第38話:距離フリー
ハミルトニアンのアンノウンスキル【推理大説】による俺へのバフはあまりに破格が過ぎて。最初はグラディオもロードランナーと呼ばれる高速で走るトカゲの荷車で国中周るつもりだったらしいが。
「あのー。今の俺はワープが出来るんだが」
と提案するとあっさり可決された。距離を障害とみなしてバリアフリーを適応させる。だから距離フリー。ハミルトニアンはトポロジー操作がどうのこうの言っていたが、まぁそれはいいとして。
「こ、こここ、これは聖女グラディオ陛下。聞けば玉座に返り咲いたとか。お喜び申し上げます」
「世事はいい。ここの領地がアリフレム王国から最も近い。半島国家アリフレムの国境沿いだからな。いくら稼いだ?」
「いえいえ、私どもは良心的な値段で売り買いしております。暴利を貪っているのは商人たちで……」
「と、言っているが。どうですか? レイト様」
「地下に脱税のための隠し部屋があるな。うわぁ。白金貨がズラリと並んでいるぞ」
俺のコンキスタドームがこういう時に役に立つ。
「すべて没収させてもらう。異存はないな?」
「待ってください陛下! それを没収されては我が家は!」
「そもそも貴様はここで貴族の地位を没収する。残念だがお前に外交は任せられん」
残酷な言葉を投げかける。
「誰か! 衛兵ども! 来い! こやつらを殺すのだ!」
「と、言っているが。やるか? 余に異存は無いぞ」
腰に差した三本の聖剣。その威力を知るのにこれ以上の機会はなく。
「早く殺してしまえ! コイツは聖女を語る不敬者だ!」
「だ、そうだが?」
「聖女グラディオ陛下。どうぞこの不敬者に誅罰を……」
衛兵も召使いも、屋敷の全員がグラディオに傅いた。
「レイト様。この反逆者を地下牢に転送できますか?」
「可能だぞ」
そうしてワープで城の地下牢に貴族を送る。ついでに脱税倉庫の白金貨もグラディオのアイテムボックスに収納する。
「横領する気か?」
「まさか、一カ所に集めてアリフレム王国に変換します」
なるほどね。城ではジュリアンとジュリエットが待っている。グラディオの王命で、歓待しろと言われているのだ。ジュリアンたちはグラディオを封印刑から解放した恩人である。だがジュリエットの方も聖女グラディオの順転エネルギーで若返った存在なので、こっちもこっちで感謝しているらしい。なのでどっちもどっちと言ったところなのだろう。
「次はどこに行く?」
「そうですね。――商会に」
オールライト。ハミルトニアン?
『え、エッチなことですか?』
――商会まで距離フリーをよろしく。
『はーい』
そうしてさらにワープ。商会はドタバタしていて、既にグラディオが王座に返り咲いたのを耳ざとく聞き知ったのだろう。とはいえ、一日二日で引っ越しが終わるはずもなく。
「何やら慌てているな?」
平然とそこに現れるグラディオ。ついでに俺。
「ええと。どちら様で?」
商会の会長が揉み手をして客に対応する。つまり俺たち。
「何。難しい話でもない。これよりアリフレム王国から暴利を貪っていた貴族や商会からはその全財産を没収することになってな。貴殿の財産を受け取りに来ただけだ」
改めて言葉にするとヤクザの理屈だよなー。いいけどさ。
「何を仰っているのやら……我が商会は明朗会計ニコニコキャッシング。何も暴利を貪ってなど」
「ではこの国の王として命令する。この商会の全財産を徴収させろ」
「ソレはあまりに不条理というもの。しかし陛下に逆らう気もありません。君。我が商会の全財産を持ってきなさい」
「承りました」
そうして金貨千枚を持ってくる執事さん。
「どう思います? レイト様」
「ああ、もう確認してる。お前がゴーサインを出せば徴収できるぞ」
こっちでも脱税用の隠し倉庫があったが、俺のコンキスタドームが察知しており。
「金貨千枚。これが我が商会の全財産です。お受け取りください」
「全財産を徴収すると言った。二言は無いな?」
「もちろんですとも」
合意の上なら文句は無いな。俺はグラディオを脱税倉庫に転移させる。グラディオは溜めに溜められた白金貨を全てアイテムボックスに入れて、そのまま階段を上がって帰ってくる。もちろん商会の会長は激昂。暴力集団を呼んでグラディオを亡き者にしようとしたが。それで泣き寝入りするグラディオじゃないんだよなー。まさに今更だが。
「次の商会に行きますよ」
「貴族はいいのか?」
「どうにも動きを見るに商会の方が足が速いです。夜逃げされる前に押さえておきたい」
確かにその側面はあるかもな。
「と、いうわけで、全財産を徴収させなさい」
「聖女グラディオ陛下……も、もちろんですとも。国が決めたことなら我が商会は従いますぞ!」
なーんか対応がさっきの商会と同じなんだよな。気のせいならそれでいいんだが。
「じゃ、財産のあるところまでワープするか」
そうして俺とグラディオはワープした。距離フリー。屋敷から少し離れた小屋。その隠し部屋に高く積もられた白金貨の山。ソレを全て没収する。先に全財産を徴収させることに同意してもらったし、文句を言える立場でもないだろう。
「では次は――商会に……」
そうして国内の大商会を巡りに巡って、溜め込んだ財産を没収し。その後は貴族を巡って、こっちも財産を没収する。ただし商会と違って、貴族たちは地下牢に全員押し込んでいた。この後罰則があるのだろう。そこまで俺の知ったこっちゃなかったが。
そうして膿を吐き出す。つまりヘルメス聖国の浄化を徹底的に執り行ったグラディオは、激烈果断な圧制者として国中を平定し、そのまま城へと戻った。国内外に聖女グラディオの復活を宣伝して回り、その噂話は悪事でもないのに千里を走り、隣国まで轟くほどだった。
「宰相。ヘルメス聖国のアリフレム王国への損害賠償は算出できましたか?」
「もちろんでございますとも」
と笑顔で言って書類を見せると。ガクンとグラディオの首が折れ落ちた。いや、折れてはいないが折れたかもと危惧するくらい盛大に突っ伏した。
「白金貨で一万二千枚……」
「賠償を加味すると、その五割増しと具申する次第です」
言いにくそうに宰相はそう言った。悪意はないのだろう。ただ……補償すべき金額がデカすぎるだけで。マテリアルアブソーバーの関税率で大儲けしていた貴族や商会。その残っている脱税用の白金貨を集めても、大体三割程度。それ以上の金は全て浪費されて国外に放出していると見るべきだろう。俺がダンジョンで稼いだ大金が大体白金貨で千六百枚。であれば、白金貨一万二千枚がどれほどの威力を持つのかはもやは火を見るよりも明らかだ。
「まぁ返すしかありませんしね」
「お待ちを。陛下。これは全てフェイクリストの逆賊と利に聡い商人の暴走です。御身が責任を抱える立場では……」
「だが余が留守をしていた間に起こったことだ。責任はなくとも、経済支援程度は必要だろう?」
どうしてもグラディオはアリフレム王国に賠償する気満々らしかった。南無三。




