第5話:封印魔術書庫
『パラパラーって目を通すだけでいいよ』
言われて本を適当にめくって、目を通して本棚に戻す。この書庫は封印されて厳重に管理されていたらしいが、俺のバリアフリーにまでは対応してなかったらしい。そこは南無三ということで。適当にパラ見して、魔術書を読んでいるというか視覚情報に変換しているのだが、ハミルトニアンにはそれでいいらしい。
『魔術書だねー。それも結構高位の』
ますます俺には関係ないように思うんだが……。魔力Eランクに何を期待している。
『あー。お兄ちゃんは別世界から召喚されたんだもんね。魔術についても知らないか』
知っていることがあれば教えろ。
『え、エッチなことですか?』
いや、魔術について。
『まず魔力量はAからEまであるけど、本質的に使えない魔術っていうのは存在しないの』
そうなのか?
『魔術は世界に刻まれた術式を詠唱と魔力で励起させることで起こす代物。つまり魔力が無くても詠唱があれば術式を励起させることは可能なんだよ。魔術にとって詠唱時間と魔力量はトレードオフ。魔力量が多いっていうのは短い呪文で魔術を使えますって言う指標でしかない。つまりEランクのお兄ちゃんの魔力でも長い詠唱を唱えれば禁忌魔術だって使用可能ってこと。あくまで極論を言えば』
ちなみに禁忌魔術を使うには魔力Eランクの俺はどれだけ詠唱する必要があるんだ?
『一年くらいかなー?』
できるかボケ。
『ふっふっふ。そこでハミルちゃんの出番なんですよー』
その気持ち悪い笑みを止めろ。脳内でされると違和感が抜群なんだよ。
『魔術には術式を励起させるスペルと、行使を決定するコールがあるの。それでハミルちゃんが先にスペルだけ唱えておくから、お兄ちゃんはコールを唱えるだけでいいようになるってわけ』
そういう裏技もあるのか。
『Eランクの魔術ならコールだけでいいけど、Aランクなら一週間は欲しいなー』
禁忌魔術は一年って言ってなかったか?
『アレはほら。効果が強すぎるから。励起させるだけでもすっごい大変なの。多分Aランクの魔術師でも一ヶ月はいるかなー』
つまり単純計算でAランクはEランクの十二倍の魔力を持っているということか?
『そんな単純な計算でもないよ。魔術特性にも左右されるしね。炎系が得意だったり構築系が得意だったり。プラスとマイナスのどっちが得意かでも話は変わってくるし』
ちなみに俺は?
『ほぼ才能無し! だからハミルちゃんが代わりに詠唱してあげるって話。何と名付けるべきか。コールをしないでスペルだけを先に終わらせて待機させておく。コーディング詠唱。ビフォーコンパイラ詠唱。うーん。しっくりこないなー。そうだ。画竜点睛欠如詠唱。これで行こう! もちろん画竜点睛欠如詠唱と書いてブラインド・ドラグ・スペリングって読むんだよ!』
画竜点睛欠如詠唱……ね。要するに竜の絵だけ先に書いておいて、瞳を入れる……つまりコールが俺の役目か。
『まぁ今からハミルちゃんがハミルトニアンの演算能力をフル活用してここで見た魔術の術式を全部励起させる詠唱に入るから。C級くらいなら明日から使えるようになるよ』
そのC級魔術が何なのかもよく分かっていないのだが。とりあえず封印魔術書庫の本を全部目を通すか。どうせ封印処置されているから人が入ってくるわけも無いし。久方ぶりにぐっすり眠れるかもな。腹が減ったら食糧庫に忍び込んで飯を食えばいいんだし。
「コンキスタドーム」
そうしてクオリア領域を広げる。
「バカな! どうやって!」
「いいから探せ! ルシア様の御機嫌を損ねたら!」
「あのデブリアン! どこに行きやがった!」
城内は大騒ぎらしい。俺が逃げたことが驚愕らしく。まぁ普通は逃げられないよな。ドタバタと城内を駆けずり回っているが、それでも俺を見つけられない。俺はスキルをノーマル級のピッキングだと詐称していたので、その能力で牢屋の鍵を開け脱出したと思われているのだろう。実際にはちょっと違うのだが。
「このクソどもが! なんとしてもデブリアンを見つけろ! 出来なかった場合はわかってるよなぁぁ?」
勇者(笑)の矢佐間も怒気を発して兵士たちを奮起させていたが、そもそも封印書庫に入れるわけも無し。ここの封印はハミルトニアン曰く、『鍵をかけた車の鍵が車内にある状況』らしく、そもそも外側から空けるには相応の理屈がいるらしい。それこそ禁忌魔術で封印を破るとかそういうことが求められるとのこと。
「ここまでして見つからないってことは」
「城外に逃げたか?」
「城に隠れるにも限度があるぞ」
「まさか封印魔術書庫に?」
「いや、魔力Eランクが入れるわけねーだろ」
入れているんだがな。さらにパラパラと魔術書をめくる。何が書かれているか分からないが、それは俺だけらしい。
『ほえー。へー。ほほー』
ハミルトニアンにはわかるらしい。もう画竜点睛欠如詠唱はしているのか?
『術式を覚えた端から詠唱しているよー。今時点でD級までは並列詠唱が終わってる。明日にはC級は網羅できる感じ』
なぁハミルトニアン。
『え、エッチなことですか?』
違います。お前ってかなりチートじゃないか?
『そりゃこの世界の演算を全て担う存在だよ? お兄ちゃんだけじゃなく全ての人が追い求める真理だよ?』
その世界の真理と接続しているわけか。それもなんだかなー。天啓検閲規律ねー。
「これで最後か」
そうして最後の禁書を読んで、それからここで一睡する。流石に地下牢ではぐっすり眠れなかったが。ここは静かでよく眠れそうだ。問題は矢佐間たちがここに立ち入った場合だが。
『コンキスタドームを展開していれば、危険があったらハミルちゃんがお兄ちゃんのこと起こしてあげる』
だったらぐっすり眠れるな。お前は寝なくていいのか?
『お、お兄ちゃんと?』
いや、なんか俺の脳内でゴチャゴチャやってるけど、休憩は必要ないのかなって。
『ないでーす』
じゃあ魔術の詠唱お願いな?
『一週間貰えればAランク魔術も網羅しておくから』
禁忌魔術は?
『それは一ヶ月ください』
一年って言ってなかったか?
『ハミルトニアンの演算能力ならいくらか短縮できるのよー』
便利だな。ハミルトニアン。アンノウンスキルであるバリアフリーの功績と言うべきか。
『なわけで、後はのらりくらりしましょ』
俺はヘルメス聖国から追われているんじゃないか?
『そこも大丈夫。ハミルちゃんにいい考えがある』
それ、俺の世界では失敗フラグなんだが。あくまでネットのネタとしては、だが。
『要するにストレンジャーになればいいんだよ』
放浪者?
『ボヘミアンでもいいよ?』
あんまり変わらんな。
『とにかく大丈夫! ハミルちゃんにはお兄ちゃんを助ける最大の手段がある!』
まぁ手段が無いと言われるよりマシか。どっちにせよハミルトニアンの指示には従った方が賢いだろうし。じゃあ今日のところはおやすみなさい。




