第47話:後始末《ラストレーター》
「じゃんけんぽん!」
十回目のじゃんけん。そうして俺はジュリアンに十連敗した。
「わかった? 俺のスキル?」
って言ってるが、どう思う?
『え、エッチなことですか?』
だから違うっての。ジュリアンのスキルについてだよ。
『性質としてはグラディオのディレクターズカッターと同質のソレだね。有ったことを無かったことにする。ただその上で、ジュリアンのスキルは今現在ではなく原因まで遡って、そこから結論をやり直している』
えーと。つまり。
『現実として出た結論を加味して、過去にそれをやり直すことで決定される世界の結論を変更する。まぁ言ってしまえば後出しじゃんけんだね。あの時こうしておけばよかった……を実現する』
それでさっきから俺はジュリアンとのジャンケンに連敗しているのか。
無敵じゃないか? それって。
『まぁ最強の一角には数えられるだろうね。その上で血在魔法の修羅疾患まであるってんだから、チートもいいところだと思うよ?』
バリアフリーとどっちが強い?
『それはバリアフリー』
あ、そうなのね。
『なので後出しジャンケンを可能とするアンノウンスキル。ハミルちゃんはこれを後始末と呼称したい』
始まりから終わりまでを後から改竄するが故に後始末。まぁたしかに的を得たネーミングだ。
「というわけでこれからジュリアンのスキルは後始末と呼ぶことにする」
「後始末かぁ。確かにそんな感じだぞ」
「こーら。レイト様にタメ口をきかない」
ジュリエットがそう諫めるが。
「ああ、いい。むしろタメ口の方が安心する」
「しかしレイト様……」
「俺がいいって言ってるんだ。大丈夫だって」
そうして、えっちらおっちら馬車の旅を続ける。ヘルメス聖国から出立する商人の馬車に乗って、隣のエイテル庭国に向かっていた。距離フリーで行けんのか、という話ではあるが、そもそも俺がエイテル庭国を知らないし、俺が知らないイコールでハミルトニアンの興味が惹かれず、結果馬車でまったり旅をするしか無いわけだった。俺とジュリアンとジュリエットで馬車旅をしている。グラディオはヘルメス聖国で国王の仕事があるのでお留守番。それでも距離フリーで二日に一回は帰ることを約束しており、まぁほら、グラディオも溜め込むものが色々あるのでゴニョゴニョ。ジュリエットともしているが、グラディオはグラディオでそのー……な?
「とすると、あとは」
エイテル庭国に向かうだけ、と思っていたのだが、馬車のウマがいなないた。
「?」
「盗賊だぞ」
あっさりとジュリアンが言った。盗賊かー。そう言うのも存在するのな。さすがファンタジーって感じだが。
「降りてこい!」
その盗賊が脅して、馬車の乗員に声をかける。まぁ降りるのはいいんだが。
「ちっ。女の一人もいねーのかよ」
あからさまにがっかりして、盗賊の一人が舌打ちした。まぁ俺とジュリアンは男だし、ジュリエットはセルフミラージュでおっさんになっているのだ。
「今日な真似はするなよ。場合によっては人が死ぬぞ」
脅しているつもりなのだろうが、まぁ意見は正鵠を射ている。
「ぼ、冒険者様……」
馬車で商品を運んでいた商人にしてみれば、ここで商品を盗賊に奪われるのは本意ではないのだろう。そのために俺たちに金を払って護衛を頼んだのだから。しゃーない。
「エレクトキシン」
これが魔物の襲撃じゃなくて助かった。人間を相手にするなら幾らでも無力化できる。コンキスタドームでクオリアを相手に接触させて、スキルであるバリアフリーを適応。エレクトキシンと呼ばれるナトリウムチャネルを全開放するスキルの毒で筋肉を痙攣させる。結果、盗賊全員動けなくなった。さすがに殺すのは忍びないので手足だけを痙攣させる。
「さすがレイト様」
ほーっと感心するようなジュリエット。
「まぁ生物相手なら負けは無いぞ」
これがゴーレムだったりアンデッドだったりだと話は別だが。
『別じゃないよ。相手にならないから』
そうなのか?
『言ったでしょ? ハミルちゃんがアンノウンスキルの推理大説を習得したんだから。無制限にバリアフリー使えるよ?』
例えば?
『盗賊の一人に触れて電磁障壁フリーって言ってみて?』
言われるがままに言ってみる。
「電磁障壁フリー」
そう言うと、麻痺して動けない盗賊の一人が、圧縮されるように体積を縮めて、一握りの金塊になった。あのー。これって。
『クーロン障壁をバリアとみなして、それをフリーにする。つまり量子トンネル効果を利用して核融合を起こして人体を黄金に変えたの』
えー…………。
無茶苦茶と言えばこれ以上の無茶苦茶は無いわけだが。金は鉄より重いので、核融合をする際にはエネルギーは吸収の方向に動く。つまり水素からヘリウムに核融合するみたいに質量がエネルギーに変換されて高熱が発生することはない。
「じゃあ全員黄金に変えるかー」
心にも思ってないことを呟くと、盗賊が青ざめる。
「ま、待て! 考え直せ! わしらが悪かった。どうか慈悲を!」
まぁそう言うよな。いきなり目の前で一人の盗賊が黄金に変えられたら焦りもする。死体も残らず、単なる人間に取り扱われる金塊になるのだ。恐怖の度合いがハンパないはず。
「でも盗賊の駆逐も冒険者の仕事だしな」
とは言っても、エレクトキシンで手足を麻痺させているから、これ以上は悪事も働けないだろうが。
「自首する! 自首するから! どうかお慈悲を!」
「まぁ、お前らがそう言うなら」
仕方ないので「私たちは盗賊です。今ここで自首しますので牢屋にぶち込んでください」と但し書きをして盗賊のリーダーに張り付けてヘルメス聖国まで距離フリーで送り込んだ。後はヘルメス聖国の軍警察が何とかしてくれるだろう。
「さ、さすがですね。冒険者様……」
商人がキラキラした瞳で俺たちを見た。まぁ言うて自慢できることでもないが。
「本当に契約金は金貨一枚でいいんですか?」
既にグラディオの口利きで俺はSランク冒険者の認定を受けている。依頼するなら法外な報酬を要求されてしかるべき……ではあるのだが、金には困ってないし、エイテル庭国に馬車で連れて行ってもらえるなら願ったり叶ったり。本当はハミルトニアンに距離フリーで連れて行ってもらうのが一番いいのだが。
『興味ないでーす』
そもそもハミルトニアンが大日如来みたいなものだから、広い宇宙の小さな星の事情など、鑑みる必要も無いわけだ。ハミルトニアンが意識を注視するのは、俺が関係している事象に関してだけ。それ以外がググレカスで終了してしまう。
役に立つのか立たんのか。
『失礼な。お兄ちゃんだってハミルちゃんは必要でしょ?』
まぁ否定も難しいわけで。今でも脳内チェスはやっていたりする。




