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王都騒擾 それぞれの戦い

 賑わいのあった城下町はすでに戦場。むせ返るような匂いがそこらじゅうに溢れていた。


「たすけて……たすけてください……」


 足を負傷した牛の怪人が人に救いを求める。怪人は砂利の上を必死に後退し、まるで戦えるような、まして反撃などとても出来るような状態ではなかった。

 それでも人はギラギラとした目をその怪人に向け無言で血のついた農具を振りかざす。


「あああああああああ!」


 甲高い金属音が鳴り響く。

 振り下ろされた農具は怪人へとは届かず一本の刀によって防がれていた。

 刀は農具を弾くとこれを斬り伏せる。


「安心しろ、峰打ちだ。もっとも3日は起きれないがな」


 彼女は剣を収めるとすぐに怪人の応急処置に取り掛かる。


「立て! 逃げろ! 一人で動けない者には手を貸してやれ!」


 魔王軍統率代理者アンムルム・サイド。魔王軍戦闘部隊の指揮を任されており、吸血獣とエルフのハーフであった。


「代理! 敵がB地区まで来ております!」


「わかった! あとはこちらでやる!」


 了解と答え来た道を戻る兵を見つめアンムルムはこの町に住む友人を思う。

 彼は今無事だろうか。いや今そんな私情を持ち込むのはいけない。

 変わりゆく戦場で何をすればいいのか。それを一人で考えないといけない。彼女はそうゆう立場にある。


「まずは敵の位置からか」


 アンムルムは近くの残骸から比較的無事な机を引っ張りだすとそこに町の地図を広げる。

 この町は軍によって外側から順にA地区B地区C地区D地区と区分けされている。

 敵は今、外側から二つ目のB地区にいるはずなのだ。

 知りたいのは敵がどこから魔界に来ているか。つまり魔界と地上を繋げるゲートはどこにあるのか。

 知っていること、知りたいこと、敵の位置、味方の位置、全てを地図に書き込んでいく。

 この魔界は1代目の魔王が消えてから一回も戦争をした事がない。

 2代目がそのようにしたから。それが今、アダとなって浮き彫りになっている。

 彼女の中で一旦、状況の整理がつくと地図を折り畳み軍服の内ポケットにそれをしまう。


「ゲートを破壊して町を『ウォール』で覆い、残りを一匹ずつしらみつぶしに退治するのが一番か……」


 作戦といえるほどのものではないが今後の方針が確定したのでテレパシーを使うため右手を耳に当てる。別にテレパシーを使うこと自体に耳に手を当てる必要はないのだがこうしないと雑音が入ってきて集中出来ないのだ。

 連絡先は他の場所で戦っているはずの第2軍隊長ジュアル・ダッガー。リザードマンという種族の魔物だ。剣の腕に長け、それだけなら自分では敵わないだろう。


「ジュアル。大丈夫か?」


「ヘイ、おかげさまでね。魔王様の不殺の命令の所為で少しうずうずしてますが」


「だからって殺すなよ?」


「わかってますって」


 本当にわかっているのだろうか。あいつは適当なところがよく目につくため少し不安である。ついやっちゃったで殺されては困るのだ。


「それよりなんか用があったんじゃないんすか?」


「ああ、今から今後の方針を伝える。よく聞いておけ。……まず奴らが魔界に入って来ているゲートを潰す。その後、この町を『ウォール』で覆え」


「町を覆うって、そんなことしていいんすか?」


「敵を逃さないためだ。魔王様には何しても良いと言われている」


「了解っす」


「よし。その後は一体ずつ潰す。わかったか」


「本当に潰しちゃダメっすよ?」


「そんなことわかっている。比喩だ。まぁ自分が危ないときは迷わず殺せといわれているが……その調子じゃ今後も大丈夫そうだな。あとは任せたぞ」


 テレパシーを終了し、右手を下ろす。


「やれやれ、有名人も大変だ」


 アンムルムが会話しているのを聞きつけたのか、辺りには赤く充血した目の人間達が物陰からこちらの様子を伺っていた。

 小石を蹴り飛ばす。これを合図に人間達は襲いかかってきた。


「そうこなくてはな」


 抜刀。瓦礫から出てきたのをこれでねじ伏せる。そして剣を引き、背後からの一匹を柄頭で打ち、他、3体の攻撃をステップで避ける。


「まだまだだ」


 ウォーミングアップにもならない。首を左右に振りコキコキと鳴らす。

 まず一体の攻撃を一通り避け、その上で足払いし揺れた頭を上段蹴りで昏倒させる。そのまま刀の鞘を軸に上げた脚で回転蹴りを放つ。四匹目の顔に脚がめり込み、そのまま吹き飛ぶ。最後にやけになって突っ込んでくる五匹目を斬り伏せたら終わりだ。

 ゆっくりと刀を収め、アンムルムは激戦区へ向かって歩いていく。










 魔王が出てから2時間、戦えないものを除き城には俺と愛しい娘しかいないらしい。

 それはいい。どうせ無機物なんぞ守っても仕方ない。彼らが守るべき魔王は外にいるのだから。でもな……どこだよ! ここ!

 輝石探してすごい時間経ってる! 守れっていわれたのにまず場所分かんないじゃ意味ねぇ!


「おばあちゃんに場所聞いておけば良かったね」


 ああ、そうだよなぁ。三千は頭いい、さすが俺の娘。状況がわかってるのかわかってないのか知らないがすごいニコニコしてる!

 城の窓からいくらか黒煙が確認できるため戦いもまだまだ続くだろう。

 あーあ、こんなときルティアさんがいればパパッと魔法でみつけてくれるんだろうなぁー。


「お父さん……私、眠くなってきちゃった」


 ん? ああ、ごめんな。俺の用につき合わせちゃって。もうずっと歩きっぱなしだしそこのソファで横になってな。


「うん。ありがとうお父さん。おやすみ」


 三千が眠ったのを確認し、自分も一息つく。


──検索


 ん? 突然なんだ? 


──城へ侵入した敵の侵入経路


 ……は?


──検索結果──二階、書斎右奥にてゲート作成の形跡あり。現在は消失しております。


 いやいやいや!? そうじゃねぇだろ! 逃げるぞ娘よ! ここにいたら攻撃される!


「むう……もう食べられないよ……」


 そうだった! でも寝てるからといって置き去りにするわけにはいかない。かわいそうだが起きろ三千。


「むにゃ、お父さんがいっぱい……」


 なにそれキモ。ふと手を伸ばす感覚で触手が伸びる。

 いやぁぁぁぁぁぁ!? なんか出てきた……って山田くんまた死んだのか。まぁ俺のスキルが戻ってくるんだったら別にいいんだけど。

 俺は三千の身体を揺すり彼女を起こそうとする。もうちょっと寝かせてやりたいがこれしかないのだ。













「Arrrr これで24回目……」


 少年の死体が転がり光を帯びて復活する。

 幾度となく殺され、今まで怖いものは無いと粋がっていた少年は初めて異世界の恐怖と直面した。

今回も読んでいただきありがとうございます

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