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デブで無能と蔑まれた俺はアンノウンスキル【バリアフリー】で全てを手に入れる ~俺を蔑み虐げた王族と勇者は地獄を見るようです~  作者: 揚羽常時


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第56話:百八クレナイ


「さて、そんなわけで日本に来たわけなのだけれども」


 最近はもう慣れたものだ。次元壁バリアフリーでいつでも日本に帰れる。最近はちょっと異世界方面で奮闘していたし、たまにはね。グラディオも息抜きは必要だし、政務ばっかりやっていても肩がこるだろう。


「ヘルメス聖国はその後どうだ?」


「マテリアルアブソーバーの経済は大打撃ですけど、聖女としての務めもありますし。そっち方面では稼いでいますわよ?」


 病気やケガを治す代償に金をとる。まぁ順転エネルギーを無限に持っているグラディオだからできる芸当だ。


「さて、そうすっと……」


 今日は田楽の予定なのだが。相も変わらずハミルトニアンが仕事をしないので、どうにかして田楽の店まで行くしかない。行ったことのある場所なら距離バリアフリーでいつでも移動できるんだが。


「レイト様レイト様」


 ちなみに女子三人の服装は今どきの日本風。アイテムボックスに幾らでも服を入れてあって、好きに着ろと命令している。さすがに不衛生な異世界でお気に入りの服を着るのは気が引けるのか。あるいは休暇を楽しむためにあえてなのか。日本に転移する時だけ、彼女らは最新のファッションを着るようになった。特にグラディオは銀髪ロングなので黒髪が基本の日本では浮いている。まぁそれを言ってしまえば普通に猫耳を付けているジュリアンとジュリエットが何なんだって話ではあって。


「田楽田楽……」


 ドメインウォールを超えて、庵宿区の駅に現れたのはいいが、近くに田楽の店があるのかはちょっと疑問。スマホで検索する。


「レイト様……」


「どした? ジュリアン。かしこまって」


「俺、電車に乗ってみたい」


「電車か? まぁ別にいいが。車の方が早いぞ?」


「なんか……そそる」


 意外と鉄オタの素質があるのか? ジュリアンって。まぁ別に拒否することでもないし。乗りたいと言うなら乗せるのも一興。田楽の店に近い駅は……よし。


「じゃあ券売機で切符を買ってこい」


「けんばいき? きっぷ?」


 そうなるよな。日本円もアイテムボックスに入れてあるので、こういう時は何かと便利。


「アレが地図だ」


 とダイヤを指差す。もちろん一目見て理解しろとか無茶苦茶言うつもりは俺にはなくて。


「――駅までの切符を四枚な」


「文字は読めるが……なんだかなぁ」


 とりあえずそういうわけで、あたふたしながら俺の指導の下、切符を四枚。俺のスマホにも自動精算はついているが、ここは三人に合わせよう。吸い込まれるように券売機に紙幣が吸い込まれ、その後タッチパネルで操作させる。目をキラキラさせながらジュリアンは切符を買っていた。さて。そうして切符を通して駅構内へ。その時にも一悶着あったが、ソレは良しとして。


「この線路って奴で電車が動くのか」


 ジュリアンが「へー。ほー」と物珍し気に線路を見ていた。まさに上京してきた田舎者だが、事実その通りだしな。他のプラットホームに電車が止まって人が出入りしているところを見て感動しているジュリアンだった。こういうところは年相応で可愛い。


「あと気を付けろよ。そろそろ電車くるから」


「乗れるのか?」


 まぁ切符買っておいて乗れませんとか言われたら日鉄を告訴するが。そう思って電車を待ち、そのまま電車が来るとジュリアンが目を光らせた。電車はそのまま駅まで進み……。


「キャン!」


 俺の隣でたたずんでいた知らない女の子がプラットホームから飛び出して線路へと転がり落ちた。


「ッッッ!」


 ゾクゾクゾクッと悪寒が奔る。電車はブレーキをかけているとはいえ、それでも大質量が相応の速さで突っ込めば、女子がどうなるかなど考えるまでもなく。すぐそこまで電車は迫っている。ドクンと心臓が早く鼓動を打った。人間の時間体験は心臓が行っているらしい。その心臓からのシグナルが脳で加速し、時が止まったような感覚を俺は覚える。瞬間、バリアフリーが動いていた。


「――――――――」


 プラットホーム全員の悲鳴。あわや轢かれかけた女子。そしてその女子を突き飛ばした中年の男。全員の驚きの中で。


「…………ふう」


 女子をお姫様抱っこで抱えたまま、線路と線路の間に立っている俺。血は出ていないし、誰もケガをしていない。電車を運転していた車掌さんもあわをくって俺たちを心配したが、一応こうして俺も女子も無事だ。そのことの車掌さんが胸をなでおろす。


「えーと……え?」


 で、俺に抱きしめられている女子が真っ赤な顔で俺を見ている。


「で、そっちはどうだ?」


「捕まえてますよー」


 修羅疾患ジュラシックでフィジカルを強化させたジュリアンが女子を線路に突き飛ばした男を捕まえていた。


「離せ! クソ! 余計な事しやがって!」


 中年男性が何故女子を突き飛ばしたのか。そこから事件の匂いがするが、とりあえずはまぁ誰もケガしなかったのでめでたし、になるのか?


「えーと。百八クレナイ……さん?」


 で、鉄道警察が出張ってきて、聴取を受ける羽目になったが、こうなると電車に乗ると言うのはちょっと遠くなって。だがここで逃げても公権力の怒りを買うだろう。


「~~~~♪」


 その助けた女子と言えば、ニッコニコの笑顔で俺の腕に抱き着いていた。まるで俺にベタ惚れでもしたかのような……というか、その通りなのだろう。そこを誤解するほど俺も鈍感ではないが。ちょっと前までキモデブだったことを考えれば、まぁイケメンになって嬉しい気持ちは確かにあって。


「辺根斗レイト様と仰るのですね!」


 で、助けた俺の名前を知って、晴れやかな笑顔で彼女、百八クレナイさんは俺を抱きしめた。え? マジで惚れられている?


「あらあら」


 分かっているわ、とでも言わんばかりのジュリエットの見解だった。ちなみに捕まった中年の男は元サラリーマンだったらしい。後で知ったが百八クレナイの兄が社長を勤める会社で横領をしてクビにされ、逆恨みでクレナイを線路に突き飛ばした、と自供したらしい。


「レイト様。わたくしは貴方様に命を救われましたわ♡ つまりこれから起こる幸福も不幸も、全てはレイト様を前提に成り立つということで……」


「何が言いたいかはっきり言ってくれ」


「お礼をさせてください!」


「じゃあ田楽食いたい」


「お任せを! 百八の力を使って、最も美味しい近場の田楽を!」


 そうして百八クレナイさんは俺たちを田楽に連れて行ってくれた。もちろんジュリアンの希望もあって近くの駅までは電車で移動。その後、俺とジュリアンとジュリエットとグラディオ……にプラスすること百八クレナイさんを十分乗せれる大きな車が駅前に止まっていて。その車に乗って田楽を提供する店へ。


「辺根斗……辺根斗……」


 それでスマホを使って他己サーチをする百八クレナイさん。あっさりと名前は辺根斗ローンに突き当たった。


「これですか!?」


「それです」


 ちょっと規模の大きい消費者金融。それ以上でも以下でもなく。


「ふむふむ。なるほど。ということは……」


 ちょっと不気味な百八クレナイさん。


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