第32話:天地ユアセルフプロダクション
「は! はわ~!」
で、服を奢ってもらって。というかわけわからんので店員さんにお任せコーディネートしてもらって。俺も学生服からイケメンファッションに着替えさせられた。まぁさすがに洗濯機もない異世界で水洗いだけしていた学生服を着ておくわけにもいかないし。新しい服があるなら有難い限りではあるが。で、その恩を売って、まんまと俺たちを事務所に連れ込んで。社長の第一声がソレだった。
「こんな奇跡的な美男美女が四人纏めて!? ちょっと野中ちゃん! どんなイリーガルな捜索したの!? 防衛省のネットワークでも使ったの!?」
「私も最初見た時は目を疑いました。それでお巡りさんに職質を受けていたので、助けてそのままって感じであります!」
「グッジョブ! グッジョブよ野中ちゃん! こんな最高レベルの四人を纏めて釣り上げるなんて! これで日本のタレント事務所で天下がとれるわ!」
あのー。さっきから興奮しているところ悪いんですが。私たち異世界に用があってすぐ帰らないといけないんですが。
「四人とも学生よね!? その若さだもの! ファッションモデルに興味ない!? うちが全力で芸能界デビューをプッシュしてあげるわ」
「「「げいのうかいでびゅう?」」」
もちろん異世界出身の三人にその言葉の意味が分かるわけもなく。っていうか言葉通じるのな。
「あの……レイト様?」
ジュリアンが俺に困った目を向けてくる。気持ちはわかる。俺もちょっと困惑している。
「えーと。写真とか撮られて金を稼ぐ仕事で……」
そもそもモデルやアイドルの定義から話さないと意味不明だろう。
「しゃしんって?」
「野中さん。スマホで写真を撮って見せてあげてください」
「え? あ。はい」
ちなみに俺のスマホは異世界に放逐してきた。どうせデータの悪用なんてされないだろうし。パシャリとスマホで写真を撮って、その画像を三人に見せる。
「何これ!?」
「私たち……ですか」
「こんな繊細な絵が……」
「というわけで。俺の世界ではこういう文化が根付いていて。この写真に撮られてお金を得る仕事があるんだよ。美男美女が受ける仕事で、アイドルとかモデルって言うんだけど」
「つまり今その仕事を勧められていると?」
そう相成ります。
「お願い! あなたたちなら事務所なんて選びたい放題だろうけど私たちは逃したくないの! 是非ともウチに所属して!」
「えーと。そもそもこっちで仕事できないんですけど」
俺は住民票あるけど、他三人は違法入国者。
「そこを何とか! 私たちを助けると思って。こんなチャンス見たことないの! あなたたちなら芸能界でトップを取れるわ。そのお手伝いをこの天地ユアセルフプロダクションにさせてほしいのよ!」
どう思う? ハミルトニアン。
『まぁ定期的にこっちの世界にも帰ってはくるし。タレント業くらいは抱えてもいいんじゃないかなー?』
結構あっさりしてるのな。まぁ確かに不利益は無いんだが。
「じゃあ名刺貰っていいですか?」
「ええ、ジャンジャン貰って!」
いえ、一枚でいいんですが。
「デビューの件は考えさせてください。また後日こっちから連絡します。義理を通すことも含めて御社に返答するまでは他のプロダクションに所属しないことは固く誓わせていただきますので」
「むぅ、意外と乗ってこないのね」
確かに普通アマプロに名刺切ってもらって有頂天にならない若者はいないだろうけど。俺としても今はイケメンになっているが、ちょっと前までキモデブだったからなぁ。
「えーと。辺根斗レイトちゃん? と……ジュリアンちゃんとジュリエットちゃんとグラディオちゃん?」
「所属する時は四人全員でお願いします。断るときも四人全員で……」
「レイトちゃんがリーダーかしら?」
「そういうわけでも……まぁ無いわけじゃないですね」
日本を知っているのは俺だけだし。そもそもジュリアンたちがこっちで稼いでどうするかって話でも合って。数十万稼いでも意味ないだろって話。
「あと。すみません。電話貸してもらえませんか?」
「ソレは構わないけど……家に電話するの?」
「ええ、まぁ」
今更ながら、家族も心配しているだろうし。辺根斗ローンの会社は都内にあるし、車を回してもらえれば家に帰れるだろう。
「できれば前向きに考えてね。アマプロはこれでも芸能界への影響力も強いし、悪い選択じゃないことは社の看板を賭けてもいいわ」
それで賭けに負けた場合惨めな思いをするのは俺たちなのだが……まぁソレは言わぬが花か。
「はぁ。それにしても綺麗ねぇ。四人とも。これまでアイドルやモデルは幾らでも見た来たけど……これほどの逸材は初めて。四人ともにそれぞれ個性を持って輝いているわ。もしかして同じ学校? だったら四人とも学内でモテるでしょう?」
「「「がっこう?」」」
そりゃ異世界にはあまり聞かんよな。教育機関のことだ。と説明すると、「ああ、寺子屋」と納得された。
「もしもーし。ハルカか? 久しぶりー。お兄ちゃんだよー」
おそるおそる妹のスマホに電話をかけた。一応万が一があるので家族の電話番号は暗記している。
「――――――――pぉきじゅygtfrですぁq!!!!!!!!!」
俺の声を聴いて、絶句した後、立て続けに日本語にならない罵倒を喰らった。まぁそりゃいきなり音信不通になって、どの面下げて電話してきたんだって話ではあるが。
「すまんすまん。こっちにも都合はあるんだよ。それについての説明もあるから。ちょっとタクシー代持って天地ユアセルフプロダクションまで来てくんない?」
「天地ユアセルフプロダクション? 大手事務所じゃん。なんでアニキが?」
「ちょっとスカウトされて……」
「お兄ちゃん。ついにクスリに手を出したんだね……」
いや、マジでマジで。電話で顔見せることも出来ないわけじゃないんだが、今の俺の顔を見るとそのまま他人だと判別されて電話を切られかねない。今の俺はグラディオのブリリアントカッターでイケメンの細マッチョになっているしな。
「わかった。じゃあそっちまで行くよ。お兄ちゃん一人?」
「あと三人ほどお客さんが……」
「事情は後でたっぷり聞かせてもらうからね?」
「あー……はい」
いきなり愚息が異世界転移してファンタジー世界に旅行していたら、そりゃ残された家族は心配するだろう。特に俺の場合はキモデブで自殺経験ありだから、富士の樹海に消えたと言われても家族は疑わないだろう。おかげでコンキスタドームを会得できたんだが。
「あ、レイトちゃん。お茶飲む? ジュリアンちゃんたちも喉乾いたでしょ?」
散々嫌味を言った後に電話を切ってタクシーで迎えに来てくれることになった妹のハルカを待つ間。アマプロが俺たちをもてなしてくれるらしい。有難い話だ。
「でも……はぁ……本当に素敵。マネジメント業をしてなかったら求婚していたわ」
社長がマジでソレを言っているのは覚れて。まぁいいけど。
「すんません。なんかお世話になって……」
「いいのいいの。芸能事務所はね。美男美女には歓待するものよ。これも仕事の内だから気にしないで」
軽やかにウィンクされるけど、なんか思いっきり差別発言の様な。まぁ芸能界が美男美女優遇なのは仕方ないけど。少し前までキモデブだった身としては肩身が狭いなぁ。




