第三節 テレビの中のわたしたち
夏休みも終盤に差しかかった、ある蒸し暑い夕方。
ハルとユキの部屋では扇風機が唸り、テレビの前に大きなクッションが三つ、ぽふんと並べられていた。
「はやく始まれ〜! ねえ、さち、お茶飲む?」
「ありがとう……でも、なんかそわそわして、飲んでられないよ……」
「録画もしてるから大丈夫だって!」
時計が午後6時を指す。
テレビの画面が切り替わり、ニュース番組のエンディング曲が静かにフェードアウトしていく。
やがて、アナウンサーの落ち着いた声が響いた。
「今日の特集は、この街に住む“スーパー小学生”。ハルさんとユキさん、そして同じクラスの友人、さちさんです。
実は双子の姉妹で、先日行われた県大会で、全国大会への出場を決めました。
3人で切磋琢磨し、支え合いながら続けてきた努力の日々に迫ります。ご覧ください。」
「……わぁ、本当に始まった」
「うわ、ナレーションついてる!」
画面に映し出されたのは、閑静な住宅街。
そこに重なる、ナレーションの声。
「静かなこの街に、並外れた才能と努力を持つ小学生たちが暮らしています。」
ハルとユキの家の外観、そしてトレーニングルームのドアが開かれるカット。
3人が並んでスクワットをし、腹筋をこなす姿がテンポよく映し出される。
「ハルさんとユキさん。双子の姉妹です。
先日行われた県大会では、見事なワンツーフィニッシュを果たし、全国大会への切符を手にしました。」
スローモーションで映る、フォームのそろったクロール。
決勝レースのゴールタッチの瞬間と、並んで歓喜する二人の姿。
続いて、スイミングスクールのコーチのインタビュー。
「この二人は本当に努力家なんです。仲間と一緒に鍛える姿勢が素晴らしい。
何より、“楽しそうに”続けているんですよ。それが、強さの秘訣だと思います。」
画面は切り替わり、トレーニング後の3人が笑顔で話す様子へ。
「スイミングスクールが終わったあとも、仲の良い友人であるさちさんとともに、3人で自主トレーニングに励んでいます。」
フォームチェックをし合うシーン。さちがハルに声をかける。
「ひじの角度、もう少し下げたほうがいいかも」
ユキがトレーニングノートに記録をつけ、ハルがそれを紹介する。
「3人で取り組んできた努力は、確かな変化として体にも表れています。」
画面には、さちがトレーニングを始めた頃の写真と、現在の映像が並んで表示される。
タンクトップ姿で笑うさちの、引き締まった腹筋。
ユキのしなやかな背中のライン。
ハルの力強く盛り上がった肩。
「友人のさちさんは、転校してきた当初、二人に誘われてトレーニングを始めたそうです。
今では、3人で一つの目標に向かって進む“チーム”の一員となりました。」
スタジオからは、かすかに驚きと称賛の声が聞こえる。
「ここまでの成長の裏には、どのような日々があったのでしょうか?」
場面は、3人のインタビュー映像に切り替わる。
ハルが、やや照れくさそうに笑いながら話す。
「正直、きつい日もあるけど……3人でやってるから、続けられるんです」
ユキはまっすぐ前を見て、言葉を選びながら口を開く。
「ひとりだったら無理だったと思います。毎日“今日もがんばろう”って思える仲間がいるのが、一番の支えです」
続いて、さちが小さくうなずきながら、はにかむ。
「最初は、私だけ全然ついていけなかったけど……いま、同じところを目指してる気がします」
次に映るのは、ハルとユキの母・あかね。
「昔は、おっとりしてて、優しい子たちだったんですよ。
でも最近は“強いお姉さんたち”って呼ばれることもあって(笑)。
その中にちゃんと優しさがあって……親として、本当に誇らしいです」
番組はラストへ向かう。
「まもなく行われる水泳全国大会。そして、市の大会に挑戦する仲間たち。
それぞれの目標に込められた思いを、3人に聞きました。」
インタビュールームで、3人が順に語り出す。
ユキは穏やかに、でも凛とした表情で。
「悔いのない泳ぎで、ベストタイムを出したい。
そして、今まで支えてくれた家族や仲間に、いい報告ができたらと思ってます」
ハルは力強くまっすぐ前を見つめた。
「私は……勝ちたい。
全国の舞台で“勝ちたい”って、今ははっきり言えます。
そう思えるくらい、全力でここまで来たから」
そして、さちが深呼吸して、静かに語る。
「私は、市の大会で一歩踏み出します。
結果よりも、自分に勝つことを、やっと目指せるようになったから」
3人の言葉には、迷いのない意志と、積み重ねてきた時間の重みがにじんでいた。
「この街に暮らす、小さなアスリートたち。
彼女たちの努力は、確かな形となり、
トレーニングノートの一行一行が、仲間との“絆”の証となっていました。」
画面がスタジオに戻り、拍手の中で特集が幕を閉じる。
テレビの明かりだけが残る部屋で、しばし3人は言葉を失っていた。
やがて、さちがぽつりと呟く。
「……すごかったね、今の私たち」
「ほんとに映ってたんだね……なんだか不思議」
「でも……うれしい」
目を潤ませながら、さちはそっと口元を緩める。
「なんか……私、もっとがんばりたいって思えた」
ハルとユキが、同時に頷く。
「うん。全国大会のために」
「チーム“トレノ”で、次のページを書こう」
外は、夏の夜の静けさに包まれていた。
テレビの光に照らされた3人の瞳には、確かな決意が宿っていた。




