第17話:バリアリブル
「うーん」
ハミルトニアンに言われた通りに俺はバリアフリーの反転作用を何とか覚えようと努力していた。ただしそれはかなり難しい作用の様で、俺がその領域に至るにはそこそこ苦労が発生する。
「そもそもミラークールエフェクトって……」
『コツさえつかめば簡単だよー。単にエフェクトを反転させるだけだから』
それが出来れば苦労していないんだがな。スキルの反転作用……ねえ?
バリアフリーの仕様なら幾らでも具現できる。けれどもその反転作用となると。
『ピャーっとやってピューッとだよ』
分かりにくいんだよ。反転術〇を説明する家〇か。まぁ要するに武術廻戦のアレなんだろうけども。にしてもバリアフリーの反転ねぇ。それによるバリアの構築。と言われてもだ。イメージできないモノは具現するのが難しい。
『だから意識そのものを反転させて、左ジャブの脳信号で右のストレートを打ち出すような』
余計出来るか。
「GUOOOOO!」
で、サクサク進んで、五十階層。フロアボスはキングトロール。巨大な体型のトロールは再生能力が高く、ひねくれた攻撃はしないが、その手に持つ大質量のこん棒は叩きのめすだけで盾ごとタンクをひねり潰す。フィジカル面では最強の一角と言っても問題ない存在である。
『わーお。ちょうど最適の相手がいるじゃん』
なんのことか。とハミルトニアンに問うと。
『変な罠も無いし。魔術も魔法も使ってこないし。ただ棍棒を振り回すだけのボスキャラだよ? ミラークールエフェクトには最適』
つまりボスモンスターを相手にミラークールエフェクトの練習をしろと?
『イグザクトリィ』
冗談だよな?
『もちろん全部本気だよー。ほら。お兄ちゃん。ミラークールエフェクト』
意識を反転……反転……。
「GUOOOO!」
キングトロールが棍棒を振ってくる。ソレを俺は躱すわけでもなく歩く。その俺に対してキングトロールの棍棒はすり抜けた。
「GH?」
キングトロールは何が起きたのか分からないだろう。とはいえ人語は通用しそうにないし、説明する義理も無いし。
「ミラークールエフェクトねぇ」
バリアフリーをミラークールエフェクトで反転させて、バリアリブルの能力……つまりバリア展開まで発展させる。
「あのー。レイト様。本当に私たちは……」
「ああ、手を出さんでくれ」
ジュリエットの危惧に俺はそう答える。ジュリアンもハラハラしながら俺を見ていたが、一応ハミルトニアンからお墨付きをもらっているし、ここでどうこうなるわけじゃないのだろう。相手がフィジカル一択で、しかもボスフロアは罠が無いのでスキルの練習にはもってこいだ。
『じゃあ。ヒント。フォースシールドって唱えてみて』
?
「フォースシールド」
コールをする。名前からして防御系の魔術なんだろうが。俺が差し出した手。その先に防御の力場が発生し、キングトロールの棍棒を弾いた。おお。これは?
『B級魔術。フォースシールド。すでに画竜点睛欠如詠唱で唱えておいたんだよ』
そりゃすごい。
『C級が十五万発。B級が一万五千発。A級が千五百発。今のところだいたいそれくらい待機させているから』
待て待て。言われている内容が規格外すぎる。
『だから幾らでも使っていいからね?』
なんかヒモ男にお小遣いを上げるダメ女の体を為してきたな。
『そう思うんならミラークールエフェクトくらいバシッと決めてみせてよ』
「そうは言われてもなぁ」
移動障害フリーで、移動している時の俺には、移動を妨げる要因は干渉できない。これを逆手にとって、常に歩いていることで、あらゆる攻撃を無効化する技術を俺は覚えていた。とは言ってもこれはバリアフリーでの話。今俺がすべきことは意識を反転させてミラークールエフェクトを成立させること。とは言っても。フォースシールドの感覚は覚えたから、その力場を俺のスキルで発生させる……ってことなんだろうけど。
「GUAAA!」
キングトロールが暴れまわる。俺は涼しい顔でそれをすり抜ける。歩いていることを条件にした無敵。とはいえそろそろラチがあかないな。
「ジュリアン。ジュリエット。チェンジ」
そう言って、キングトロールの相手を二人に任せる。二人とも修羅疾患を会得しているハイブラッド。特Aランクにも匹敵する戦力。であれば五十階層は別に苦でもないだろう。そうして一人、広いボスフロアの端っこで俺は幽体離脱を試みた。意識が体外に出て、そのまま肉体の方はぐったり。もちろん行動できないということは移動もできないので、移動障害フリーも機能しない。無防備を晒しているが、キングトロールがこっちに襲い掛かってくる気配はない。ジュリアンとジュリエットが引きつけてくれる。
「意識……反転……意識……」
多分脳で考えても結論が出ない。そう思って、クオリアを体外に押し出したのだ。意識だけなら何かわかるかもしれないし。同時にコンキスタドームを展開して、ジュリアンとジュリエットを見る。その圧倒的膂力はキングトロールよりも数段上で、それでも手加減をしているというのだから恐ろしい。ジュリアンたちハイブラッドにとってキングトロールは本気を出すまでもない相手……なのかもしれない。
「GUAAA!」
キングトロールが棍棒を振るう。
「風ッ!」
それを真っ向からジュリアンが受け止めようとして。
「マズい!」
正確にはマズくはないのだが、なんとなく焦ってしまった俺は、そのままジュリアンに手を伸ばす。引き延ばされる感覚。望みが形となり、意識がそれを為す。まるで左と右を取り違えるような感覚は。
『あー、そっか。クオリアだけになれば、ハミルちゃんが調整できるんだ』
そんなハミルトニアンの声が聞こえてきて。俺の意識が反転。正確にはベクトルが逆方向を向くというか。この感覚を言葉にするのは難しい。まさに『ピャーっとやってピューッとだよ』っていうハミルトニアンの言ったことがわかった。言語で説明できないことをよくもやらせようとしたな。という文句は後で言うとして。
「バリアリブル」
振り下ろされたキングトロールが棍棒。ソレを受け止める気でいるジュリアン。事前にジュリアンの修羅疾患なら全く問題なく止められるとは聞いていたが、それはそれとして俺も覚えたミラークールエフェクトを使ってみたい。というわけでバリアフリーのミラークールエフェクト……バリアリブルを展開する。もちろんコンキスタドームでボスフロアを包んでいるので、スキルの適応はフロア全体に及ぶ。そこで出来た障壁がジュリアンを襲おうとしている棍棒を弾いた。
「?????」
ジュリアンは何が起きたのか分からないだろう。そもそも俺はぐったり寝ているし。俺のクオリアが体外に出てスキルを操作しているなど、創造の埒外のはずだ。
「よっしゃ!」
そうしてクオリアが頭蓋の中に戻って、意識を取り戻した俺。意識のベクトルを逆にする感覚も掴んだし。後はキングトロールを……。
「恣意!」
と思った瞬間、キングトロールはジュリエットの一撃を受けて血だるまになった。無念。




