第11話:奴隷契約
「えーと」
俺はジュリアンとジュリエットに連れていかれて、奴隷専門の業者のところに顔を出していた。なんでも奴隷を売買する業者らしく。日本出身としては考えられないが、まぁ異世界だしそこはそれで納得するとして。
「俺と奴隷契約?」
「ああ、俺はレイト様の奴隷になりたい!」
「私もです。レイト様への恩義の一端として、是非とも奴隷契約をさせてください」
おい。ハミルトニアン。
『え、エッチなことですか?』
違います。俺のセルフミラージュを解いてくれ。
『別にいいけど』
そうしてD級魔術セルフミラージュを解く。現れたのはブタに形容される醜い辺根斗レイト。全身が肥満体質で、見るも無残に見るモノを不快にするデブだ。
「ちょっと王族から逃げるために魔術で正体を誤魔化していただけで、俺の本当の姿はこれだ。こんなデブの奴隷になんてなりたくないだろ?」
「いいえ。違いますわ。私もジュリアンもレイト様の魂に心酔したのです。レイト様さえよろしければ、このまま奴隷契約を。安心してください。これでもお役に立てることは多いはずです」
『ブタ』
『キモッ』
『景観破壊』
『生きてて恥ずかしくないの?』
元の世界で言われた心無い言葉が思い出される。俺をキモいと、ブタだと、デブだと、人間ではないと、そう扱われていた俺に、ジュリエットは魂に惚れたと言ってくれた。
「ジュリアンは……」
「俺もレイト様の奴隷になりたいぜ! レイト様がどんな人間なのかは全部じゃないけど知ってる。別に外見で見切るような、そんな非礼はしないと誓うぞ」
「本当に……か?」
「安心してください。ここにいるのはレイト様の忠実な奴隷親子です」
そうしてジュリエットが奴隷商人に契約のことを求める。
「はは、珍妙なお客様だ。こんな愛らしいライカンスロープの親子を奴隷にするなんて。それにお客様、今王都で話題のお尋ね者ではありませんか」
「お尋ね者?」
キョトンと、負の感情を出さないままジュリエットが首を傾げた。
「ああ、元々地下牢に閉じ込められて、スキルで脱獄してきたの。で、賞金首扱い」
これで親子が俺の奴隷志願を諦めるならそれでいい。
「でしたら尚のこと私たちを奴隷にしてください。これでも戦闘能力はかなり高いですよ?」
「マジで言ってる?」
「どこまでも本気ですが……」
「業者さん。早く契約の魔術を」
「ああ、そうですね。では準備をしましょうか」
『まぁ別に奴隷商人にしてもらわなくてもサーヴァントギアスの魔術は使えるけどね』
そこはまぁ餅は餅屋だろ。ハミルトニアンにそうツッコむ。そうして俺の血を混ぜた墨で胸元に奴隷紋を描き、宣言を唱えることで奴隷紋がジュリアンとジュリエットの身体に馴染む。何か変わったことはないようにも思うのだが。
「これで奴隷契約は完了しました。以降二人がレイト様に悪意を持つようなことがあれば、契約魔術によって拷問にも等しい罰が具現し、一切逆らうことができないようになっております」
だから日本出身の俺にそんな不条理なシステムを聞かされるのは、そっちの方が拷問なんだが。まぁいいか。
「それでは冒険者ギルドに向かいますか? ご主人様」
ご主人様って。
「レイト様と呼んでもいいのですけど、お尋ね者になっているご主人様を名前で呼ぶのも躊躇われて」
「まぁそうだよなぁ」
「俺もご主人様って呼ぶぜ。ご主人様の嫌疑が晴れたら、その時はレイト様って呼んでいいか?」
「まぁそうだな。そうなったらお願いする」
まぁ妥協案としては悪くない。
「ソレで幾らだ?」
「銀貨五枚……と言いたいところですが、王国の指名手配に便宜を図ったとバレたらわたくしの立場が危ういです。金貨一枚払ってくだされば、ここでのことは一切口外いたしませんが……どうですか?」
「じゃあ金貨二枚だ。また何かあったら黙秘で融通を利かせてくれ」
「ほっほっほ。まさか奴隷契約だけで金貨二枚にありつけるとは。お任せくださいレイト様。以降我が商会はレイト様を最高位の顧客としてお迎えさせていただきます」
「ああ、助かるよ」
まぁ口封じのためなら金貨二枚は惜しくない。っていうかアイテムボックスには結構金あるし。さて、とすると。
「冒険者ギルドですか?」
『その前に美術館に行かない? 聖女の顔とか知りたいよね』
ハミルトニアンが最もなことを言った。お前は顔わかんねーの?
『知っているという意味では分かるけど、索引が無いんだって』
便利なのか不便なのか。
『失礼だよー。お兄ちゃんのその発言』
悪かったよ。これまでも助けてくれていたしな。
『なんたって全知の助言者だからね!』
それにしてはちょっとポンコツだが。というわけで美術館に向かうのだが。それより先に奴隷商人に指輪を買わされた。銀貨十枚で。セルフミラージュを刻印している指輪で、それをジュリエット用に。ジュリエットはライカンスロープであることを除外するととても愛らしい女性で、ボンキュッボンのナイスバディ。俺の奴隷だとすれば、俺を襲って主従権を奪おうとする輩も出るだろうということだ。なのでゴッツイ男に見えるようなセルフミラージュをかけたマジックアイテムの指輪を付けて、男がジュリエットに色目を使わないようにと配慮してくれたのだ。金はしっかりとられたが。
「美術館ね」
そうしてジュリアンとジュリエットを連れて美術館へ。だが聖女の絵画も像も、一切なかった。何故か、と美術館の管理人に問うとこういう答えが返ってきた。
「聖女様を偶像崇拝するのは国法で禁止されているのです。絵画も像も、何もかもが、です。私も百年前に失踪した聖女様のことは話には聞いていても実際の顔までは知りません」
『嘘ついてるよー』
こういう時はハミルトニアンって便利だな。コンキスタドームで美術館全体をフォローする。ドーム状に広げても特に不自然なことはない。とすると。
『地下かな?』
だろうよ。コンキスタドームをドーム状ではなく球状に広げる。足元に広がる閉ざされたもう一つの美術館。おそらく悪趣味な貴族用のソレだろう。拷問器具。人の身体の部位。流れている血。そしてオークション会場。おそらくだがこの美術館の暗部が地下にはある。だがそれは……どうでもいいとは言わないが、ここで告発しても意味はない。それよりもさらに奥に保管してある幾つかの絵画や石像。それははっきりと聖女を偶像化したものだった。おそらく悪趣味な貴族にさえ見せていないこの美術館の最秘奥。俺のコンキスタドームで初めて知り得る情報。愛らしい……というより神々しい綺麗で可憐な女性で、絵画の色を信じるなら銀色の髪の乙女。たしかハミルトニアンによれば不老不死だから、この姿のまま成長していないのだろう。あくまで事実ならだが。
「ふむ」
「美術館はお気に召していただけましたでしょうか?」
「ああ、参考になった」
管理人に礼を言って、俺は美術館を去る。後は聖女が失踪したというダンジョンに潜って、隅々まで捜索するだけなんだが……モンスターに殺されても死なないのか? 聖女って。というとハミルトニアンが保証してくれた。さいですか。
『うん。死なないよー。生きている可能性が百パーセントだよお兄ちゃん♪』




