第20話:酒に逃げるユウシ【矢佐間ユウシ視点】
「クソッ!」
胃の中がグルグルしてムカムカが収まらない。網膜に映っているグロ画像が消えてくれない。アルコールを飲むと少しだけ溜飲が下がるが、酔いがさめるとまた思い出してしまう。酒! 飲まずにはいられない! って感じだ。
「勇者様……」
そんな俺を見て切なげな表情になるルシア。
「なぁ。俺様は悪くないよな? アイツらが弱いのが悪いんだよな?」
「ええ、ええ、そうですとも。勇者様がこうして無事なのは、つまり実力の結果ですわ」
「そう思うならアークドラゴンを倒せる剣を持って来いよ。剣さえあれば、俺様の千剣適合でアークドラゴンを切り殺してやるから」
責任の一端は王族にもある。斬鉄剣アイアンカッターだと。その鉄より硬いアークドラゴンの鱗を斬れないような剣を渡してダンジョン攻略をさせようってんだから間接的な殺人だろ。
「今王都内の武具屋に兵を派遣してドラゴンキラーの剣を集めております。それさえあればアークドラゴンなど勇者様の敵ではありません」
「だよな。そうだよな。俺様が悪いんじゃねえ。悪いのは全部俺様の周りの雑魚どもだ。アイツらがマシだったら、俺様はアークドラゴンなんかに負けてねぇ」
ワインのボトルを握って、ラッパ飲みする。とにかく酒だ。目に焼き付いた幻像を消すには酒がいる。
「もう酒ねーのか?」
「あまり飲酒はオススメしませんわ」
「グダグダ言わずに持ってこい! アークドラゴンを斬れる剣と酒だ!」
「しょ、承知しました……。今すぐ……」
そうしてルシアは部屋の外へと出ていく。くそ! くそ! 俺様は悪くねえ。悪いのは全部クソザコナメクジのアイツらだ。自業自得だ。俺様を最下層に連れて行くと言っておきながら、あっさり死にやがって。ダンジョン内の報酬は全部提供したってのに……死んだら意味ねーだろうが。
「クソッ!」
飲み干したワインのボトルを壁に投げつける。音を立ててガラス瓶が割れた。
「ッッッ!」
フラッシュバック。ドラゴンがブレスを吐くところが思い出されて、それによって死んだ三人の冒険者の末路が脳内に鮮やかに写る。
「やめろ! 見せるな! あんなもの! 俺様は悪くねえ!」
装備だ。ドラゴンを倒せる装備だ。剣さえあればアークドラゴンなんて敵じゃない。あくまで悪いのはアイアンカッターなんて雑魚装備を俺に渡した王族だ。ルシアだってわかっていたなら言ってくれよ。俺様の剣で不利だってんなら。
「うぅ……」
次の酒に手を伸ばして、なんとかアルコールで脳に靄をかける。剣だ。剣さえあれば。
「ゲホッゲホッ……ッ」
アルコールが喉に引っかかって咳込む。とにかく王族がドラゴンを殺せる剣を手に入れてくるまでここで酒を飲む。俺様に必要なのは時間だ。アイツらの雑魚さを認めることと、立派な剣を手に入れること。それさえできれば、俺様に負けはない。次はもっと役に立つ冒険者を見繕おう。七十階層までしか行ったことのない雑魚冒険者に案内を任せたのがそもそもの間違いなんだよ。
「酒……酒……」
アルコールがこんなに便利なものだなんて知らなかった。大人が飲むのが意味不明だったが、今の俺様にはわかる。
「クソがぁ! 次だ……次こそ……」
「勇者様……ワインを持ってきましたけど……」
「ああ、そこにおいてくれ」
心配そうにルシアが見てくるが、そもそもお前らが原因だろ。
「なぁ。アイアンカッターより上位の聖剣は城には無いのか?」
「アレが最高位だと聞いています」
まったく話にならない。俺様に魔王を倒してほしいなら、何でも切れる剣を用意しろよ。
「王都の武具屋にはドラゴンキラー系のドラゴンに特攻効果を持つ剣も存在します。それさえあればアークドラゴンなんて……」
「ああ、そうだ。調達頼むぞ」
「任せてください。勇者様に相応しい剣を用意しますわ」
ニコリと微笑むルシア。
「それより勇者様。お酒はそこまでにしてわたくしで楽しみませんこと? いっぱいご奉仕してあげますわよ?」
「そうだな。相手してもらうか」
女を抱くのも嫌なことを忘れるのにはちょうどいいかもな。酒も入っているし。今なら没頭できそうだ。ルシアにキスをして、そのままベッドに押し倒す。
「なぁルシア……」
彼女の首筋にキスをしながら、俺様は聞く。
「俺様のために冒険者ギルドを動かせるか?」
「難しいです。ギルドは王族の管轄ではないので」
「今度は万全を期したい。Aランクの冒険者を最低三人は集めろ」
「今は善処します……とだけ……あん♡」
そうして俺様はルシアを抱いた。この際避妊する必要はないだろう。俺様が王族と婚姻するのは秒読みだ。ハーレムを築く計画も立てているし、正室はルシアだがこの王都中のいい女は全員俺様が孕ませる。そうだ。俺様は勇者なんだ。全ての人間は俺様を崇拝すべきなんだよな。
「ルシアッ! ルシアッ!」
「あ♡ 勇者様♡」
そうして情事が終わると、虚しい現実がまた帰ってきた。慰み程度にはなったが、俺様の気が晴れるのはまだ先だ。新しくルシアが持ってきたワインを開けて飲む。
「ドラゴンキラーは近日中にご用意しますので」
「当たり前だ。適当な武具を寄こしたら許さないぞ」
「き、肝に銘じます……」
脅すように俺が言うと、引きつった笑みでルシアが応える。これでお粗末な武具でも用意しようものなら、王族丸ごと切り殺してやる。
「俺様は悪くねえ。雑魚のアイツらの死にまで責任持てねえ……」
「大丈夫ですわ。勇者様は何も悪くありません。冒険者が死んだのは実力不足だからですわ」
俺様をフワリと抱きしめて、ルシアはそう言ってくれる。そのことに救われて、俺様はルシアを抱きしめ返す。そうだ。俺様は悪くない。いつだって悪いのは実力のない雑魚ども。俺様がそんな奴らの末路に気を配る必要はねえ。
「今度こそアークドラゴンを倒しましょう。そうして魔王を討伐して、勇者様は世界を救った英雄になるんです」
「あ、ああ、そうだな」
そうすれば後は俺様は美女を抱いて美食を喰らって死ぬまで幸せに生きていくだけだ。
「次にパーティーを組む冒険者もピックアップしておけ。相応の条件を出されたら王権で黙らせろ」
「そうしたいのですが。冒険者は究極的には国に所属していなくて。納税の義務はありますが……」
「じゃあ税金を盾に交渉しろ。不条理な税金を払わされたくなければ手伝えってな」
「わかりました。その様に」
あ、アルコール。アルコールを……。
「勇者様。飲み過ぎはマズいです……わよ?」
「今はそんなこと言ってられねえ。酒が無いとダメなんだよ……」
酔いがさめると余計な事ばっかり考える。とにかくドラゴンキラーが手に入るまで精神の不調を回復させるために酒が必要だ。そうして俺様は王権で王都中の武具屋から徴収したドラゴンキラー系の剣を見繕うまで酒を飲み続けた。あの圧倒的なアークドラゴンのブレス。アレに耐えうるタンクも必要だ。ドラゴンのブレスを完全に防げる盾と鎧も調達する必要がある。俺様が弱いんじゃない。アレは雑魚どもの当然の末路だ……ッ!




