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デブで無能と蔑まれた俺はアンノウンスキル【バリアフリー】で全てを手に入れる ~俺を蔑み虐げた王族と勇者は地獄を見るようです~  作者: 揚羽常時


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第28話:聖女グラディオ・トリスメギストス


「……やばいな。緊張が……」


 セイントブルク神殿ダンジョンの九十九階層の出口ポータル。その目の前にいて、次なるボス……つまりダンジョンマスターに挑むことを知って、緊張してしまう。ちなみにさっきの矢佐間の一件はアイツがゲボ吐いて気絶し、ついでに騎士団も瓦解したので放ってきている。この先に最深部のダンジョンボス。そして多分ソイツが。


『聖女。グラディオ・トリスメギストスだねー。お兄ちゃん』


 とりあえず九十九階層までのダンジョン内には聖女は居なかった。それはコンキスタドームで確認している。であれば、最深部にいることが予想され。


「じゃ、行くか。まずはわかっているよな? ジュリアン。ジュリエット。何があっても移動だけは止めるなよ?」


「わかりました」


「わかりましたわ」


 そうして俺たちは最深部の百層へと突入する。現れたのは前までと同じ神殿のような空間。だが迷宮の感じはなく広く取られたホールの様な。その端っこに俺とジュリアンとジュリエットはいて、ついでに中央には美女と言っても過言ではない美しい女性が。銀色の髪に、豪奢なドレス。胸は大きく腰は細く。男であれば色々と興奮しそうな要素が満載だ。ジュリエットもそれはそれはいい女なのだが、なんというか未亡人と聖女は比べるモノじゃないと思う。どっちも素敵というか。最悪なことを言っている自覚はあるが。


 その聖女は腰に差している三本のロングソード。そのうち二本を抜いた。それで聖女に見惚れていた俺がハッとなる。とりあえず歩き出す。それは猫耳親子も同じだ。城の封印書庫での情報をハミルトニアンが精査する限り、まず最初に来るのが。


「――――――――」


 ブンッと水平に、聖女が剣を振った。とはいえ俺たちはスタート地点から歩き出したばかり。広いホールの中央に立っている聖女とは距離がある。というのに、何か見えない干渉が俺たちを通過した。と思った瞬間に後背の壁に斬撃痕が奔る。どうやら情報は間違っていなかったらしい。曰く「聖女は地平線の彼方まで斬撃を飛ばす」と。


『さっきの斬撃から確認だよー。おそらくはディメンジョンパニッシャーの類じゃないかなー?』


 何そのカッコいい響きの効果。ハミルトニアンが説明してくれる。


『んーと。分かりやすく言うなら自分の視界に映っている画面を風景画にして、そこに一本線を引いて風景画に爪痕を残す……って言えば伝わる?』


 …………伝わるが。つまりそれは距離の概念を超えて、自分の見たものを全部切断できるって事だろ?


『そだねー』


 そだねー、じゃねぇぇぇよ! つまり何かしらの防御手段を持っていないと、っていうか防御手段を持っていても場合によっては防ぎようのない超チート能力じゃねえか! 自分の視界に一本線を引くように斬撃を飛ばす!? つまり目に見えているものを距離関係なく斬れる能力って事だろ!?


『そだねー』


「というわけなんだが。理解できたか?」


「効果の頭悪すぎて頭痛が」


「ですね。ちょっとありえなさすぎませんか?」


 一応想定通り俺はコンキスタドームとバリアフリーを展開している。このフロアを包む程度のコンキスタドームの展開は可能だ。つまりクオリア領域そのものは既に聖女に触れている。とはいえだ。


「エレクトキシン」


 聖女のナトリウムチャネルを開いて、筋肉を痙攣させる……と同時に相手がすぐさま復帰する。相手の視界切りの効果はこっちに何度か放たれているが、その全ては俺のバリアフリーで無効化にしていた。移動障害バリアフリー。つまり壁抜けのバリアフリー効果だが、エフェクトを拡張して移動の障害となるものは壁じゃなくて攻撃や現象をもフリーにしてしまう。もちろん立ち止まるか俺のコンキスタドームの外に出れば効果の適応外になるが、今のところその予定はない。すでに視界切りについては猫耳親子にも伝えているし、わざわざ死にたいとでも思わない限り、相手の攻撃はこっちには通じないのだ。


「エレクトキシン……うーん?」


 そうしてコンキスタドームで神経毒を再現するのだが、あまり効果が無い。


『お兄ちゃんお兄ちゃん。コールだけ唱えて。演算と効果はこっちで受け持つから』


 と言われて俺はBランクの魔術を唱える。


「グラビティプリズン」


 対象を指定して高重力をかける魔術だ。効果範囲は一人だが、持続的にかけ続けることができる魔術でもある。まぁ一種のデバフだな。だが、その重力も利かなかった。


「???」


 無敵すぎるだろ。どういうことだ?


『うーん。多分だけど。事象を改変しているね』


 また頭の悪い設定が出て来たな。事象の改変? つまり?


『あったことをなかったことにしているってことだよ。お兄ちゃん』


 無敵じゃねえか! そんなんどうやって勝てって言うんだよ!


『でも勝つことが目的じゃないし。要するに聖女を説得して王様に復帰してもらうんでしょ?』


 あ、そういう話だった。つまり戦いに勝つことは二の次。まずは聖女様との和解か。


「聖女グラディオ様!」


 歩きながらジュリエットが聖女に声をかける。


「――――――――」


 何のためらいもなく視界切りを放つ聖女だが、俺のバリアフリーの適応内。バリアリブルをかけるべきか考えたがハミルトニアンに止められた。バリアが不可視である以上、場合によってはバリアリブルを貫通して斬殺される恐れがある、と。とはいえ防ぎようのない視界切りに、自己の現実を改変する防御。ダンジョンの最深部のボスということを加味しても能力が強すぎないか。重力魔術はかけ続けているが、それも事象の改変で無効化され続けている。


「大丈夫でしょうか? 私たちは聖女様をこのダンジョンから解放するためにやってきた者です」


 ジュリエットの真摯な説明にも聖女は反応しない。おそらくだがきっと話が通じる状態ではない。それは俺にもわかって。俺も移動しながら視界切りを無効化する。とはいえだ。デブの体力なんてわかりきっているし、歩くのにも限度があるんだが。


「――――――――」


 さらなる斬撃。ソレをキャンセルする俺。マジでどうしてくれよう。このままだと集中力のリソースがそこまで続かない。


「聖女様! お話を聞いてください!」


「渡すものか……この力を渡すものか……」


「何を言っても無意味……と」


 であればこっちに出来ることは一つ。


『え、エッチなことですか?』


 違います。殴って黙らせる。


『ドメスティックバイオレンス?』


 家庭を持った覚えはないがな。どっちかってーと壊れたテレビを直す感覚。


「というわけで行きますか」


『危険だよー。場合によっては事象の改変がバリアフリーを無効化する可能性も』


 その時はその時だ。


「私は……必ず復帰する!」


 何に対して言っているのか。そこから俺にはよくわからんのだが。何と申したものか。


 要するに殺さなければいいんだろ?


『そういうことに相成るかなー?』


 じゃあ良かったということで。


『たまにお兄ちゃんってダイターンだよねー』


 そこで伸ばし棒は要ったか?


「じゃ、行きますか」


 そうしてジュリアンとジュリエットがホールを回るように左右に展開して、俺は真正面から聖女に向かって歩く。


「渡せるものか……ッ! この聖剣を……!」


 一体聖女は何と戦っているんだろうな?


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