第45話:低賃金労働奴隷【矢佐間ユウシ視点】
「おら! さっさと瓦礫を運べ!」
鞭を持って、意味もなく俺様に叩きつける上司。言われながらトロッコを運んで瓦礫を洞窟から地上へと持っていく。俺様、矢佐間ユウシは今、奴隷としてアリフレム王国で労働に従事している。既に心は折られていた。
当初こそ「俺様は勇者だぞ!」と主張していたが、返答は全て「それがどうした」だった。既に魔王討伐税についてもアリフレム王国全域に伝わっているらしく、俺様が税金を新たに調達したことはバレており。アリフレム王国の王が国庫から全額支払ったという話も漏れている。結果、アリフレム王国の国民は勇者であるはずの俺様に悪感情を持っており許す気は一切ないらしい。
「トロトロすんな! さっさと鉱脈を掘れ!」
俺様がトロッコを運んでいる横で、みすぼらしい姿をした元王様ラシア・フェイクリストがぼろ衣を着てつるはしを握っている。言われるがままにマテリアルアブソーバーの鉱脈を掘っており、今まで自分たちが安値で買い叩いていたものが、どれほどの苦労で得られるものかを実感していた。
低賃金の労働奴隷。それが俺様とフェイクリスト一族、そしてアリフレム王国を食い物にしていた貴族たちの罰だった。既にグラディオのクソ野郎と奴隷契約もしており、逃亡、策謀、自殺等々あらゆる自由を禁止されている。飯代もかかってくるから給料から飯代を引いて残ったわずかな金が借金の返済に充てられる。このままだと千年経っても返せそうにない。
「なんで……なんでこんなことに」
風呂にも入れず。宿に泊まる余裕もない。夜になったら鉱脈で寝て、全身バッキバキの最悪の状態で目を覚ます。それからまた働きづくめで鉱脈を掘る。
「余はヘルメス聖国の王であるぞ!」
どうしてもプライドは捨てられないのか。ラシアはそう声を張り上げた。
「うるせえ!」
そして鞭が飛ぶ。
「痛ッ! 貴様! 不敬であるぞ!」
自分に鞭を振るう人間が信じられないのだろう。
「不敬だと。自分の状況を見てものを言え! 今のお前は単なる奴隷なんだよ! 数万年働いて借金を返すだけのな!」
「何故余がそんなことをせねばならん!?」
「お前がバカだからだよ! 早く掘れ!」
パシィンッ! パシィンッ! と鞭を打って痛みでラシアに仕事を強要する。俺はトロッコで瓦礫を運んでいると。
「どうか休ませてください! もう限界なんです!」
鉱脈の別場所ではルシアが雇用主に懇願していた。たしかにルシアは限界だろう。元が単なる我儘なお姫様。重労働などしたことないだろうし。俺様も限界は色々と迎えていたが、ルシアよりはまだ動く。
「ああ? テメェの意見なんて聞いてねえよ。働けねーなら借金完済が遅れるぞ? それでもいいのか?」
「それは……!」
「まぁお前が働けないというのなら別の方法もあるがなぁ。トロールやオーク相手に腰を振るか?」
「ひっ! それは!」
「俺はどっちでもいいんだぜ?」
「は、働きます。働きますから鞭は……」
惨めにも現場監督に鞭を打たれて鉱脈掘りに従事する!
「オラァ! ユウシ! サボってんじゃねえぞ!」
そんなルシアを見ていた俺様に鞭が振るわれる。鋭い鞭打ちが俺の身体に刻まれる。
「とっとと瓦礫運べや!」
クソっ! 俺様は勇者だぞ。
「不敬にもほどがあるだろ!」
鞭を振るう現場監督に襲い掛かろうとして。魔術が発動する。
「が、あああああああぁぁぁッッッ!」
現場監督を殴り飛ばそうとした俺様の行為がどれの規律に違反し、全身に電気のような痛みが走る。そうして床を転げまわった俺様の頭部を現場監督が踏みつける。
「テメェ。今俺に何をしようとした?」
「俺様は……勇者だぞ……」
「はっ、そんな奴隷契約した底辺野郎が勇者だ? バカも休み休みに言え」
どこだ? どこで間違えた? なんで勇者として祝福されていたはずの俺様がこんな目に遭っているんだ。理不尽すぎるだろ。デブリアンのレイトならともあれ。
「現場で反抗した罰だ。今月のお前の給料無しな」
「な! それは!」
借金の返済が遅れるだけでなく飯も食えなくなる。
「何か問題あるか? んん? 言ってみろよ?」
「この鬼畜……」
言った瞬間、顎を蹴られた。それで顎の骨が割れて、俺様の顔が変形する。既に俺様もフェイクリスト一族もボッコボコにされているので治癒による恩恵があっても、顔の形は無残なモノだ。ルシアなんてブチャイクの目も当てられない顔になっている。
「ご、ごめんなさい。謝りますからどうか給料だけは……」
「ちゃんと。土下座して謝るんだよ。誠心誠意な」
俺の手を煩わせるな、と言っているように聞こえた。俺は土下座する。
「申し訳ありませんでした……心から謝罪します……どうか給料だけは……」
「立場を弁えているならいいんだよ」
惨めだ。惨めすぎる。ちょっと前まであんなに栄光の日々だったのに、なんで今の俺はドワーフみたいなクソに頭を下げなければならないんだ。誰か助けてくれ。ここは地獄だ。
「わたくしをこんな扱いにして! 許されると思っているのかしら!」
また別の場所で、元王妃……つまりラシアの妻であるリシアが反抗していたが。
「黙って働け! 数万年も働けば借金をチャラにしてやるから」
パシィンッ! パシィンッ! と鞭を振るわれる。チョークでひっかいたような線がリシアの身体に刻まれ、そうして鞭の痛みで分からせられる。俺様たちはここで永遠にも近い時間を奴隷として過ごさなければならない。流石に数万年後にアリフレム王国が残っているとは思えないが。それでも奴隷の呪いが絶対である以上、今は逆らうことができないのも事実で。
「くそっ! くそっ! くそっ! これも全部デブが悪い! アイツさえいなければ!」
なんかいつの間にかイケメンになって、グラディオに取り入りやがって。あんないい女がいるなら俺様が抱くべきだろ?
「オラァ! どうした! さっきまでの威勢はどこ行った!?」
何度も何度もリシアを鞭で打って、犯行の行き先を聞く現場監督だったが。
「ごめんなさいごめんなさい! もう逆らいませんからどうか鞭打ちは!」
「ちゃんとわかったらいいんだよ! とっととトロッコを運べ! 今のテメェはそれしかやることがないんだからな!」
ちなみにマテリアルアブソーバーの鉱脈に従事するのは普通の人間もいる。獣人もいるし亜霊種もそこそこ存在する。ただ彼らにとっても、百年間自分たちが苦労して掘っていたマテリアルアブソーバーを安値で買い取られ暴利を貪っていたフェイクリスト一族に何も思わないわけもなく。
「「「「「…………」」」」」
俺様たちに対する非情な扱いも見て見ぬふり。その目は自業自得だと語っていた。鉱脈を掘るのは一緒だが、支給される食事は彼らが優先で、無くなり次第終了。俺様たちは残ったパンや豆をボソボソと食べるだけ。味気のない食事をして城での豪華な食事を思い出す。あの美味しかった食事が今は嘘の様。
「おい! 聖女グラディオ様が来ているらしいぜ?」
「治癒を施して回っているんだと」
「さすがヘルメス聖国の真の王様だな。どこぞの愚王とはわけが違う」
クスクスとラシアが笑われていた。鉱脈を掘りながら聞こえないふりも限界はあったが。
「グラディオだと! 余がぶっ殺して――ぎゃああぁぁぁぁぁッッッ!」
で、懲りずにグラディオに反抗心を持って隷属魔術の効果で罰を受けていた。




