第21話:エターナルパワーブリザード
「エターナルパワーブリザード」
A級魔術。エターナルパワーブリザード。永久の冷気で相手を包み絶命させる最高位ランクの魔術と言えるが、何でそんなもんを俺がぶっ放しているかというと。
「――――――――」
声にならない声。身体を振るわせることで振動が奇妙な悲鳴染みたものをあげる。七十階層のボスモンスター。ヘビースライム。要するにでっかい単細胞生物。とはいえ侮るなかれ。七十階層ともなると生半なモンスターではなく。柔軟な身体を変形させて、触手のように不定形の身体を伸ばし相手に取りつく。その触手の先から酸を出して、相手を消化するというくらうのも悍ましいような攻撃方法を取る。その触手の速度も射出のソレは亜音速。銃弾ほど速いわけじゃないが、素人では対応不能な程度には速い。まぁ俺は三人ともにバリアリブルをかけているので、問題ないっちゃないんだが。
「――――――――」
そのヘビースライムを冷気系の魔術で凍らせて、ジュリアンとジュリエットが砕いていく。やはりそこは単細胞生物の由来か。外側をガリガリ削りながら中央にある細胞核を破壊すればそれで倒せるという単純なモノ。ヘビースライムの亜音速の触手を防ぎ、不定形の身体を凍らせ、核を潰す。この作業に必要なメンバーが必須なのだが、それに関しては俺たちに不都合が無く。拳一発でキングトロールを撲殺するジュリアンとジュリエット。その圧倒的なまでのフィジカルは、凍らせたスライムを叩いて砕く。そうして核まで辿り着き。
「ふう」
ヘビースライムの消滅と同時に、七十階層のクリアが達成となる。そのまま七十一階層。やはりそこはセイントブルク神殿ダンジョン。荘厳な宮殿の様な仕様でありながらミノタウロスの迷宮の如き難易度。柱一つとっても、豪奢で緻密で芸術的。その七十一階層を俺はマッピングする。コンキスタドームで迷宮内をマッピングし、そこから得られる情報をもとにハミルトニアンに罠の有無などを求める。ゴールまでは既に道を理解しているし、ここに聖女様はいないことも確認が終わっている。
ハミルトニアン?
『え、エッチなことですか?』
違います。罠の判別をよろしく。このコンキスタドームとハミルトニアンの並列で、もはや迷宮が迷宮ではないという。未だに迷宮の迷路のような道順で俺たちは行き止まりに当たったことがない。ゆっくり進んでいるので、特に急いではいないが、一応聖女を探すという目的があるので、それさえ叶えば、こんなダンジョンともおさらばできるんだが。
『多分だけどダンジョンマスターだねー』
ハミルトニアンはそう言う。つまり百年前にセイントブルク神殿ダンジョンで聖女が失踪したわけではなく。聖女という存在を核にして、セイントブルク神殿ダンジョンが形成された。なのでそのせいで聖女は表舞台から姿を消し、今はダンジョン最深部で眠っている……かもしれない……らしい。
「ダンジョンマスター……ね」
つまりこのダンジョン最強の存在。聖女と聞くとバフとかかけて、戦闘ではアタッカーというイメージがわかないんだけど。
『グラディオ・トリスメギストス。そう本には記されていたけどね』
城の封印書庫か。
『ところでモンスターだけど』
ジュリアンとジュリエットに任せよう。このフロアのモンスターはトロールで統一されている。それも高位のジェネラルトロール。次の階層へのポータル近くには五十階層のボスモンスターであるキングトロールも見つけられた。階層ボスが普通にダンジョンの雑魚モンスター化している時点で、ダンジョン下層の恐ろしさを思い知る。中層のボスモンスターがここでは単なる配置されるだけの雑魚だという、その事実に。
「ま、関係ないか」
な、わけでトロールの討伐はジュリアンとジュリエットに任せて、俺はドロップアイテムを拾ってアイテムボックスに詰め込んでいく。ジェネラルトロールは牙や装備を落とすし、キングトロールの魔石も美味しい。ダンジョン攻略は順調だ。たまに魔術を使ったりもする。すでに画竜点睛欠如詠唱……ブラインド・ドラグ・スペリングによるコールの大気術式は数十万回レベルに達しており、その内の一パーセントはAランクの魔術という恐ろしさ。深層のボスモンスターにも通用するAランクの魔術を数千発も起動できることがどれだけ恐ろしいのかは、俺だけが知ることだ。
「魔力Eランクですよね?」
「だなー」
魔力が無くても術式は励起できる。ただ魔力と詠唱がトレードオフなだけで、長い詠唱さえ呑み込んでしまえば魔力EランクでもAランクの魔術は使えるのだ。詠唱しているのはハミルトニアンだけど。
ありがとな。
『こっちが勝手にしてることだから感謝は……まぁ嬉しいけど』
何か返せるものないか?
『帰ったらジュリエットとエッチして』
ハミルトニアンはエッチなことに興味津々だった。とはいえ俺の脳内にいる妹設定なので、自分ではエッチなことができない。そもそも何で宇宙の真理であるハミルトニアンがエッチな妹系ヒロインとして俺の脳内を占有しているのかもよく分かっていないんだが。
ハミルトニアンはなんかわかるか?
『わかんない。気付けばこうだった』
天啓検閲規律によって世界と相互情報共有が不可能であるらしいが。その規律をバリアと認識。バリアフリーで通信できるようになった俺は、宇宙の真理にとっても希少なことらしい。延々と宇宙を演算するのも飽き飽きしていらしく、妹系のキャラで俺と会話するのは楽しいと見える。俺も飽きない会話相手が頭の中にいるのはちょっと救われている。
デブ。無能。ゴミ。疫病神。
元の世界では厄介者扱いされ、味方が家族くらいしかいなかったが、こっちの世界ではハミルトニアンがいるし、ジュリアンとジュリエットもいる。まぁジュリアンとジュリエットは俺の奴隷なんだけど。一応気さくに会話できる仲だし。仲間という意味では上下が無いと、俺の中では思っていたりするのだ。修羅疾患は発動させるとテンションが上がるのか。凄惨な顔でトロールを殴り殺している猫耳親子を見ながら、俺がドロップアイテムを回収していると、フロアのポータルが見えた。そこにはキングトロールが徘徊しているが。
「覇ッ破ァ!」
ドン! と床を蹴って加速したジュリアンは超音速。まるでレールガンのように大気の壁をぶち破って空気抵抗によるソニックブームと大気摩擦の熱を纏ったまま、超速超高熱の拳をキングトロールに放つ。その膨大なエネルギーは、例えるなら戦術級の大陸弾道弾にも等しく。撃ち込まれた拳の質量、速度、熱、インパクト……それら複合のエネルギーによってキングトロールそのものの肉体が爆ぜ散る。ドロップアイテムは残ったが、そのあまりの威力に俺はなんと言っていいものか。
「ご主人様!」
で、さっき大陸弾道弾もかくやの踏み込みとパンチを打ったとは思えない愛らしさでジュリアンが俺に歩み寄ってくる。猫耳がピョコピョコと動き、尻尾がフリフリと左右に揺れている。褒めてほしいのだろう。
「よしよし。よくやったな」
デブでブサイクの俺でも、ちゃんと慕ってくれる可愛いジュリアンは、それで嬉しくなってさらに尻尾を振る。
「ご主人様の血路は俺たちが開くからな」
「ああ、任せたぞ」
マジで修羅疾患が最強すぎると再認識した。特Aランク。実質Sランクと言われるのも分かる。ちなみにSランクに昇級する条件はダンジョンの九十九層を踏破すること。すなわちダンジョンマスターのフロアの扉の前に立つこと。戦って倒さなくてもダンジョンマスターへの挑戦権を得た冒険者をギルドはSランクとして認めるのだ。ちなみにAランクは深層と言われる八十階層のボスを倒さないと認められない。あとは順繰りだ。ダンジョンマスターのいる最深部。深層。下層。中層。上層。浅層。これでSランクからEランクまで。つまり俺のDランクでは普通は上層レベルで冒険をしていないと死んでいてもおかしくないのだが。まぁほら。俺のバリアフリーはアンノウンスキルだし。何より俺には深層ですらも苦にしない特Aランク相当の奴隷親子もいることだしな。




