第52話:スレイブとの出会い
「ほー……」
日本から異世界へとんぼ返り。グラディオは普通に執務があるのでヘルメス聖国に置いてきて。俺たちはエイテル庭国の王都の検問の列に並んでいた。身分の証明と入都における関税。身分は証明できなくても構いはしないが、一応冒険者カードがあるので、そこはなんとかなって。
「じゃあギルドに行ってみるか」
「だぜ」
「あらあら」
ジュリアンとジュリエットも特に反論はないらしく。三人で冒険者ギルドに顔を出す。
「相も変わらずというか」
ザワザワと騒めく様はヘルメス聖国のギルドと変わらず。ならず者の集まり故か。昼からアルコールを摂取している輩までいる。まぁ別に昼間に酒を飲むななんて法律はないんだろうけども。俺は頬を人差し指で掻いて、そのまま巻き込まれませんようにと願いつつ、ギルドの受付に向かう。
「すみません」
「あ、はい。何でしょうか?」
「こちらにダンジョンがあると聞いたんですが」
エイテル庭国のダンジョンに挑戦してみたい。そう思っての発言だった。
「冒険者カードは持っていますか?」
「あ、はい」
言われて差し出す。俺の冒険者カードを見て、ランクの項目へ。そうして目を丸くした後、もう一度俺を見る。まぁこうなるだろうなとは思っていて。Sランク冒険者なのだ。ソレは注目もされる。だが受付嬢は驚いたのは最初だけで、その後はすまし顔でダンジョンを案内してくれた。いや、案内って言っても、これこれこういうダンジョンがありますよ、みたいな。
「こちらを差し上げます」
すでに書類にもダンジョンのことは載っており。攻略情報も開示されていた。こういうところはギルドも太っ腹だと思うが、まぁ冒険者に死なれて困るのがギルドなので、そこは仕事の内なのだろう。
「じゃあまた後で」
とりあえずのダンジョン情報に目を通し、それから飯でも食うか、とギルドから外に出て、飯屋を探す。さすがに王都だけあって面積も広く、ついでに景観も整っていて、歩いていて心地いい。そのまま飯屋を探して、あてどもなく歩いて。
「お願いするっす! どうか! どうか拙とダンジョンに!」
真摯な願いが聞こえてきた。見えたのは背のちっこい女の子で、九十度に背を折って、とある冒険者パーティーに頼み込んでいた。それがどういう意味を持つのかは、まぁ俺も分からないではないが。ロリ系の女の子は頭から羊の角が生えていて、なんとなく悪魔っぽい印象を受けた。さすが異世界。何でもありだぜ。
「だからダークブルク夜城ダンジョンには潜らないって。あそこの危険性は類を見ないからな」
ダークブルク夜城ダンジョン。改めて書類を見ると、そういうダンジョンもあった。つまり目の前のロリ少女はそのダンジョンに潜りたい。だが一人では無理なのでパーティーを集めようとしている……というのはわかるのだが。
「俺らSランクパーティー閃光の狭間がなんでテメェの言うことをきかなきゃならないんだ? こっちに得することが無いじゃねーか」
「百階層まで潜ってくれたらお礼するっすから!」
「話にならねぇ。ウォールさんがそんな話受けるわけないだろ」
ドンッと冒険者の一人が彼女を突き飛ばした。体重が軽いのだろう。思ったより派手に飛ばされて、そのままよろけて俺にぶつかってくる。
「あ、すんませんっす」
いや、それは構わんが。
「いい加減しつこいんだよ。そんなに夜城ダンジョンに潜りたいなら一人で潜れ!」
無茶苦茶なことを言っているようで、だが間違っているわけでもない。パーティーが作れないなら一人で潜るしかないだろう。彼女が強そうには見えないし、強い冒険者を探すのは、たしかに事情があるのだろうけど。
「で、何かあったのか?」
突き飛ばされたロリ少女を嘲笑いながら消えていくSランクパーティーのメンバーに、悔しそうに拳を握り、だが殴りかかっても返り討ちだろう。なにより御機嫌を取っている相手に悪感情を示すわけにもいかず。
「飯でも食わねえ?」
ぶつかったのもこの際の縁だ。俺はロリ少女を飯に誘った。
「うっす。さっきはすみません。ぶつかってしまって」
彼女はスレイブと名乗った。それから彼女の案内でオススメの店を紹介してもらい、俺たちはこうして飯を食っている。山椒を油をたっぷり使った中華系の料理屋だったが、そこは異世界なので微妙に味が違う。どちらが美味しいとか比べる気は毛頭ないが。
「ソレは構わないけどな。こうして美味しい店を紹介してもらったし」
油たっぷりの飯を食いながら、俺は結構満足していた。
「それよりパーティーメンバーを探しているのか?」
「う、うっす」
「そっかー。頑張れよ」
「本当に飯奢ってもらって良かったんすか?」
「飯屋への案内料だとでも思ってくれ。金はあるし」
「もしかして冒険者っすか?」
「まぁな」
「ランクは?」
「…………」
俺はジュリアンとジュリエットに視線を向ける。グッとジュリアンがサムズアップして、ジュリエットは未亡人らしい花のある笑顔で俺を見ていた。
「…………Sランク」
「マジっすか!?」
ガタリッと椅子を蹴飛ばして立ち上がり、スレイブが驚く。
「ほい」
冒険者のギルドカードを見せて、正真正銘のSランクであることを証明する。偽証も出来ないわけではないが、ギルドが厳しく取り締まっているので事象はともあれカードでランク詐称はバカのすることだ。
「アニキ!」
ハルカと同じ呼び方でスレイブは俺を呼び、それから目をキラキラさせて俺を見つめた。
「拙と一緒にダークブルク夜城ダンジョンに潜ってくれないっすか!?」
「それは百階層まで……ってことか?」
「うっす! 百階層まで潜ってくれたら、拙は一生アニキの奴隷になるっす!」
「奴隷はもういるけどな」
ジュリアンとジュリエットに視線を向ける。二人はニコニコと微笑んでいた。
「ちなみにどこのダンジョンをクリアしたっすか?」
「セイントブルク神殿ダンジョン」
「あの魔王がいるダンジョンを!?」
いたのは聖女だけどな。別にそれを弁解する理由も無いわけで。
「アニキ! 拙を百階層に連れてって!」
ミナミちゃんじゃないんだからよ。甲子園に連れて行くのとはわけが違うぞ。
「お願いするっす」
「多数決。スレイブをダークブルク夜城ダンジョンに連れて行くべきかどうか。賛成の者は挙手を」
俺は手を挙げなかったがジュリアンとジュリエットは挙手した。クソ。裏切り者どもめ。
「いいじゃないですか。連れて行ってあげましょうよ」
「レイト様なら足手まといの一人くらい問題じゃないだろ?」
足手まといは確定なのな。それには俺も同意だが。
「じゃあ行くか? ダークブルク夜城ダンジョン」
「にへへ! 一生感謝するっす! アニキ!」
アニキって呼ばれるのは……まぁ悪い気はしないんだが。




