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絆のトレーニングノート:始まりの春、強さの種  作者: たまに何かを書く人
【第10章】新しいページの始まりへ

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第七節 証としての記録、証としてのからだ

三月――まだ空気は冷たいが、どこかに春の気配が漂いはじめる季節。

小学校生活もいよいよ終わりに近づき、教室では卒業に向けた準備や片づけが続いていた。


そんなある日、さちは母・真由美と一緒に、街の衣料品店を訪れた。中学校で着る制服の採寸のためだった。


「大きくなったね、さち」

歩きながら、真由美がふとつぶやく。


「えっ、そんなに変わったかな?」

「変わったよ。背も高くなったし……腕も脚も、筋肉がすごいもん」


さちはちょっと照れたように笑った。


店に入り、案内されたのは奥の試着室。

制服売り場の女性店員がにこやかに迎え、さちを鏡の前に立たせる。


「じゃあ、採寸していきますね。腕を横に――はい、じっとしててくださいね」


店員は慣れた手つきでメジャーを滑らせていく。だが、肩まわりや腕の太さを測るたび、わずかに眉を上げた。


(この子……ほんとに小学生?)


試着用の制服を受け取ったさちは、袖を通して上着を羽織った。


「うわ……なんか、キツいかも……」


そのとき、にぎやかな声が入り口から聞こえてきた。


「さちー!」


顔を上げると、ハルとユキ、そして母のあかねが入ってくるところだった。


「うわっ、さち、それ制服ちっちゃくない?」

ハルがにやっと笑う。


「ちょっとー、それ言わないでよ~!」


それを聞いていた店員が、真由美に向き直った。


「実はこちらの試着用制服は標準的なサイズでして……さちさんの場合、肩幅や胸囲、それに腕の発達を考えると、やや窮屈になるようです。今後の成長も踏まえて、2サイズ上を丈詰めしてご使用いただくのがよろしいかと思います」


「うちも、まったく同じこと言われたよ」

ユキが肩をすくめて苦笑する。


「ほんと? なんか安心したかも……」

さちがほっとしたように笑った。


娘たちのたくましく成長した背中と、楽しそうに笑い合う姿を見つめながら、真由美とあかねはそっと目を細めた。


「……あの子たち、本当に頑張ってきたんですね」

「うん。誇りだね」


静かに語る母たちの瞳に、ほんのりと光が宿っていた。


「じゃあ、次は体力テストだね」

「うん。全力でやり切ろう!」


3人は軽く拳を合わせ、笑顔を交わした。


──


そして、体力テスト当日。


帰りの会が終わるやいなや、4人はまっすぐ体育館へ向かった。


「まずはウォーミングアップ、入念にね!」

リンが明るく声をかける。


ストレッチ、ジョグ、軽いジャンプ。声をかけ合いながら、テンポよく身体を温めていく。


「A評価、絶対取りたいね!」

「うん、気合い入れていこ!」


最初は屋外のテスト。グラウンドに出て、50m走とソフトボール投げに取り組む。


冷たい風の中でも、4人の動きは鋭かった。


「速っ……!」

「6月よりかなりタイム縮んでる!」


次に移動した体育館では、握力、上体起こし、反復横跳び、立ち幅跳び、長座体前屈、そして20mシャトルランと続いていく。


「長座体前屈、私……前は全然だったのに!」

「ハル、記録伸びてるよ! ユキも!」


フォームの美しさと柔軟性を見たリンが、思わず拍手を送る。


「You two… really improved! Great job!」


すべての種目を終えた4人は、床に並んで座り、配布された記録表を手にした。


「さて……結果はどうかな?」


記録と評価の一覧を照らし合わせていく。


「やった……Aだ!」

「わたしも! やったー!」


ハルとユキが満面の笑みを浮かべる。


「私は……あと1点足りなかった。Bだった」

「私も……Aの手前で止まっちゃったな」


リンとさちは、わずかに悔しそうに眉を寄せたが、すぐに前を向いた。


「でも、6月の私たちからは、信じられないくらい成長してるよね」

「そう。あのときは、長座体前屈、全然届かなかったのに」


「さちは本当に変わったよ」

「体も、心も」


ハルとユキが、しみじみと語る。


さちは静かに頷いた。


「……私、最初はトレーニングなんて、自分には無理だと思ってた。でも今は――この体が、ここまで来た証なんだって思える」


視線の先にある鏡に、今の自分が映っていた。

肩には、かつてはなかった筋の浮かびがあり、

上腕もすっきりと引き締まっていた。

そして腹筋には、たしかに積み重ねた努力の跡が見えた。


もう、かつて「運動が苦手だった自分」の姿はなかった。


4人は立ち上がり、自然に肩を寄せた。


「中学に行っても、もっと強くなろう」

「“トレノ”は、ずっと続くよ」

「だって、絆は――力だからね」


差し込む日差しの中で、体育館の床に伸びる4人の影は、たしかな歩みを刻んでいた。


挿絵(By みてみん)

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