまん。親不孝ではあるが、異世界で生きていくのに学歴はいらん。
「ではこちらで高校卒業資格を買い取ります。その後匣大に入学させますがよろしいでしょうか?」
「は、匣大にですか?」
正確には匣庭大学。超エリートが集まる難関大学。偏差値がシャレになっていなくて、私立なので学費は高いが、卒業すれば就職先はより取り見取り。
「いや、しかしウチのレイトは海外活動をしているので大学に通う暇が」
「単位不問処置をとらせていただきます。私の叔母が理事をしているので無理が通るんです。親御さんとしてもレイト様には大学を卒業してほしいのでは?」
「それはそうですが」
これほど無理を通せば道理が引っ込むの実例はないだろう。
「卒業後は百八コンツェルンの二番目に大きい会社の社外取締役のポストを用意します。月に一度経営会議に出て会議室で座っているだけで年俸五億を確約しましょう」
詐欺の匂いがプンプンするんだが。
「レイト様。これでも日本にはとどまってはくれませんか?」
「無理っす」
俺は異世界で暮らしたい。
「とにかく高校卒業視覚と匣庭大学入学の件はお任せください。週に一度は日本に帰ってくるんですよね?」
「予定としてはそのつもり」
「ではわたくしに会いに来てください。レイト様を射止めて見せますわ」
「アニキ。アニキ。カレンちゃんはどうする?」
天地ユアセルフプロダクションのドル箱グラビアアイドル。一理カレン。彼女も俺に惚れていて、色々とちょっかいをかけてくる。今回は縁がなかったが。おそらく次の仕事でハルカはカレンに愚痴を言われるのだろう。俺と一緒できなかったことについて。トップアイドル一理カレン。財閥令嬢の百八クレナイ。なんというか日本で俺に惚れている女性も業が深いな。どっちも可愛いし、スタイルもいいので、抱くのはとてもそそるのだが。でもジュリエットとグラディオで満足している感はある。
「それから御義父様」
「はい。なんでしょう?」
「辺根斗ローンは非上場企業でしたわよね?」
「ええ、まぁ。特に上場するメリットも無いので……」
「辺根斗の家だけで株式を百パーセント握っている?」
「そう相成ります」
「ではその株式を買わせてください」
「仰っておられる意味が良く……」
「即金で一兆円。それで全株式を譲渡。いかがですか?」
「それをお嬢様であるクレナイ様が確約できるのですか?」
「できます。当主様にも否とは言わせません。なので辺根斗ローンには百八コンツェルンの傘下に入ってもらえないでしょうか?」
「有難いお話ではありますが……」
詐欺だった場合、色々と破滅する。百八コンツェルンが株式を百パーセント握れば、つまり辺根斗ローンは親会社の命令には逆らえない。社長を会社から追い出すこともできる。とはいえ一兆円は貰えるので、会社を追い出されても困りはしないのだが。
「百八コンツェルンから会社員を派遣します。給料は派遣したわたくしどもが出しますので御義父様は指示だけしてください。無料でこき使えるサラリーマンを提供しますわ。経理も法務も百八コンツェルンが担当しますし、御義父様が何もせずとも辺根斗ローンを運営する体制を作ります。働かずに即金で一兆円。のちの会社の運営もわたくしどもで。どうでしょう」
「有難いお話だとは思いますが……何故そこまで……」
「わたくしはレイト様に救われました。その恩返しです。あのまま死んでいれば、そこでわたくしの人生は終わっていたのです。それが今も続いている。であればわたくしは全霊を持ってレイト様を幸せにする義務があります。いいえ。違いますね。一人の女としてレイト様を愛してしまったので、尽くしたいのです。レイト様が幸福になるためなら惚れ切っているわたくしは労を惜しみません」
「レイト……」
「悪い。無理だ。海外活動は止められない」
俺は両手を上げて降参のポーズ。ジュリアンとジュリエットとダンジョンに挑むのは楽しいし、あっちはあっちでロマンがあるので、俺としても楽しみたい気持ちが存分にある。ドラゴンやエルフにも会ってみたいし。
「ではレイト様。お帰りになられた時はわたくしに連絡を。いつでもお待ちしておりますわ♡ ところで夜伽の件ですけど……」
ジュリエットとグラディオで間に合っています。南無三。




