第50話:ロードランナーと重力と
重力フリー。それによってどんな重いモノもフワフワ浮かせることができるわけだが。そのまませっかく付けていただいた車輪には悪いがロードランナーが運んだのは質量そのまま浮いた車体だった。決して引っ張る重さが軽くなるわけではないが、ロードランナーの速度で走ると、地面の揺れで酔いが回る可能性もある。と聞かされたので、じゃあ揺れが起きなければいいんだろう、というわけで車体を浮かせたわけだ。ちなみにハミルトニアンの推理大説のおかげでもある。
『ちなみにミラークールエフェクトを使えばグラビティリブル……つまり触れている相手に高重力をかけることも出来るよー?』
相も変わらずバリアフリーの応用性の広さには感嘆とするほかない。
「快適ですな。まさかここまで快適な旅ができるとは」
ロードランナーは国家内部でも運営されており、エイテル庭国では国営化しているらしい。自分で馬車を持って行き来するのも一つの手だが、国営化した車両を借りて運んでもらうのも商人としては一つの在り方なのだろう。
「レイト様……でよろしかったでしょうか?」
「ん? ああ」
商人がゴマをすって話しかけてきた。相乗りの段階で名乗りはしていたが、四方山話で俺がどういう人間かということになると、Sランク冒険者ということは自然と口から出た。
「私は名をマースルと申します。こうして同車できたのも何かの縁。是非ともご贔屓に」
「ご贔屓と言われてもな……」
「例えば剣や盾。装備なども取り揃えておりますぞ」
「生憎と素手だ。防御能力も持っているしな」
「ソレは残念です。レイト様が扱ってくだされば宣伝になりましたのに」
商魂は逞しいらしい。
「そうだな。じゃあポーションとか売ってるか?」
「あ、ポーションをお求めですか。是非に是非に。錬金術師が調合したとっておきがありますぞ」
ちなみに、そういうのは必要ない。グラディオの順転エネルギーを豊富に保有したアルカナポーションを持っているし、アイツの順転エネルギーの快癒性は類を見ないので、他のポーションなんて買っても意味は無いのだが。まぁそこは商人に付き合うしかないだろう。いくつかポーションを受け取って、値段相応の金貨を支払う。さすがにグラディオのソレには劣るが、回復薬の相場は高い。良心的な値段でも金貨が必要になる程度には。もちろん白金貨など見せるわけにはいかないので、アイテムボックスには銅貨から金貨まで豊富に入っている。ヘルメス聖国の大商人に両替をお願いして、細かいお金を用意してもらったのだ。
「ありがとうございますレイト様。お望みのものがあれば、このマースルにどうぞお話を」
「ああ、頼りにさせてもらうよ」
Sランク冒険者ともなれば、つまりダンジョンを一つ以上制覇した証。八十階層や九十階層のボスモンスターのドロップアイテムは白金貨のレベルで売れる。つまり商人にとってSランク冒険者は絶好の顧客なのだ。
「ヘルメス聖国のダンジョンを制覇したのですよね?」
「そうなる……のか?」
正確にはダンジョンマスターを倒していないので虚偽の可能性もないではない。まぁ自我を失ったグラディオ相手の互角に戦っただけでも賞賛してほしい。
「それで次はエイテル庭国の……」
ちなみにダンジョンは各地に幾つかあり、その全てを冒険者ギルドが管轄している。これに関しては国さえ口出しが出来ず。ダンジョンを国が徴収しようとすると、ギルドの報復を招くらしい。軍隊があるからいいんじゃねえのとは思うが、冒険者による犯罪抑止力は結構バカに出来ないらしく。国の防衛にあてる兵士をいちいち湧いて出る盗賊討伐に回すのも非効率らしく。何より商人が冒険者を求めるので、冒険者を蔑ろにすると経済が滞り悲惨な目に、ということのようだ。
ヘルメス聖国の冒険者ギルドにも他に管轄をしているダンジョンはあるが、そっちについてはあまり興味も引かれなかった。とりあえずグラディオを解放することを目的にしていたんだし、セイントブルク神殿ダンジョンさえ攻略できれば、それでいい。それより俺はファンタジー世界を堪能したい。というわけで国を出て旅をしており。今はこうしてロードランナー車でエイテル庭国の王都に向かっているわけだが。
ロードランナー車のいいところは盗賊に絡まれないことだ。止めようにも強靭な鱗で刃物も矢も弾き、脅しの声をかける前に駆け抜けてしまう。なのでロードランナー車の安全性を考えれば乗車の運賃がお高めになるのも致し方ない事。まぁ俺にははした金だが。
「そのー。この車体を浮かせているのは?」
「俺のスキル」
重力フリーだ。
「レイト様はすごいのですね」
止めて。照れる。
「そちらのライカンスロープは……」
「俺の奴隷」
とジュリアンとジュリエットを紹介。
「よろしくお願いしますね」
ムサいおっさんがニコッと微笑んで挨拶する。もちろんセルフミラージュをかけているジュリエット。ちなみにジュリアンは寝ている。警戒はジュリエットがしているし、俺も起きているので寝てていいぞ、というとあっさり眠りこけた。
「きっとお強いのでしょうね」
「レイト様ほどではありませんよ」
ニコニコ微笑んでジュリエットは言うが、血在魔法とアンノウンスキルを持っている時点で、こいつもSランク冒険者相応だろう。少なくともニュートリノ変換を防御とみなしてバリアフリーで無効化できるから俺が勝てるだけで、普通はジュリエットに傷の一つも付けられない。
「あなたは武器や防具は使わないのですか?」
「素手で十分ですし」
猫耳のおっさん、ジュリエットはそう言う。中々マッチョな体型だが、それも全て虚像に過ぎないという。
「残念です。あ、食料とか買いますか? アイテムボックスに色々揃っておりますぞ」
「食事に関しては困っていませんね」
まぁ腹が減ったら飯を取り出せばいいからな。作り置きの料理がアイテムボックスに入っている。
「レイト様。お困りの際は是非ともこのマースルに……」
「ああ、覚えておくよ」
王都についたら忘れそうだけど。とか言っている内に王都についてしまった。ロードランナーで二日。王都の検問はあるが、まずはヘルメス聖国だな。二日に一度は顔を出すと約束しているし。
「それにそろそろ日本食を食いたい」
飯屋に行けばそこそこの料理は食えるが、日本人の俺は日本料理も食いたいのだ。そういうわけでグラディオを誘って日本に戻るか。どうせ日曜日だしな。
「じゃあな。マースル。会えてよかったよ」
「どこか行かれるのですか?」
「ちょっとな」
それだけ言って、ジュリアンとジュリエットを連れてヘルメス聖国へ。それからグラディオを回収して日本へ。次元壁フリー。その後に距離フリー。
「うっす。父さん。母さん」
何故ハミルトニアンが毎度毎度庵宿区の駅に転移するのかはわからないが、その後でワープで実家に戻るので無問題。
ハミルトニアン?
『え、エッチなことですか?』
違います。何か食いたいものはあるか?
『ウナギ!』
ウナギか。それもいいな。異世界では食えないし。
「レイト。元気でやってるか?」
「健康には気を付けるのよ」
父と母の心配も有難いが、バリアフリーがあるだけで結構便利なんだよなぁ。




