第24話:そうして勇者とデブリアンと
「レイト様。昨夜はよく眠れましたか?」
ニッコリ笑顔で。ジュリエットがそう問うてくる。
「ん? あー、まぁ」
そりゃジュリエットとアレをアレすればなぁ。快眠もいいところだろ。
「だったらよかったぜ。っていうか俺たちは普通の宿でもいいんだぜ?」
「まぁ別に金は有り余っているし」
ジュリアンの言い分にあっさり答える。とりあえずあと数年は働かなくて済む。そういう風に稼いだ。あとはセイントブルク神殿ダンジョンを攻略して、聖女様に会うだけ……なのだが。そのためにはダンジョンに潜らないといけないわけで。
「明日もこの宿を予約していいか? ダンジョンから生きて帰れたら……だが」
「お待ち申し上げております」
深々とお辞儀をしてくれるホテルマン。じゃ、明日の宿もこのホテルだな。王都でも最上級のホテル。建設には莫大な金がかかったのだろう。現代日本と違ってこっちは異世界ファンタジー。高級ホテルを創るだけでも難題だ。
「はぐ……」
そうしてホテルのモーニングを食って、それからホテルを出ると。
「よう」
軍警察が待ち構えていた。このホテルは一種の高度な政治空間。いくら軍警察でも中に押し入るにはホテル王の許可がいる。破った場合はそれこそ軍警察のトップの首がすげ変わるだろう。だがホテルを一歩出れば、俺はお尋ね者の犯罪者。ついでに公開処刑予定の囚人でもある。
「大人しく捕まるなら手荒な真似はしないが?」
「公開処刑を取り下げる……ということか?」
「心穏やかに公開処刑をおこなってやると言っているんだ」
軍警察があり得ないことを言ったような気がするが。まぁソレは別にいいか。
「じゃ、ご苦労様でーす」
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
集団で待ち受けていた軍警察の皆々様。その足が痙攣して動かなくなる。もちろんエレクトキシンが作用したのだ。ナトリウムチャネルを神経伝達に使っている限り、俺に逆らえる道理も無し。
「くあ……」
よく寝た。そう思いながら倒れ伏した軍警察の三十余名の包囲を徒歩で突破し。そのままギルドへ。さて、今日から八十一層だ。気合を入れていかないと。こっからは深層と呼ばれるエリア。つまり実質的にAランクでなければ太刀打ちできない難易度ということになる。まぁそれでも聖女というダンジョンボスからすれば可愛いモノなんだろうけど。
なぁハミルトニアン。
『え、エッチなことですか?』
いや、違うな。そもそも聖女って不老不死なんだろ?
『無制限の順転エネルギーを備えているからね』
戦うとしたら千日手にならないか?
「だからバリアフリーでダンジョンボスの役目から解き放つためにスキルマスタリーの拡張を優先しているんじゃありませんか」
なるほどね。道理でハミルトニアンが脳内チェスに付き合わせるものだと思っていたが、聖女がダンジョンマスターであることを見越しての算段だったのか。
「しっつれーい」
そうして俺たちがギルドに入ると。
「よう。この前はよくやってくれたな」
憎悪を目にたぎらせて、勇者矢佐間がそこにいた。既に剣は握っている。つまり臨戦態勢。ソレを遠巻きに眺めている冒険者たち。受付嬢はアワアワしていた。
「困りますよぅ。ギルドで刃傷沙汰は……」
「こいつは勇者である俺様を侮辱した。この場で極刑だ」
「回避する方法は?」
俺が聞いてみる。
「じゃあそこの奴隷二人を寄こせ。どうせお前みたいなデブじゃなくてそっちの二人が強いんだろ? 俺様が有効に使ってやるから」
舌なめずりして、ジュリアンとジュリエットを狂気的な目で見る矢佐間。
「嫌ですけど?」
「デブリアンのお前に選択権は無いんだよ。よこせ」
「お断り」
こんなに俺に尽くしてくれる可愛い奴隷を差し渡せるものか。
「その場合ここで死ぬことになるが、それでもいいんだな」
「やれるもんなら」
あっさりと俺は言った。
「上等」
瞬間、聖剣アイアンカッターを払い、俺に突撃してくる矢佐間。勇者にあるまじき暴挙だな。
「それ以上ご主人様に近づくな」
で俺と矢佐間の間にジュリアンが入って、その剣を受けようとし。だがそれよりちょっと早く俺のミラークールエフェクト……バリアリブルがジュリアンの身体を覆った。ガキィンッッ! と音がして、聖剣が止まる。まぁ修羅疾患の血在魔法であれば矢佐間の剣をいなすくらい容易いのだろうが、そんなことをしなくても俺にはバリアリブルがある。
「ほう。お前。バリアを展開できるのか……」
そのバリアリブルをジュリアンの功績と受け取ったのか。矢佐間は勧誘を始める。
「俺様とともに来い。金も栄誉も思いのままだぞ」
「断る。俺が忠誠を誓っているのはレイト様ただお一人だ」
「ソイツは後で公開処刑にされる犯罪者だ。庇ってもいいことないぜ?」
「ソレを決めるのは俺だ」
「王権命令だ。俺様のパーティーメンバーになれ」
「冒険者は刑法は適応されるが国法そのものは昨日しない。そもそもアークドラゴンの鱗も切れないような聖剣(笑)でイキっているお前如きに従う義理が無い」
「お前ぇ!」
あからさまな挑発。それによって激昂した勇者矢佐間。だがその剣が振るわれるより先に。
「はい。そこまで」
音もなく矢佐間の背後を取ったジュリエットが矢佐間を持ち上げる。それも軽々と。さすが修羅疾患。
「醜い行動は止めなさい。私たちはレイト様に忠誠を誓っているのです。横やりは無粋ですよ」
「俺様は勇者だぞ!? この世界を救う存在だ! その俺様が有難くもメンバーに勧誘してやろうってのに……ッ!」
「おとといきやがってください」
そうしてゴミでも投げ捨てるように、あっさりと矢佐間を放り投げるジュリエット。それによってギルドの隅まで転がり、無様を晒す矢佐間。クスクスと笑う冒険者たち。さっきから矢佐間の言動が不愉快だったのだろう。冒険者を下に見て、勇者であることをひけらかして自慢する。そんな奴の無様を見たら……そりゃ笑いたくもなる。
「デブリアぁぁぁぁンッッッ!」
俺を憎悪の目で睨んで、転がったギルドの隅っこから俺に向かって剣を振るおうとするる…………より先に、俺のエレクトキシンが発動した。
「?????」
瞬間、ガランガランと剣が落ちる。いきなり矢佐間の腕が動かなくなって、握っていた剣も取りこぼす。
「何をしたぁ!?」
「毒」
昨夜も言ったろ。面倒なのでそれ以上は何も言わない。というか相手が面倒くさい。
「で、八十一階層に行きたいんですが……」
で、セーブポイントというか。ギルドカードが証明している階層まで潜る俺たちだった。




