第53話:懐かれたレイト
「アニキ! 今日はよろしくっす!」
何をよろしくかは、まぁわかるが。エイテル庭国のホテルで一泊して、それから冒険者ギルドの前で俺はスレイブと待ち合わせをしていた。
「ジュリアンとジュリエットもよろしくっす!」
「おう。頑張ろうぜ」
「あらあら」
「荷物持ちくらいはできるっすよ?」
アイテムボックスはあるので問題なし。
「さーてそうすると」
四人でパーティーを組んでダークブルク夜城ダンジョンに挑戦するのだが。ギルドに入ると冒険者たちが俺たちを見てちょっと驚き、それからクスクスと笑った。何か笑われるようなことをしただろうか?
「おい。あんちゃん。その足手纏いを連れてダンジョン探索か?」
冒険者の一人が侮蔑の視線で俺を見て、そう挑発してくる。
「ん? ああ。そのつもりだが?」
「やめとけやめとけ。ダークブルク夜城ダンジョンはそんな簡単なダンジョンじゃねぇ。そこの腰巾着をあんちゃんが百階層に連れて行けるわけないだろ?」
「かもな」
別に否定はしない。相手から見れば俺は若い男だし、侮られる説得力も十分にある。
「Aランクでも深層に潜れるか怪しいレベルだ。口車に乗って挑戦すると死ぬぜ?」
死、か。確かにその可能性はあるかもなー。
「アニキ……拙は迷惑っすか?」
そういうことを言いたいわけじゃないが。
「じゃ、浅層でボコボコにされてくるよ」
俺がSランクであることを開示してもしょうがないし。ここは初心者冒険者を装っておこう。
「命が大事だからな。そこの腰巾着にそそのかされて下層まで行かないようにな」
真摯な忠告。先輩冒険者として、一応言っておきたかったのだろう。気持ちはすっごく有難い。
「というわけでダークブルク夜城ダンジョンまでお願いします」
中心にマテリアルアブソーバーを設置して、魔法陣を展開している一室。その魔法陣の中に立って、魔術を起動してもらう。一瞬で俺たちはダークブルク夜城ダンジョンに転移した。
「ほー」
転移した先は城の内部。入口のエントランスホール。そこから多数のドアが見えて、印象としては普通に城って感じ。豪奢さではヘルメス聖国の城には敵わないが、それでも城と呼べる程度には立派な建物の中。最初に現れたモンスターはゴブリン。城の内部を徘徊しており、俺たちを見つけると襲ってきた。
「GIAAA!」
集団で襲ってくるゴブリンに。
「あわわわ! どうするっすかアニキ!」
俺の腰に抱き着いて慌てだすスレイブ。そこまで怖いならついてくるなよ、と思ったが、それもツッコミは野暮なのだろう。ミラークールエフェクト。
「グラビティリブル」
コンキスタドームを展開して周囲にクオリアを展開。意識そのものを展開して、接触距離にゴブリンを置く。同時に強大な重力を相手に与えて地面に押し潰す。重力フリーをミラークールエフェクトで逆転し、重力を発生させたわけだが。
「じゃ、ジュリエット。よろしく」
「ええ、承りました」
重力で身動きを取れないゴブリンたちを黄金に変換していくジュリエット。その黄金をアイテムボックスに詰めていく。金はいくらあっても困らないし、浅層くらいなら敵も弱いから侵食触診で財産に変えて行こう。
「な、何してるんすか?」
恐る恐る、と言った様子でスレイブがジュリエットのスキルについて言及する。
「特に何も」
言う必要のないことは言わなくていい。それが俺の判断。
「っていうかダークブルク夜城ダンジョンはどこにポータルがあるんだ?」
「基本玉座の間っすね。迷路みたいに入り組んではいるっすけど、玉座の間に辿り着けば、その階層はクリアっす。とは言っても扉が多いんで、ハズレを何度も引くことになるんすけど」
なるほどね。間違いの扉を引けば、そこがモンスタールームなわけだ。的確に扉を開けて、通路を通り、そうして玉座の間まで。
「なら行くかぁ」
コンキスタドームで、城の内部については把握している。ここは最短ルートで行こう。
ガチャリ。ガチャリ。ガチャリ。
数多ある扉を選んで、そのまま玉座の間へ。
「あのー。アニキ? なんで正解の扉を判別できるんすか?」
「秘密だ」
別に秘密にする必要もないがまぁここは情報保護と行こう。そうして玉座の間。王様はいなかったが代わりにジェネラルゴブリンがいた。大体Dランクの冒険者が相手をするモンスターだ。それが一階層にいるのだから、そりゃダークブルク夜城ダンジョンがどれだけ理不尽はわかるようなもの。ジェネラルゴブリンはゴブリンの二倍程度の大きさ。手に持っているのは斧だが、それもボロボロの奴。とはいえだ。
「ジュリエット。しくよろ」
「承りましたわ」
そうしてジュリエットが修羅疾患を展開。あまりの速さでジェネラルゴブリンに接触しタッチタイピング。大きなゴブリンを黄金に変えてしまった。
「さて、このままサクサク行くか」
「マジで強いんすね。アニキたち……」
そうして一日で二階層を踏破して、そこで記録を取って冒険者ギルドへ戻る。
「今日はここまで。じゃあ戻るか」
そんなわけでギルドに帰還。
「はー。これだとマジで百階層行けないっすか?」
「連れて行ってやるよ。俺の本意ではないがな」
「とか言いつつレイト様はしっかりナビしてくれたぜ?」
「あらあら」
そうして俺のツンデレ説が流れてしまい、不本意ながら、俺が「か、勘違いしないでよね! 別にスレイブのことを思ってダンジョン攻略しているわけじゃないんだからね!」みたいなキャラにされてしまった。
「じゃあ換金するか」
黄金や白金を受付に提出して、その純度を調べられ、金に換えられる。
「あの、ダンジョンの二階層まで攻略したんですよね? どこに黄金や白金が?」
受付嬢が驚いている。
「黙秘で」
仮に宝箱があっても、浅層で黄金などが手に入るはずもなく。レアアイテムとかになると中層以降だろう。まぁなので浅層で稼ぐにはジュリエットのタッチタイピングが必要なわけだが。そうして換金を終えると。
「君」
何やら爽やかボイスで俺を呼ぶ声。何か、と声の主を見ると、見たことのあるフェイス。たしかスレイブを蔑ろにしていたとある冒険者で。
「えーと。何か?」
「そこの腰巾着に情けをかけるのは止めたまえ」
いきなり無茶苦茶なことを言われた。
「えーと。何故?」
「そこの腰巾着はね。甘い言葉で冒険者をダークブルク夜城ダンジョンに誘って、攻略を任せて、パーティーメンバーがピンチになったら全員見捨てて逃げ帰ってくるようなゲスだよ。即刻メンバーから排除した方がいい」
なんか言われてるぞ。スレイブ。言い返さなくていいのか?




