第22話:快進撃
「エレクトキシン」
コンキスタドームを展開して、クオリア領域を広げる。その領域の内部にいるアークドラゴンに、バリアフリーでエレクトキシンを再現。ナトリウムチャネルを解放して、神経系を破綻させて殺す。いくらアークドラゴンと言っても、その神経伝達はナトリウムチャネルを介しているだろうという俺の予想は当たって。あっさりと八十階層のボスであるアークドラゴンはジュリアンとジュリエットの力を借りるまでもなく討伐完了となった。残ったのは神経破綻で死んだアークドラゴンの遺体。魔石とドロップアイテムくらいを期待していたのだが、アークドラゴンの遺体がまるまる残っていた。仕方ないのでアイテムボックスに収納して、そのまま今日のところはダンジョンを脱出。明日からは八十一階層の攻略になる。
「え……? 八十階層のボスモンスターを討伐したんですか?」
ダンジョンから戻って、ギルドに報告すると、引きつった顔の受付嬢が俺を見ていた。
「えーと、まぁ」
受付嬢はヘルメス聖国の王都の冒険者をすべて把握している。つまり俺がDランクであることも知っていて。
「Dランクですよね?」
「Dランクです」
それは間違いない。
「ちなみに証拠とか」
何も言わずにアイテムボックスを起動して、まるまる残っているアークドラゴンの頭部だけ出す。
「本当にアークドラゴン……三人で倒したんですか?」
俺とジュリアンとジュリエット……ということにはなるのだが。
「ええ」
俺一人で瞬殺したとか言っても信じてくれないだろうし。
「Dランクパーティーがアークドラゴンを!?」
容赦のない証拠を見せつけると、驚いたように……というか事実驚いて、受付嬢が戦慄する。そしてその声はギルド全体に広がった。
「は?」
「アークドラゴン?」
「Dランクが?」
「何言ってんの?」
もちろんギルドには俺以外の冒険者もいる。その誰もが受付嬢の悲鳴を聞いて、俺たちがアークドラゴンを討伐したことを認識した。
「そのー。それでアークドラゴンの遺体なんですが……」
「あ、はい。こちらで解体作業をします。解体料を差し引いても白金貨で三百枚はかたいかと」
それが日本円でどれくらいなのかは俺は知らないのだが。
「おいおいマジか?」
「Dランクがアークドラゴンを?」
「っていうか白金貨三百枚って」
本来は秘密にするべきだろう情報が駄々洩れで開示された。
「この馬鹿モンがぁ!」
そうして、ギルドへの報告がギルドマスターの耳に届き、そのまま招集された俺たちはギルドマスターの執務部屋に招かれた。案内をした受付嬢は開口一番にギルドマスターに怒られ恐縮している。秘匿すべき冒険者の情報を周りに漏らしたのだから当然らしい。俺は別に気にしていないが。
「すみませんすみません……でもこの前ギルド入会試験を受けた冒険者が二ヶ月でアークドラゴンを討伐するとは思わないじゃないですかー」
「はぁ、もういい。頭が悪すぎてついていけん。同僚に報告するから受付のリーダーからこってり絞られろ」
「はぃぃぃぃぃ」
そうして涙目で退室する受付嬢に同情していると。
「レイト・ペネト氏……であっていたか?」
「えーと。まぁ」
ギルドマスターが俺を見て訪ねてくる。紅茶を振る舞ってくれて、俺とジュリアンとジュリッとはソレを楽しんでいる。
「たしかギルドに登録された能力は毒系のスキル。それも神経毒と聞いていたが」
「ですね」
「それでアークドラゴンを毒殺したのか?」
「そう相成りますか」
俺が率直に言うと、考えるようにギルドマスターは俺を値踏みする。
「しかし神経毒では七十階層のヘビースライムは倒せないだろう?」
「そこは冷気系の魔術で凍らせて、フィジカルで砕きました」
ヒョイとジュリアンとジュリエットを指す。
「亜霊種は魔術を使えない。とすると励起系の魔術を使ったのはレイト氏となるが。君は魔力ランクはEではなかったか?」
「まぁそこら辺は黙秘ということで」
「実際にアークドラゴンを討伐しているのだ。嘘を言っているわけではないのだろうが……」
「信じてもらう必要はないんですけどね」
別に信頼を得たからと言って一銭にもならんし。
「君たちはセイントブルク神殿ダンジョンを攻略する気か?」
「最終目標はそうなります」
ハミルトニアンが言うにはダンジョンマスターのボスそのものが聖女である可能性が高いという話だし。だったらダンジョン攻略をするのが目的というのは間違ってもいない。
「九十階層のボスモンスターも倒すつもりか?」
「たしかヒュドラでしたっけ?」
「ああ」
まぁ神経があるのならエレクトキシンも効くだろうし。
「ちなみにアークドラゴンの遺体はまるまる残っているという話だが……」
「イエスアイドゥー」
「それはギルドの解体業者に回してくれるのか?」
「相応の金銭を貰えるのなら」
「善処しよう」
それは政治家が話を濁す時に言う奴。でも遺体を持っていてもしょうがないし。
「相場は?」
「ギルドマスターとして嘘偽りなく答えて白金貨で六百枚は固い。あくまで本当にレイト氏がアークドラゴンの遺体をまるまる保存しているならな」
「オーケー。ソレで行こう」
「では早速、解体場で出してもらっていいか? こっちも早めに確認したい」
ってなわけで、解体場でアークドラゴン一式……アイテムボックスから取り出す。
「まさか、とは疑念も持っていたがマジか。ドラゴンに効く毒など、錬金術師ギルドでも数えるほどだぞ……」
「ってーことはギルドマスター。猛毒を含んでいるドラゴンの肉は食用には回せないっすか?」
解体業者が確認を取ってくる。ギルドマスターは俺に視線を振った。しょうがない。
「正確には毒を付与したのではなく、毒の効果をスキルで再現しただけだから、肉には毒は一ミリグラムも存在していない。嘘だと思うなら、解体した肉を検査してもらってもいい」
というわけで、肉も無事素材になる。ドラゴンの肉は美味らしい。アークドラゴンともなれば尚のこと。このまま解体して丸ごとギルドに提供する。前払いで白金貨三百枚。解体が終わってから追加で三百枚。もちろん前払いは即金だ。ギルドが溜め込んでいる金を即渡されて、それを俺のアイテムボックスに収納する。そうして後払いを待つために今日のところは帰ろうとしたのだが……。
「はーい! 御機嫌如何だ英雄!」
お調子者なのか。酒に酔っている冒険者がカウンターから絡んできた。
「Dランクなのに八十階層まで潜ってアークドラゴン討ったって? ってーことは白金貨で二百枚くらい稼いだって事だろ?」
まぁそうなるか。
「ウチのギルドのルールでな。大金稼いだ冒険者には大いにタカれってのがある。ここの酒代を受け持ってくれんか? なーに金貨で十枚程度だ白金貨一枚にも及ばない!」
へべれけになっている冒険者が御機嫌にそう言う。俺はジュリエットに視線を振った。彼女は元々冒険者の経験がある。で、困ったように頷かれた。つまり稼いだ冒険者が酒代を受け持つのはギルドの伝統なのだろう。ま、いいか。
「よーし。ここは俺の奢りだ! 全員好きなだけ飲め!」
そういうことに相成った。大歓声が上がる。




