第46話:とある円卓会議【三人称視点】
「聞いての通りだ。聖女グラディオが復活した」
黒いフードで顔を隠した人間が、そのように事実を報告した。というか、この場にいる全員が黒いコートを着て、その顔をフードで隠していた。声までは隠せていないが、ソレを気にする人間はここにはいない。
「聖女グラディオが……事実かそれは?」
「既にヘルメス聖国の統治に携わっており、アリフレム王国の植民地化を無効にし解放したとある」
円卓。その席に座るのは八人。全員顔はわからないが、それぞれの名はそれぞれが知っていた。
「座視できぬな」
一人が警戒をあらわにそう言う。
「そんなこともあるまい。百年前、戦闘卿が封印したではないか。同じことをもう一度すれば……」
「問題はそこではない。つまりセイントブルク神殿ダンジョンを攻略し、なおかつ聖女を殺すことなく封印刑から解放した存在がいるということだ」
「あの女は危険だ。選ばれし者は我らの理念のためにも殲滅すべきだ。もっとも……聖女の不死性は我らであっても殺すことは能わんがな」
それゆえのダンジョン封印刑だったはず。だが、どこかの誰かがそのダンジョンを攻略してしまった。
「ヘルメス聖国の王都のギルドにはSランク冒険者は滞在していなかったはずだな?」
「不明だ。いなかっただろうと結論は出来るが、絶対というかは悪魔の証明だろう」
聖女グラディオの復活。それをこの円卓の八人は、かなり重く問題視していた。
「どうする? どう対処する?」
「まずは聖女グラディオの復活を促した人物を特定すべきだろう」
「そもそもプリモーディアル・プリヴェント・プリズン・プリンシプルの絶対性を否定する存在だ。場合によっては別のダンジョンも……」
「魔王。ドラゴン。悪魔。ダンジョン封印刑に処されている奴らを復活せしめる……か」
「ここで議論してもしょうがあるまい。まずは情報収集だ。円卓に集まるときは理想卿が指示を出すだろう?」
「了解した。我らの安寧を脅かすものはすぐに特定して排除すべきだろう。それで。ヘルメス聖国での情報収集は誰がする?」
聖女グラディオが復活したのだ。この八人も底知れぬ力を持っているが、それはそれとしてグラディオの戦力が膨大すぎるのもそれはそれで厳然たる事実。
「俺が行こう」
八人のうち一人。フードで顔を隠したまま、一人が名乗りを上げた。
「戦闘卿か。貴殿であれば聖女グラディオと事を構えても遅れはとらんだろうが……」
「いや、どっちかってーと聖女グラディオを復活させた御仁の方に興味がある。Sランク冒険者。あるいはそれに匹敵するんだろ?」
「グラディオとどう戦ったかは推測するしかないにせよ、トリスメギストスの剣を搔い潜ってあの聖女を解放したとなれば、相応の実力者だぞ?」
言われて、戦闘卿と呼ばれたフードの男がククッと笑った。
「なおさら面白い。是非とも手合わせ願いたいね」
「承知した。ではヘルメス聖国での情報収集は戦闘卿に任せるとしよう」
「場合によってはグラディオと衝突するかもしれないが、構わんだろう?」
「任せる。ただし返り討ちにあっても我らのフォローは入らんぞ」
「いいねぇ。いいねぇ。サイッコウだねぇ」
戦闘卿はフードの下でニヤニヤと笑う。
「暴走だけはしてくれるな。それだけは重ねて言っておく」
「場合によるな。そもそも今のヘルメス聖国は存在するだけでマイナスじゃないか?」
「それは……そうだが」
聖女グラディオがアリフレム王国を解放したのだ。これからはマテリアルアブソーバーの関税がアリフレム王国側から自由に設定でき、格安でアイテムボックスをヘルメス聖国が売り払うということが叶わない。商人たちにとっては阿鼻叫喚であろうし、経済的にも波乱が予想される。ある意味で大陸の経済は、つい先日までアリフレム王国の植民地化によって安寧を得ていた……と言っても過言ではないのだ。
「聖女グラディオを封印して、適当の偽りの王を玉座に据える。そうしてまたアリフレム王国を……か」
「そのためにもセイントブルク神殿ダンジョンを攻略した相手を捜索して排除せねばならない。とはいえ、ヘルメス聖国の冒険者ギルドに聞けば一発だろうがな」
「問題は、その冒険者が我々と戦って戦闘が成立する可能性だ」
「選ばれし者である可能性も危惧すべきだろう」
「我々の選別防御を突破する可能性があるなら、速やかに駆逐すべきだ」
「よろしい。ではSランク相当の冒険者を特定。後に排除。その後で聖女グラディオを封印する。これらを戦闘卿に任せるが、問題ないか?」
「ああ、任せろ。ククッ。どんな奴だろうな」
フードでは隠し切れない喜色の声だった。
「若干不安は残るが……」
八人の内の一人が、懸念を込めてそう言った。
「大丈夫だ。死ぬ前には引くからな」
戦闘卿は、喜悦を声に乗せながら、だが理性的にそう言った。
「ではその様に。今回の円卓はこれで終了だ。皆、ご苦労だった」
言われて、一人ずつ消えていく。あくまで実体を持った人間。円卓から席を立ち、一人ずつ去っていく。最後に一人が円卓に残り、そのまま溜息をついた。
「理想卿。何か御懸念が?」
円卓の傍で控えていた唯一の従者が理想卿と呼ばれた人物の溜息を心配する。
「なに、長く生きるとメリットよりデメリットを勘案しがちでな」
「戦闘卿なら聖女グラディオを相手にしても後れを取らないと思いますが」
「それも分かっている。だが、その聖女をダンジョンの封印から解放した冒険者……こっちの方に嫌な予感が鳴りやまない」
「戦闘卿が負けうる……と」
「可能性の話だ。そもそも選ばれし者であるかどうかも不明なのだ」
「フェイクリスト一族はセイントブルク神殿ダンジョンのグラディオを殺害するために勇者を召喚したそうですが……」
「十中八九選ばれし者であろうな」
「殺しておきましょうか?」
「無駄だ。聖女の恩恵を受けて不死となったらしい。今はアリフレム王国で低賃金労働奴隷となっている。放置しておいて構わん。些事だ」
「聖女グラディオ……まさか封印刑を百年で破るとは」
従者としても驚くべき内容らしかった。
「もう数百年は黙っておいてほしかったが……我々の思い通りにはいかんということだ」
「理想卿。では……」
「まずは戦闘卿に任せてみようではないか。彼がすべて達成すればよし。そうでなければ、次なるロードがソレを計算に入れて対応するだけだ」
「理想卿にとってこの世に絶対が無いという信念は感服しますが……それでも戦闘卿がしくじるとは矮小なる私では想像の埒外です」
「我もそう思う。だが、何と言うのかな。そもそもグラディオの復活が想定外だったのだ。例外に例外を重ねるという意味で、それを為した人物の戦力を低く見積もるのは、それも暴挙とは思わんか?」
「トリスメギストスを攻略した……というのなら、確かにその通りではありますが」
ブリリアントカッター。ディレクターズカッター。ショートカッター。チートとも言える三本の聖剣。さらにそれを装備していながら、絶対的な不死を具現する聖女。どう考えても最強の一角に君臨する聖女グラディオ。その彼女を説得したのか。あるいは力づくで解放したのか。だがそもそもダンジョンの深層を攻略しただけでも、その者は最低でもAランクの実力相当の冒険者。グラディオと円満に事態を解決したとしても、決して侮れる相手ではない。その者が八十階層や九十階層のボスを撃破したのも事実なのだ。
「何か打てる手はありますか」
「よい。とりあえずは戦闘卿に任せよう。我ら八卿至帝に栄光あれ」




