第37話:玉座の主
「道を開けよ」
銀色の髪を風になびかせて、颯爽とした足取りで城へと侵入するグラディオ。威力は既に見せている。城の尖塔を一つ叩き切っているのだ。一応俺がコンキスタドームで人がいないことは確認した後でな。傅く兵士たちを睥睨して、そのまま城の中へ。真なる王。聖女グラディオ・トリスメギストスが戻ったのだ。偽りの王、ラシア・フェイクリストはもはや形骸化した偽物でしかない。だがそれでも、全員が意見を一致させたわけでも無くて。
「聖女グラディオ様を語る俗物! ここで切り捨てて――」
言うだけ無駄だった。グラディオの聖剣ディレクターズカッター。あらゆるものを映像編集のように改変してしまう最悪の聖剣。既に威力そのものが申し分ないのだが……。
「なんか剣の冴えが恐ろしくないか?」
『お兄ちゃんのいた世界から、こっちの異世界に渡ったしね。もちろんスキルを獲得しているよ』
え? そなの?
『ハミルちゃんはこれを香取閃光って呼んでる。後でネーミングをグラディオに教えてあげて?』
それはいいんだが。もしかしてジュリアンとジュリエットも?
『だよー』
うーん。そのうち世界を滅ぼせるんじゃないかな?
『ちなみにハミルちゃんもスキル獲得したからね?』
ブルータス。お前もか。ちなみに何のスキル?
『その名も推理大説! ハミルちゃんの推しにバフをかける効果!』
誰が推しなんだ?
『お兄ちゃんに決まってるじゃん! もうバリアフリーのスキルマスタリーも全部解除したから。いくらでも無制限に使えるからね?』
それって。
『――――とか――――とか――――とか』
あの、それって最強どころか銀河が崩壊するのでは? ゲ〇ターエンペラーとか超銀河グレ〇ラガ〇と戦えるレベルじゃあ……。
『やったね!』
何故か愛らしい少女がグッとサムズアップする映像が浮かんだが、きっと残像だろう。そうしてグラディオに引きつられて玉座まで向かう。既に報告は受けているのだろう。王様がまるで怨敵のようにこっちを見ていた。隣には王妃が座っており、王女であるルシアもいる。何より勇者様である矢佐間ユウシがいた。
「勇者様! アイツは聖女を名乗る不届き者です! 勇者様のお力で、誅罰をくだしてください!」
「言われるまでも!」
既に洗脳されているのか。俺には判断がつかないのだが。
「はぁ!」
斬鉄剣アイアンカッターを振るう矢佐間。だがそれをグラディオのディレクターズカッターが触れた瞬間に打ち消す。
「私が手放した聖剣とはいえ、抜剣しただけでも大したものです」
「何を……ガッ!」
問おうとした矢佐間のみぞおちに蹴りを入れて、玉座の間の隅っこまで吹っ飛ばす。
ちなみに香取閃光ってどういうスキル?
『刀剣系のスキルの最上位。レジェンドスキル。剣を握っている間は世界が許す限りのバフを与えられるほぼ無敵スキルだねー』
うわぁ。
『まぁお兄ちゃんのバリアフリーやハミルちゃんの推理大説みたいなアンノウンスキルじゃないだけ良心的だよ』
まぁたしかにアレとかコレとかソレとかできるバリアフリーと推理大説のコンボの前には霞んで見えるが。
「さて、私がいない間に好き勝手にしてくれたみたいですね?」
「お、お待ちを……聖女グラディオ様……。我々は御身が帰還することを信じて今まで国家運営をしていたのであって……」
しどろもどろに言い訳をする王様だったが。グラディオはパチンと指を鳴らした。
「兵士たち」
「は!」
「地下牢に連れて行きなさい。処遇は後で決めます」
「承知しました!」
兵士たちはハキハキと喋って、フェイクリストを地下牢へと連れ去る。
「な、なにをする! これは反逆だぞ! 分かっているのか!」
最後のあがきに兵士たちに偽りの王権を振りかざすラシアだが。
「クズが……ッ!」
そうして地下牢へと連れて行かれたフェイクリストの一族。ならびに勇者矢佐間ユウシ。
「兵士たちよ」
そうして改めて本来の座である玉座。王の位置に座ったグラディオが、兵士に問う。
「私の腹心たちはまだ生きていますか?」
「は。不死の祝福を受けておりますれば。フェイクリストの意向によって地下牢に繋がれております」
「解放しなさい。これより私は作業に入らねばなりません」
「御心のままに」
地下牢ってアソコだよな? 俺が最初掴まっていた。あそこでハミルトニアンとチェスをしてスキルマスタリーを拡張したんだよなー。懐かしい。
「えーと。グラディオ陛下?」
既に玉座に座っているのだ。俺もグラディオに敬意を表すべきだろう。
「今まで通りグラディオでいいですよ」
「とは言われてもな」
サラリーマン曰く。上司の無礼講という言葉を信じてはいけないらしい。
「では王命です。私のことはグラディオと呼び捨てるように。敬語も許しません」
「OK。わかったよ。グラディオ」
「で、どうすんだ? これから」
玉座に座っただけでは別に王様の首がすげ変わっただけだろう。民衆には税金を納める対象が変わっただけだ。
「まずはアリフレム王国に謝罪に行きます。少しでも早く植民地化を撤廃して、アリフレム王国に自由と平等を流布しないと」
なるほど。王様としての気がかりはそこか。たしかに……という気はするが。
「ですがその前に。地下牢に繋がれている宰相から国家予算を聞きださないことには」
「それこそ何をするつもりだ」
「膿を出すのにも痛みは伴うものですよ?」
軽やかにウィンクして、それから玉座で待つこと十数分。
「聖女グラディオ様。お帰りを一日千秋の思いでお待ちしておりました……」
そうして最初に解放されたのは百年前のヘルメス聖国の宰相。もはや滂沱の涙でグラディオを見る。
「感激の再会をしたいところですが……実は状況が切羽詰まっています。数字を読む能力は健在ですか?」
「お任せください。陛下には判を押すだけの作業しか回しません」
「よかろう。励め。まずはアリフレム王国からヘルメス聖国が搾り取った金を概算で算出せよ。ただしノイローゼになるのは無しだ。貴殿は良く無茶をするのでな」
「ああ、その言葉をいくたび夢想したことでしょう。身命を賭して励ませてもらいます」
「だから無茶はするなよ?」
ジト目でグラディオは宰相を見つめる。ハラハラと涙を流しているのは、果たして何を思ってか。
「余はこれより国中を巡る。余が国を巡る間に、書類整理を終わらせておけ」
「我が身に代えましても……」
で、何をするんだ? 俺が聞くと。
「アリフレム王国から不条理に金を貪って肥えた辺境貴族や商人どもの財産を没収する。私が玉座に座ったのです。知れ渡れば、国外逃亡を図るでしょう。させませんけどね」




