第19話:調子よく
ダンジョン攻略を開始して一ヶ月半。俺たちは七十階層のボスフロアに来ていた。だいたい一日で二フロアほどを制覇するペースだ。ダンジョンに食事や睡眠や排泄は要らないとはいえ、それで全てがオールオッケーなわけもなく。ちょいちょい休憩を取りつつ、俺らはダンジョンを攻略していった。とは言っても新しいフロアも俺のコンキスタドームとハミルトニアンの全知で、全部網羅してフロアマップを頭の中に作れるので、何の問題もない。フロア全体を見て聖女様がいないことを確認すると、最短コースで罠をよけながら大迷宮の迷路のような道を迷わずゴールまで。右手の法則を使うまでもない。
「さて、じゃあ今日はここまでするか」
七十階層のボスモンスター。ヘビースライム。大質量のスライムらしい。そんなのとどう戦えばいいんだよ、と思ったが氷系の魔術があれば楽勝らしい。なるほどね。
「ね~ぇ? レイト様ぁ♡」
もはやこうしないと気が済まないのか、と思えるほど、宿に泊まるたびにジュリエットは俺を求めてきた。モンスターから取れる魔石や素材はほぼ売り払っているので、金には困っていない。なのでダンジョンから帰るたびに宿代に困ることは無いのだが。ジュリアンが寝たタイミングで、俺のベッドに侵入してくるジュリエットにはどう対処したものか。いや、嬉しいよ? 嬉しいんだけどさぁ。
「ほら、レイト様のモノ。もうこんなに大きく……」
そりゃジュリエットの全ラなど見せられたら、こうなるに決まってる。
「今夜もたっぷりとお楽しみください」
「いや、なんでそこまで?」
「レイト様に全てを捧げるのが奴隷というものですから」
まぁバリアフリーでいつでも解除できる呪いではあるが。それを先方が望んでいないらしい。大丈夫か? ジュリエット。
「あ♡ あ♡ あ♡ しゅごいでしゅ! レイト様♡」
そうしてたっぷり楽しんだ後、嬉しそうに俺にキスをして、ソレから元の部屋へと戻っていく。さすがに俺と朝チュンでもしようものならジュリアンへの教育的影響に差し障りが出る……ということはジュリエットも分かっているようだ。しかし猫耳の未亡人で爆乳持ちとかどういう男のロマン過積載だよ。おっぱいなんてEランクですらないぞアレ。Gランクくらいまで落ちるんじゃないか? あくまでこっちの世界のランク付けで言えば。G……Gかぁ。Hかもしれない。あんな大きさの爆乳で挟まれると、私のアレはあんなことになってしまうのですね。南無。
「セルフミラージュ」
Dランク魔術、セルフミラージュをかけて、外に出る。今日は休憩日だ。休みの日はダンジョン探索も無しにしようと、俺とジュリアンとジュリエットで約束しており、その日はホケーッと王都を見て回っていた。軍警察が通りかかるとビクリとするが、一応俺がレイトだとはバレていない。セルフミラージュでイケメンになっているからな! 同じくセルフミラージュでいかついおっさん姿になっているジュリエット。ジュリアンは美少年だからいいとして、昨夜の情事について考えると、このおっさんが昨日の相手……と考えるとちょっと微妙な気分になる。いや、元の姿はとっても綺麗な未亡人なんですよ? 夫にも開発されていないのだろう。元人妻にしてはやけに初々しい身体とかはマジ最高なんだけど、俺って打ち首になったりしないか? 未亡人。素敵な言葉だ。
「じゃあ今日は武器でも見て回りましょうか」
ダンジョンはマテリアルアブソーバーで転移することで侵入できるわけだが、まぁそれはそれとして王都にも冒険者たちに武具を提供する店はあって。中にはオーダーメイドで装備を整えてくれる鍛冶屋まであるくらい。こういうところはベタなファンタジー設定だよなー。
「チッ」
その活気ある王都を見て、だがジュリアンは舌打ちした。
「大丈夫か?」
「あ、すみません。レイト様」
俺の気分を害したと思ったのだろう。ヘニョンと猫耳が垂れ下がった。こういうところは可愛いんだよな。猫耳最高。今のジュリエットはおっさんに猫耳がついているのである意味で兵器ではあるが。っていうか誰得。
「その……このヘルメス聖国の発展がアリフレム王国の貧困によって支えられていると思うと……」
「あー。だよなー」
完全に流通経路を握られているので、アリフレム王国はヘルメス聖国に逆らえない。最近なんて魔王討伐税とか言って、国民一人につき銀貨一枚を差し出せという話だった。そりゃ捕まりたくなかったから払ったけどさ。ヘルメス聖国とアリフレム王国を合算して二百万人。つまり銀貨二百万枚を勇者……この場合は矢佐間ユウシが手に入れたということだ。しかしどうしたものか。ハミルトニアンの推理では聖女様は……。
「私たちもナックルガードとか付けるべきでしょうか?」
「無いより在った方がいいかもな」
素手でキングトロールを撲殺するハイブラッドに、そもそも装備がいるのかも疑問だが。
血在魔法。修羅疾患。その恐ろしさは俺も知っている。
「おいーす。旦那」
で、マジックアイテムでおっさんになっているドワーフの経営する武具屋に、ジュリエットが入っていく。気さく過ぎないか? と思ったが、実際に舌打ちされた。
「見ない顔だな。そっちのいけ好かない兄ちゃんが冒険者か?」
ドワーフのおっさんが俺をじろりと見つめる。
「ランクは?」
「D」
「帰んな。ウチはBランクより上しか相手にしねーんだよ」
客を選ぶ商売って奴か。
「まぁまぁ見るだけだから」
ジュリエットはニコニコしたままドワーフの店番をとりなす。
「低ランク冒険者の手垢がつくと売れなくなるんだよ。帰れ」
「だからまぁそう言わず」
そうして店の中なら大丈夫と判断したのか。セルフミラージュを解く。現れたジュリエットの真の姿にドワーフの店番は青ざめる。
「げ、ゲェッ!? 撲殺天使!?」
「そのあだ名嫌いなんですけど」
俺も今初めて聞いた。
「特Aランクのあんたが何でDランクと一緒に!? っていうか年齢の若さじゃねーだろ!? 若作りにもほどがあるぞ!?」
「あー、そこら辺は説明する気無いから。とにかくこれで資格ありでしょ?」
「そりゃジュリエットを従えているって。Dランクは詐称か?」
いや、実際Dランクですけどね。
「ナックルガードとか売ってない? 低予算だからあんまり高いの買えないですけど」
「あんたに見繕うなら在庫じゃ無理だ。オーダーメイド必須だな」
なるほど。
「っていうか何でDランク冒険者と一緒にいるんだよ。お前なら引っ張りだこだろ」
まぁ実質Sランクみたいなものだし。パーティーを組むにも自由権はあるよな。
「ランクに騙されちゃいけませんよ。こちらのレイト様は七十階層まで私たちを導いてくれた偉大なるお方」
「お前が血路を開いたんじゃないか?」
「そういうレベルには無いのですよ。レイト様は」
「今、話を逸らしたな?」
うん。俺もそう思った。
「でも実際に戦ったら負けますしね」
「特Aランクの冒険者が負けを認めるって……兄ちゃん何者だい?」
「単なるお尋ね者です」
「レイト……レイト……レイト・ペネトか?」
「あ、知っていらっしゃる」
「別に軍警察にはチクらねえよ。あいつら税金代わりとか言ってこっちの装備をカツアゲしていくからな。肩を持つ理由がねえ」
そりゃ重畳。にしても凄いものだな鍛冶屋って。金属の輝きが鮮烈で、何というか心に刺さる。真に目的に特化した道具は輝いて見えるっていうけど、そんな感じ。




