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デブで無能と蔑まれた俺はアンノウンスキル【バリアフリー】で全てを手に入れる ~俺を蔑み虐げた王族と勇者は地獄を見るようです~  作者: 揚羽常時


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第12話:勇者の弊害【三人称視点】


「魔王討伐税だと!?」


 半島国家アリフレム王国。それは大陸の西から海に伸びる半島にあり、不幸なことに国境を接しているのはヘルメス聖国だけという。そのヘルメス聖国から侵略を受けて、植民地として扱われ、それを王族も調印していた。だがそれにしても、これはあまりにも不条理といえる要求だった。ヘルメス聖国が魔王を討伐するために勇者を召喚した。その支援を国を挙げて行うので、アリフレム王国にも徴税を課す。一見筋が通っているようで無茶苦茶とも言える非情な政治判断。そもそも勝手に異世界から勇者を召喚しただけでも国際議論の的だが、その勇者に関係のないアリフレム王国の国民に金を出せという。それこそ国民が暴動を起こしておかしくない。アリフレム王国の国民にとってヘルメス聖国は不俱戴天の仇であり、その世論において肯定されることはまずない。当たり前だ。アリフレム王国を奴隷のように取り扱い、希少な鉱物であるマテリアルアブソーバーを安値で買い取っているのだ。それをアイテムボックスに加工して他国の商人に高値で売り、栄華を極めているヘルメス聖国。逆にアリフレム王国が他国から物資を輸入するには必ずヘルメス聖国の関税を通す必要があり、その関税の不条理さに国としても頭を抱えていた。アリフレム王国が今成り立っているのは、半島国家故の海産物による飢餓の回避と、ヘルメス聖国が本格的に戦争行為に走っていないが故だ。ほぼ亜人で構成されているアリフレム王国にとってヘルメス聖国が掲げるピュアリズム運動はあまりに乖離しており、しかもその純霊種の持つ威力の脅威から国を守るにはアリフレム王国の王族がヘルメス聖国そのものに頭を下げているが故だ。独立戦争を仕掛けるべきだと息巻く国民は多いが、それでもアリフレム王国がそれを決心しないのは、純霊種だけが使える魔術という異常性能が起因している。呪文を唱え魔力を使うだけで世界に刻まれている術式を励起させて超常現象を取り扱う。これは純霊種にだけ許された特権。亜霊種にも血在魔法という能力を持つ者はいるが、その割合はあまりに低く、なおその血在魔法を誇っていた四公は魔公と言われ封印されている。四公自体はアリフレム王国には関係ないが、それでも純霊種のあまりの世界に対する威力行為そのものが特筆しており、逆らうことがどれだけの自殺行為かを、この大陸の亜霊種は骨の髄まで知っているのだ。


「いや、しかし……」


 そこまで分かっていながら、それでも今回ヘルメス聖国が押し付けてきた徴税は酷すぎる。魔王討伐税と言えば聞こえはいいが、要するに勇者に大金を支払えという話だ。国民一人につき銀貨一枚。国全体で考えれば百万人弱の亜人を擁するアリフレム王国に日本円で二十億を支払えと言われている等しい。ただ一人の人間のために国が銀貨百万枚。おそらくこれを国中に公布すれば反逆思想の亜霊種は爆発するだろう。結果どうなるかなど火を見るより明らかだ。軍属魔術師が統率されたアリフレム王国の一個大隊を一撃で吹き飛ばしたのは、既に百年前のこと。その威力を語られて、怯えていたアリフレム王国ではあるのだが、それでも気位が理性を超えることもある。


「どうなされますか? 陛下……」


 宰相が冷や汗を流して問う。答えようのない問いをしていることを宰相の側も知っている。ヘルメス聖国とアリフレム王国の経済事情は前者に思い切り天秤が傾いている。マテリアルアブソーバーの一事で、膨大な富を得ているのはヘルメス聖国の方だ。ただそのマテリアルアブソーバーを採掘して安値で売っているアリフレム王国にはもはや経済の余裕が無い。低層国民にとっては銀貨一枚でも大金だという、その事実を踏まえれば、国民に一人につき銀貨一枚を要求するのは虎の尾を踏むに等しい暴挙。


「国庫から出せないか?」


 王様の意見は良心に富んでいたが、宰相の結論はさらに追い打ちをかける。


「今年だけなら何とか。しかし毎年となると……」


 それもそれで自明の理だ。


「どうしてこうなった」


 先代の国王から涙ながらに言われた「すまん」という言葉を、現国王は痛烈に思い知っていた。賢王である聖女が王として振る舞っていたかつてのヘルメス聖国の影はもはやなく。愚王フェイクリストが支配する今のヘルメス聖国はもはや単なる悪辣でしかない。剣を取るしかないのか。そう思い詰める国王。だが、百年前の侵略戦争の結果については聞いている。純霊種にだけ許された魔術という名の戦略兵器。一人で一個大隊に匹敵する威力の術師を、ヘルメス聖国は組織単位で保有している。まだしもフェイクリスト王家だけを暗殺する方が損得の領分で言えば経済的。だがそれでも王の首が挿げ替えられるだけでヘルメス聖国そのものの変革は起きないだろう。ヘルメス聖国の国民そのものがアリフレム王国の上に胡坐をかいて裕福な暮らしをしているという、その事実を忘れている。ただ搾り取れるだけ王国から搾り取って、王国民がどれだけひもじい思いをしようと一瞥もしないのだ。


「どうしますか……陛下」


 最終決定権は国王にある。宰相としては王が独立戦争を宣言するなら肯定するつもりだった。既にアリフレム王国に未来はない。漁業による飢えが無いだけで文明的な恩恵は、それこそ無いに等しい。


「国庫から出せ。とりあえず今年だけ……今年だけだ……」


 最悪の選択の引き延ばし。そう受け取られてもしょうがないことを国王は言っている。だが戦おうにも軍隊はヘルメス聖国の政治干渉によって弱体化している。独立を訴えるクーデター連中は魔術師の持つ戦略的な威力を知らない。金を出せば出すだけ、次の要求が重くなることを分かっていながら、血を吐く思いで国王は言う。その金で武器を買って、戦力を整えようにも、海路で輸入するのにも限界はあるし、陸路はヘルメス聖国が百パーセント握っている。


「他国の勇者に銀貨百万枚を……出せ……と」


 金貨にして五万枚。ヘルメス聖国であれば涼しい顔で出せるだろうが、圧迫されているアリフレム王国の国庫は、それすらも血を吐く思いだ。


「クーデター派には知らせるな。暴発されては困る」


「わかっておりますが……ヘルメス聖国が我が国全体に公布した場合は……」


「…………」


 どうしようもない。もはやクーデター派は王族の消極的な姿勢すらも憎悪しているレベルだ。国庫から金貨五万枚を出すという王の決断すら愛国の欠如と映るだろう。だが彼らは知らないのだ。魔術と呼ばれる行為の、そのあまりの威力を。


「余の首が落ちるだけで済めばいいが」


「陛下。その時は海路を使ってお逃げください。どこか……聡明な国で亡命政府を打ち立ててください」


 無謀と知りつつ、宰相はそう言った。気休めにもならない……その言葉を。


 アリフレム王国のマテリアルアブソーバーの物価が上がればアイテムボックスの値段も上がる。そんなことを商人が認めるはずもなく。大商人などは場合によっては政治に口も出せる立場であり、彼らがマテリアルアブソーバーの物価を管理している限り、どうあってもアリフレム王国に未来はない。奴隷として生き延びるか。それとも矜持に殉じて死ぬか。平和に、温かく、幸福に満ちて一生を終えるということを、今のアリフレム王国の国民は許されていないのだ。


「聖女様は……御帰還されないか……」


「魔王討伐のためにダンジョンに潜り失踪。以降……誰も確認しておりません」


 それはヘルメス聖国においてもそうだ。フェイクリストが偶像崇拝すらも禁止したため、聖女の存在は噂で語られるだけで、その顔を覚えているのはもはやいない。百年前に聖女の顔をじかに見て、その御尊貌を覚えている老人などいるはずもなく。


「どうすれば良いのだ……余は……」


「速やかに国庫から魔王討伐税を出します。ヘルメス聖国が我が国に税を公布する前に納税すれば、あるいはその口を閉じてくれる可能性も……」


「すまん……すまんな……」


 王にあるまじき。宰相に謝罪をするなど。宰相も恐縮した。


「何を仰います。陛下の賢明な判断にむしろ私は尊敬さえも覚えておりますれば」


 ヘルメス聖国がイチャモンを付けてくる前に、税金を納める。クーデター派が暴発するより先に事を収める。問題は、それ自体が問題の先送りであり、来年同じ額を請求されるともはやどうしようもないという事実のみが残っている。


 魔術の威力を知らない一部の反骨精神の持ち主をどう政治的に収めるか。ヘルメス聖国との板挟みになりながら、それを指示している国王を本気で宰相は尊敬していた。場合によっては王都そのものが灰燼に帰してもおかしくないのだ。矜持と命。どちらを取るべきかは時代によって変わるが、人は戦争の開始に前者を理由にし、戦争を終えるときに後者を理由にする。だがそのどちらもを失った時、アリフレム王国がどうなるかを、想像しただけで国王も宰相も背筋に悪寒を覚えざるを得ないのだ。


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