第26話:国家反逆罪
王女様への暴行。その噂は王都を駆け巡った。王族フェイクリスト。その愛娘がボッコボコに殴られたのだ。回復魔術で怪我は治ったが、それとこれとは話の次元が全く別であることを添えておく。もちろん父親であるラシア・フェイクリストは激昂。俺たちを恨みに恨んで、ついには法案を通しレイト、ジュリアン、ジュリエットを国家反逆罪に指定。つまり俺たちは立派なテロリストに指名された。まぁ王女をボコったのだ。王族としてのメンツもあるのだろう。ダンジョンに潜っている方がまだしも気が楽だ。とはいえセイントブルク神殿ダンジョンに潜るためには王都のギルドにいなければならないし、そういう意味では王都を出るわけにもいかない。そもそも俺たちがやろうとしているのは聖女をダンジョンから救って、王座の交換をすることだ。そうしないとライカンスロープであるジュリアンたちの故郷……アリフレム王国がいつまでも虐げられることになる。だが国そのものと戦闘をするほど、俺たちも暇じゃなくて。
「すんません。部屋お借りします」
国家反逆罪によるテロリスト指定。つまり俺たちに味方する国民は全てテロ支援の罪で裁かれる。流石にそれは勘弁だということで、ホテルのチェックインから食堂の注文まで、何もかもが出来なくなった。市場に行けば商人が怯え、テロリスト討伐の賞金目当てに命知らずが挑戦してきてジュリアンにボコボコにされるという。
唯一の政治的空白地帯が冒険者ギルドホームで。なので、俺はギルドマスターから部屋を借りて、そこで寝泊まりし、受付に隣接しているバーのカウンターで飯を食う羽目になった。冒険者の皆様方は俺たちにかかった懸賞金には興味が無いようで、やはりどんちゃん騒ぎをしているだけだ。いや、一応皆さんダンジョンに潜ってモンスターを討伐して金を稼いでいるよ? ただ銀行もない文明なので、銭の宵越しを念頭に置いていないのか。稼いだ端から酒代に消えていく。ギルドマスターは国王から過干渉を受けているらしいが、の保護には妥協をしないらしく。俺たちはそこら辺でギルドから助けられていた。
とはいえ、ギルドホームでグダグダしていてもしょうがないのでダンジョンには潜るが、やはり深層である九十一階層以下は難度が跳ね上がり、迷宮の難解さも、出てくるモンスターの質も妥協無しだ。フロアボスだったエレメンタルドラゴンが単なる雑魚モンスターとして現れ、神殿内部のようなダンジョンで回避しようのない空間でブレスを吐かれる脅威を思えば、そりゃAランクの冒険者でもなければ攻略は不可能だろう。俺達にはバリアリブルがあるので大丈夫だったが。バリアフリーのミラークールエフェクト。スキルの効果を反転させる感覚もだいぶ馴染み。アタッカーをジュリアンとジュリエットに任せて、俺は後衛でフォローに回っていた。コンキスタドームを展開すればジュリアンとジュリエットにもバリアリブルを適応できるし。まぁそもそも神経系を持つ生物系モンスターはコンキスタドームの索敵の段階でエレクトキシンを適応させることも出来はするのだが。エレメンタルドラゴンと戦いたいというジュリアンのワガママに付き合っただけだ。
「さて」
で、九十九階層。そのポータル。コレを抜けると百階層。つまりダンジョンの最深部。既にダンジョンは全て索敵した。そしてここまで聖女の存在は確認できていなかった。つまりハミルトニアンの予想であるダンジョンマスターが聖女である可能性はほぼ確定。このまま突っ込んでもしょうがないということで、一度ギルドに帰還。九十九階層を攻略したと報告して、そのまま後日ダンジョンマスターに挑むと明言。それからウザったい状況を解消するため……それから聖女の情報を集めるため、俺たちは王城に出向いた。
「む! テロリスト! 出頭か!」
くだらん。
「ドラゴニックフレア」
Aランクの魔術。竜の吐息を再現した魔術で、衛兵もろとも城門を吹っ飛ばす。一応殺してはいないのよ。
「テロリストだ!」
「国家反逆罪の!」
「であえであえー!」
そうしてワラワラと砂糖に群れるアリのように王城から兵士たちが現れる。俺はコンキスタドームで王城を把握。それから俺とジュリアンとジュリエットにバリアリブルをかけて、その後。
「ヘビーグラビティフィールド」
またしてもAランクの魔術を行使した。圧倒的な重力強化で兵士たちが押しつぶされる。それこそジェネラルトロールでも圧死するレベルの重力を発生させる高位魔術だが、手加減はしている。圧死しないように効果を押さえて発動しているのだ。そこら辺の感覚はハミルトニアンに任せているのだが。そうしてC級魔術で城を破壊して回りながら重力で潰れている兵士たちを無視して王城を荒らす。なんのためかって? 嫌がらせに決まっているだろう。
「あったあった」
もちろん封印書庫の場所は知っているし、コンキスタドームで認知もしているが、タダ嫌がらせがしたいというだけで城の内部を破壊しつくして、封印書庫に入る。前は魔術の知識を求めて引きこもっていたが、今回は聖女……グラディオ・トリスメギストスのことを知るために、だ。そうしてパラパラーと本を速読して、後の解釈をハミルトニアンに任せ、そのままあっさりと封印書庫を出る。既に王様の首にナイフ……というかダモクレスの剣を突きつけているのだが、それと知ったのは俺が王様の私室に入った後だった。
「よ」
俺とジュリアンとジュリエットがラシア王の寝室に出向くと、威厳の欠片もない服装の王様がそこにいた。
「貴様ら! ええい! 兵らは何をしている!?」
「全員蹴散らした」
「何を言う! 貴様のようなブタにそんなことができるモノか! そもそもテロリスト風情が城に侵入だと!? 分を弁えろ!」
まさにこっちのセリフなんだが。
「ウィンドカッター」
俺がコールを唱えると、風の斬撃が発生して、王様の頬に切り傷が奔った。
「な……貴様……魔力はEランクだったのでは……」
「Eランクだぞ?」
単にハミルトニアンが既に詠唱を終えていて、コール待ちの術式が数十万ほどあるだけで。
「ふん! やはりブタで雑魚だな! 勇者様の足元にも及ばん!」
よくもまぁここまでされて、そんな尊大な態度を取れるな。
「で、要件は何だ?」
「二択だ。俺たちの国家反逆罪を取り消すか。お前の娘が死ぬか」
既に兵士たちを蹴散らしているので、今王城の防御機能は効果を発揮していない。まぁ仮にしていてもジュリアンとジュリエットの修羅疾患の前でどれだけ意味があるのかは知らないが。
「よく考えて選べ。王女殿下を殺されたくなければな」
「そ、そんな脅しで余が屈するとでも……」
「あ、そ。じゃあそういうことで。ジュリアン。王女を殺してきていいぞ。どうせ王妃がまだ人質としているんだ。一人ぐらい死んだ方が現実が見えるようになるだろ」
もちろんハッタリではあるのだが、実行の伴うハッタリを果たしてハッタリというのか。
「待て! そもそもお前が罪を犯したのが最初の原因であって……」
「ドラゴニックフレア」
Aランクの魔術を行使。王様の私室の壁が全部吹っ飛んで、城の外の景色がクリアに見えるようになった。
「言葉は選べよ。場合によっては王族の首がすげ変わるぞ」
まぁそうじゃなくても、この後俺たちは聖女様のダンジョンからの解放を行うのだが。
「国家反逆罪を取り消すか。王女と王妃を殺されて、お前も意味もなく死ぬか。択一だ」
ニッコリと微笑んで、俺はそう言う。既に私室の半分が吹っ飛んでいる。俺が詠唱なくAランクの魔術を使えることは証明した。意味不明な毒の効果についても認知しているだろう。であればここで国家転覆を許すか。あるいは俺たちを許すか。残された選択はそれだけだ。ま、どっちにしろ未来は変わらないようには思うがな。
「……くっ……わかった。国家反逆罪は取り消そう。そもそも貴様は何だ。勇者なのか?」
「単なる飛べないブタだ」
『飛行の魔術も待機させてるよー』
いや、ハミルトニアン。そういう意味じゃなくな?
「一日以内に国家反逆罪を取り消すこと。違えた場合、俺たちが存在している場所からAランク魔術をぶっ放して、王都の一部ごと王城を消すから」
これくらい脅せばいいだろう。




