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絆のトレーニングノート:始まりの春、強さの種  作者: たまに何かを書く人
【第10章】新しいページの始まりへ

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第八節 新しいページの始まり

「ねえ、お母さん……変じゃない?」


真新しい中学校の制服に袖を通し、鏡の前で立ち尽くすさちが、そっと問いかけた。


真由美は、一瞬だけ言葉を詰まらせたあと、ふわりと微笑んだ。


「変じゃないよ。すごく似合ってる」


その声には、少しだけ震えが混じっていた。娘の姿を前に、これまでの月日が胸にあふれ出した。運動が苦手で、自信を持てなかったあの頃。そして今――。


「ありがとう、さち。こんなふうに変わってくれて、本当にありがとう」


「……うん。行ってくるね」


照れくさそうに笑い、玄関へ向かうさち。扉を開けると、春の朝のやわらかな風が頬をなでた。



教室では、制服姿のクラスメイトたちが楽しそうに談笑していた。どこか大人びた雰囲気も漂う中、いつものような笑い声が教室を明るく包んでいた。


「さちー!」


ハル、ユキ、リンが手を振って迎えてくれる。


「わあ、さちの制服姿、すごく似合ってる!」


「でも……それ、標準サイズじゃないよね?」


「わっ、やっぱバレてる……!」


クスクス笑いながら駆け寄ってくるクラスメイト。


「それ、ハルが言ったでしょ?」

「だってさち、試着のときちょっとパツパツだったし」

「ユキも一緒に笑ってたじゃん~!」


明るい笑い声が広がる。


さちは、少し照れながらも口を開いた。


「……今、こうして笑っていられるのも、この身体も……3人がそばにいてくれたから。ほんとに、ありがとう」


まっすぐな声に、3人も笑みを返す。


「中学でも、ずっと一緒にいようね。“チームトレノ”は、まだまだこれからだもん」


その言葉に、全員が力強く頷いた。


黒板には、担任が丁寧に書いた大きな文字があった。


「卒業 おめでとう」



卒業式が始まる。


体育館に整列した卒業生たちが、拍手に迎えられながら入場してくる。


保護者席には、キャサリン、マーク、真由美、あかね、たくみ――家族たちが見守っていた。


名前を呼ばれ、一人ひとり壇上に上がっていく。


「白川さち!」


「はい!」


はっきりとした返事と、堂々とした立ち姿に、真由美は思わず目頭を押さえた。


卒業証書を受け取る娘の姿。小さかった背中は、いま確かな強さを宿していた。


在校生と向かい合い、それぞれが言葉を交わす。


「ありがとう」

「忘れません」

「また会いましょう」


そして、卒業生全員による「仰げば尊し」が始まる。


さちは、そっと目を閉じた。


スイミングスクールの練習、放課後の筋トレ、笑い合った時間、悔しさに涙した日々――


次々に思い出が胸をよぎり、知らぬ間に一粒の涙が頬を伝っていた。


ハルも、ユキも、リンも、それぞれが目に涙を浮かべ、最後の音を歌いきった。



式が終わり、拍手に包まれて教室へ戻る。


最後の帰りの会。担任は黒板を見つめながら、声を震わせた。


「みんなの成長を、毎日そばで見られたこと……本当に幸せでした。ありがとう。このクラスの担任になれて、本当に、よかった……!」


教室中にすすり泣きが広がる。


「ありがとうございました!」


元気な声がこだまし、最後の挨拶が締めくくられた。



「ほんとに、卒業なんだね」


夕暮れの校庭で、4人は校舎を見上げながら立ち尽くしていた。


「でも、中学ですぐ会えるし」


「そうそう。“チームトレノ”は、ここからが新しいページの始まりだよ」


「うん、これからもよろしく!」


肩を組んで笑い合う4人。その視線の先には、確かな未来があった。


「じゃあ、今日もトレーニング……行くよ!」


「またそれ!? でも、まあいいか。いつも通りで!」


笑いながら校門へと駆け出す4人。


その背中を、それぞれの家族が微笑みながら見送っていた。


「おーい! 早く来てー!」


ハルの声が、夕空に響く。



家に戻ったさちは、制服を脱ぎ、トレーニングウェアに着替える。


ふと目に入った鏡の中の自分。


すらりと伸びた脚。しっかりと筋肉のついた腕。割れた腹筋。


「……1年前の私とは、ぜんぜん違う」


小さくつぶやいたその声に、確かな誇りがにじんでいた。


「お母さん、行ってくるね!」


玄関を飛び出し、リンの家へと駆けていく。


春風が舞い、桜の花びらが空へと舞い上がっていた。


まるで、4人を祝福し、新たな物語の始まりを告げるように――。


挿絵(By みてみん)

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