第13話:ギルドに入会
「うーん」
ギルド。冒険者と呼ばれる人間を統括する互助組織であり、名目上は国とは関係なく大陸そのもので自由を歌い、来るものを拒まない組織であると聞いている。大陸全体を合算すれば一国の戦力を軽く凌駕するため、一種のアンタッチャブルとなっており、特にS級冒険者を敵にすることは政治的敗北とさえ言われている。その辺についてはジュリエットから聞いただけで、俺自身はあまり実感の湧きようもないのだが。
「すみません」
セルフミラージュで幻による外見の詐称をしながら、俺はギルドの受付に声をかけた。
「はい。ようこそギルドへ。入会ですか?」
「あ、はい。よくわかりますね」
ちょっと俺は驚いた。
「お見かけしないお顔でしたので。ギルド所属の冒険者なら、少なくとも王都の方は全員憶えていますよ」
さいですか。さすがはギルドの受付員。
「それでご入会ということでよろしいのでしょうか?」
「ですです。何が必要ですか?」
「書類の記入と銀貨一枚。後は初期ランクを決めるための実戦試験ですね。不合格ということはありませんが、試験次第では最下級から始まります。どんな結果になろうと銀貨一枚は帰ってこないと思ってください」
「はーい」
なんとなく別の文字なのに意味が分かる書類には、執筆し、それから銀貨一枚を払う。
「レイト・ペネト……様。もしかして王都でお尋ね者になっている?」
「ええーと。はい。今は幻影魔術で姿を変えていますけど」
「承知しました。では試験に移らせていただきます」
「え? スルー?」
俺としても驚いた。通報されることを覚悟していたが。ジュリエットからは大丈夫だと言われていた。
「国法を無視するわけではありませんが、ギルドは国とは関係ありません。ヘルメス聖国がレイト様をギロチンにかけようと斟酌しませんが、逆に言えばレイト様が冒険者になることもお止めしませんよ」
なるほど。冒険者としての俺には都合をつけてくれるが、犯罪者として俺には勝手にしてくれって理論か。
「そちらの亜霊種は……」
ジュリアンとジュリエットのことだろう。
「俺の奴隷だ。話を聞くに、パーティーに奴隷を入れても問題ないと聞いているが」
「ええ、構いません。ただしギルドカードはレイト様にしか発行しませんし、奴隷にはクエストを受注する権利もありませんよ?」
「ああ、それでいいです」
そうして書類を審査されて、試験官と相対させられた。既に情報は伝わっているらしく、剣を握ったおっさんが試験場に待っていた。別に一目見て相手の力量がわかるアクション漫画の世界じゃないんだから、俺には剣を持ったおっさんがどれだけ強いのか分からないが。奴隷であるジュリアンとジュリエットは、あくまで見学。カードを発行する俺の実力を見るとのこと。受付が書類を見せて、それを試験官が精査。そうして受付はデスクワークへと戻って行って、試験場には俺と試験官。ジュリアンたちは見学。
「魔力Eとのことだが……本当か?」
「間違いないです」
「ふむ……」
剣を握ったまま、考えるように試験官は唸る。
「何かマズいですか?」
「マズい……というわけではないがな。体を鍛えるにも限界はある。身体能力を確保したいなら魔術でバフをかけるのが手っ取り早い。そう言う意味でも高位の冒険者はほぼ魔力ランクが高いのだ」
「つまり俺に才能はないと」
「そういうわけだな」
歯に衣着せぬ言い方だった。だが事実なのだろう。純霊種にしか使えない魔術。それが冒険者の格を決めるのはこの世界の事実らしい。はぁ。いけ好かないと思いつつ、勇者に任命された矢佐間のAランク魔力がちょっと羨ましい。
「とはいえだ。別に魔力が低くても冒険者をやれないことはない。死んで後悔するのは本人の意志だからな」
ダンジョンでどうなろうとギルドが知ったことではない。そうも聞こえる。
「武器は持ってないのか?」
「ええ。必要ないかと」
「私は剣を使うが……それでもか?」
「他に切り札があるもので」
「武器を持たず、E級魔力で……切り札か。面白い」
話は聞いている。試験官と戦うことで、本人の戦力を把握。その強さによってEランクからCランクに振り分けられる。Bランクより上は、クエストの達成や圧倒的強さによって昇級が認められ、どんな強さを持っていても入会初期はCランクより上はない。
「では始めるか」
剣を片手で構えて、試験官が言う。そうして、空いた片手でコインを投げ、それが地面に落ちた瞬間が試験開始……らしい。チリンとコインが地面と接触した。瞬間、俺はクオリアを広げて試験場を包み込む。広がる速度はあまりに速い。こういう事には慣れている。そして認知領域に試験官を含めると、容赦なくエレクトキシンを実行する。バリアフリーによる神経の失調。それは筋肉にすら影響する。
「ッッッ?」
握っていた剣を持つ手が痙攣して、試験官は剣を取り落す。バトラコトキシンと違って、バリアフリーのスキルは一瞬で神経系を混乱させる。つまり毒の注入から効果の発生までに時間のラグが無い。一回指定した場所にエレクトキシンを適応させれば速攻で効果を現すのだ。
「何を……したんだ?」
「毒を注入しました」
別に隠すことでもないし。どうせエレクトキシンは他者に見せてもいい能力でしかない。ハミルトニアンとか、その根源であるバリアフリーは「絶対に口外するな」とハミルトニアンに言われているが、エレクトキシンはその限りではない。だよな?
『うん。だよー』
ハミルトニアンもそのために俺にエレクトキシンを覚えさせたのかもしれない。毒スキルと周囲に誤認させるために。
「即効性の毒……それも私に気付かれず。ちなみに遠慮をしなければ私を殺せますか?」
「まぁ。訳ないですね」
肺とか心臓が異常をきたせば、エレクトキシンで即死するだろう。
「無感覚で付与する毒。これは強烈ですね」
「他は出来ないんですけどね」
「了解しました。Dランクを推奨します」
Cランクではない、か。
「理由は?」
「毒が聞くのが生物系のモンスターに限ることですね。離れた相手に気付かれずに毒を適応させるのは脅威ですが、植物系やアンデッド……ゴーレムなどのモンスターにはそもそも毒が効きませんし」
なるほど。盲点だ。
「とはいえ、王都で冒険者になるんです。ダンジョンに潜るのでしょう?」
「ええーと。はい」
「魔王討伐を目的に?」
「否ですね」
「よろしい。話は通しておきます。ギルドカードも発行しますが、軍警察の仕事も邪魔をするつもりはありませんので悪しからず」
俺が逮捕されてもギルドが擁護することはない……らしい。いいけどさ。




