第25話:ダンジョンより厄介な
「すまん……金が無い……」
そうしてアークドラゴンを倒して、そのままAランクの冒険者になり。その後も俺の索敵とジュリアンとジュリエットの膂力で力業攻略をしていた折。九十階層でヒュドラに出会って、だがあっさりとエレクトキシンで殺したわけだが。あくまで俺がやっているのはバリアフリーで神経のチャネルを解放するだけで、それは毒の効果により得られるものではない。あくまで外部からの干渉であって正確には毒ですらない。ヒュドラについては向こうの世界での知識もあるし、説明されたギルドでの内容もあまり変わらなかった。強力な毒を持ち、根源である一本の首を絶たない限り、他の首を落とすと一本につき倍に増えて再生するという。その毒はアークドラゴンでさえも致命傷を与え、まさに百回のダンジョンマスターに次ぐ九十階層のボスモンスター……と言えるわけだが。それでも神経で動く以上、俺のエレクトキシンの敵ではなかった。遺体丸々アイテムボックスに入れて帰還。ギルド長に呼び出されて、ドロップアイテムの如何を聞かれ、遺体を丸ごと持ってきましたと言うと頭を抱えられた。ヒュドラの毒を欲している商人はあまりに多く、毒の一滴にだけでも金貨の値段がつくという。その毒を保有している遺体丸ごと持ち帰ったのだ。毒を殺人に使われるのは本意ではないが、錬金術師の実験の素材にもなると言われると、確かになるほどと思い。もちろん毒殺を考慮する悪人の手にわたる可能性も考えたが、だからって持っていても意味無いしな。で、そのまま解体に回そうとしたところで、そんなギルドマスターの言葉。金が無い。
「アークドラゴンの遺体ですら白金貨六百枚だ。これ以上はギルドの金庫が空になる」
もちろん冒険者は他にもいるし、そもそも俺たちが例外すぎるのは俺も自認している。浅層や下層で死にそうな目に遭いながらドロップアイテムを手に入れて換金して暮らしている冒険者の支払いのためにも金庫を空にするのはいただけないだろう。こういう時はランクが上の冒険者が割を食うことになるが仕方ないとは俺も思えて。
「大丈夫ですよ。アークドラゴンで稼がせてもらいましたし。なんならヒュドラの遺体はタダで譲りましょうか?」
「勘弁してくれ。本部の耳に届いたら、俺の首が飛ぶ。物理的に」
「嘘も方便というか」
「ヒュドラの遺体丸ごとの帳簿を改竄なんて出来るわけないだろう。白金貨千枚だぞ?」
そう言われると、なるほどなーって感じ。ギルドマスターも苦労しているようだ。
「本部に連絡を取って、金を回してもらう。それまでは証書で勘弁してもらえないだろうか?」
「構いませんよ。急いでいませんしね。ジュリアンとジュリエットはどう思う?」
「大丈夫だぜ」
「白金貨一枚でも半年ほど不自由なく暮らせますしね」
その白金貨が六百枚。アークドラゴンの遺体の解体において支払われた利益だ。だが俺に金だけ払ってもしょうがない。これからアークドラゴンの素材を商人や鍛冶師、別ギルドに売りさばいて大金を手に入れなければ実質赤字だ。というかアークドラゴン一体だったら商業的に白金貨が純利益で一千万枚は固いらしい。そのことに俺は驚いた。暴利だからではなく逆だ。純利益の六割も俺に渡したギルドの判断に、である。普通なら二割も貰えればいい方だろう。経済的な事情を鑑みれば、一割でも多いくらいである。それを六割である。どれだけ太っ腹なのかという話。で、とりあえず証書だけ貰って、ヒュドラの換金は後刻のこと。白金貨で必ず一千万枚渡すと言われて、ギルドの信用を担保にそれを信じて証書を受け取りアイテムボックスへ。そうしてギルドのカウンターに戻ると。
「よう。大将! 九十階層を突破したって~?」
耳が早いというか。マークされているのだろう。俺たちがアークドラゴンを討伐してから一週間。だいた十階層くらいを踏破するのは簡単な算数でわかる。で、今日生きて帰ってきたってことは、つまり俺たちがヒュドラを倒した証明で。
「ここは景気よく宴と行こうぜ?」
仕方ない。俺はアイテムボックスから白金貨を一枚取り出す。
「マスター。白金貨一枚分だけ、コイツ等に酒をふるまってやってくれ。余った分はマスターの取り分にしてくれていい」
俺がそう言うと、バーのマスターは輝かしい笑顔になった。例え今ここにいる冒険者全員が酒を思うまま飲んでも白金貨一枚には届かない。つまりバーのマスターには臨時収入も同様だ。
「よっしゃー! Aランクの冒険者レイトに活躍を祝して!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
やいのやいのと俺の奢りで酒盛りが始まる。俺は酒を飲めないし、おっさん連中に絡まれるのも勘弁なので、ギルドホームを出る。ジュリアンとジュリエットも付いてきた。
「やーっと来ましたのね。デブリアン……ブタのくせに人間様を待たせすぎですわよ?」
矢佐間との一件以来、俺はセルフミラージュを諦めていた。どうせ冒険者として名が売れると、外見を誤魔化そうと誤差の内だ。で、ギルドホームの外で待機していたのは……。
「誰?」
「ルシアですわ! ルシア・フェイクリスト! この国の王女に何という口を!」
「ああ、矢佐間の金魚のフン」
「勇者様を散々コケにしてくれたそうですわね?」
「何もしてないぞ」
「暴行にあったと聞いていますわ。まさに鬼畜の所行。魔王討伐を行われている神聖なる勇者様を蔑ろにするなんて。まさに魔王にも匹敵する人非人」
「その魔王討伐の勇者が何でダンジョンに潜っているんだ?」
「もちろんダンジョンの最深部に眠っている魔王を討伐するために決まっているでしょう。アナタのようなブタが付随するとは予想外でしたが」
まぁ確かに太っているし。脂肪の塊ではあるわけだが。ダイエットしようにも、俺って空腹になると我慢できないんだよな。デブだって好きで食事制限をしないわけじゃない。太ると分かっても空腹感が我慢ならんのだ。
「なので、わたくし自ら勇者様の御栄光を邪魔するブタを討伐に来たのです」
「その戦力で魔王を討伐しろよ」
「勇者様でなければ魔王は倒せませんから」
なぁハミルトニアン。
『え、エッチなことですか?』
違う。お前の予想ではダンジョンマスターは聖女なんだよな?
『絶対ではないけど、その可能性が高いのは事実だよー』
ヘルメス聖国は聖女が統治する国だろう? なんでその聖女を討伐という話になる?
『索引なしでは正確な情報は検索できないよー。でも聖女の失踪が百年前……となると』
既に王族が忘れ去って、ダンジョンマスターが魔王と誤解しているのか?
『それより偽の王族が真なる王である聖女の排除を試みている可能性が高いと推測するよ』
なるほどね。勇者を召喚して、ダンジョンの魔王討伐を依頼。勇者が聖女様を殺したら、聖女の復帰の可能性が無くなり偽の王族であるフェイクリスト一族は七代先まで栄華を極められる……と。言い様に利用されているな。矢佐間。
「というわけで改めて犯罪者であるデブリアンのあなたを拘束に来ました」
不敵に笑ってパチンと王女様がフィンガースナップ。一人の騎士が前に出た。王女様が引きつれた戦力は二人。一人が騎士で、一人が魔術師。これでAランクの冒険者に認定されている俺たちを誅そうというのだから剛毅というかバカというか。
「あまり調子に乗らないことですわね。こちらの騎士は王族直属の騎士団長。冒険者で言えばSランクに相応する猛者ですわよ?」
勝ちを確信している不遜な笑みで王女は言う。とはいえやることは変わらんのだが。エレクトキシンで痺れさせるだけ。
「ヒール!」
だがその毒効果は後衛の魔術師が回復魔術で治してしまった。まぁ矢佐間も自分の毒を治癒魔術で治していたし、これは想定内。とすると叩きのめすしかないわけだが。
「よろしいのですか? レイト様……」
おっさんにしか見えないジュリエットが前に進み出る。
「ああ、死なない程度にボコボコにしてやれ。王女様にもな」
「な! わたくしに暴行するつもりですの!?」
「喧嘩を売ってきたのはそっちだろう。殺されないだけマシと思え」
ヒラヒラと俺は手を振った。情状酌量の余地は無いな。
「では、参ります」
結果だけ語ると騎士団長の実力はAランク寄りのBランク程度だった。




