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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
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地図の裏

「古い記録があったんです」


 翌朝、議事堂へ招かれたヴェラは、エレンの姿に少し驚いた。山の調査について聞きたいと伝えてあったため、手元には地図がある。


 広げると、沢と岩の位置に重ねて、フォルマとその成否が書き込まれていた。沢の曲がりにある印は、エレンの灯りが消えた場所と重なった。


「初めて入る谷でしたが、沢も岩も、この通りでした。荷を浮かせて進む前に、記録が正しいか確かめてもらったんです」


「お連れの学者たちでは、確かめられなかったのですか」


「調べたかったのは、守備隊でお使いのものです。同行の学者が使えたとしても、皆様が使えるとは限りませんから」


 あの地図のおかげで、危険な岩場を避けられるようになった。それを喜んだ時と違い、エレンは相手を黙って見ていた。


「試す前から石を置けたのは、この記録があったから?」とオーレリアンが尋ねた。


「隊長殿の灯りも、荷を浮かせるものも、これと似た組み方をしていました。あの場所で崩れるかもしれないと思い、先に灯りで試していただきました」


「そういうことなら、先におっしゃってください。何を試すのか知っていれば、部下にやらせるか、私が引き受けるかも決められます」


「説明を省きすぎました。申し訳ありません」


 印の脇に残されたフォルマを、オーレリアンは読み直した。


「組み方を変えれば、この先へ通せるかもしれないね。君たちの学者は、そこまで試していない?」


「ええ。あの時、試したのは守備隊のものだけです」


「ほかの土地で使うものは、どうなのですか」


 エレンは、迂回路と谷を隔てる斜面を指した。


「帝国の兵なら、そこを通れるかもしれない。荷も運べないだろうと思って、見張りを薄くするわけにはいきませんね」


「帝国のものについても、記録はあります。少し古いのですが」


 ヴェラは、もう一枚を隣へ広げた。


      ◇


 同じ山の図なのに、印の位置が違う。灯りが消えた地点を越え、谷の奥まで荷を運べたという記述もあった。


「山へ持ち込んで試した記録です。ただ、調べた年が違いますから、今もこの通りとは言い切れません」


「こちらも、一緒に見せていただきたかったですね」


「隊長殿へお渡ししたのは、道中で試していただいた分です。こちらは、会が以前から集めていたもの。帝国にも、私どもの援助で学んでいる方がいます」


「西の調査結果も、向こうへ渡しているのですか」


「ええ、読んだ方はいます。アステリアの敵だからといって、その方々との付き合いを断つつもりはありません」


「この二枚は、エレンへ渡してほしい」とオーレリアンが言った。「私の分も写させてもらうよ」


「ええ。お代も結構です」


「ありがとうございます。今度は、私から学者に頼んでみます。違う結果が出たら、閣下にもお知らせします」


 エレンは帝国の記録をオーレリアンの方へ寄せた。二人が読み比べる間、ヴェラは口を挟まなかった。


 やがて最初の図へ目を戻すと、待っていたように声がかかった。


「そちらには、続きもあります。閣下なら、ご興味があるかと思いまして」


 続きがあると聞けば、読みたくなる。そう見越して持ってきたのだろうが、追い返してから気にするのは、もっと嫌だった。


 灯りを送るだけにしては、手の込んだフォルマだった。今なら省く箇所が幾つもある。


「いつ頃の記録なの?」


「写したのは近年ですが、元は今の国境が引かれるより前だと聞いています。書いた人は分かりません。こうして写されながら、各地を渡ってきたもので」


「何を調べに行った人だろう。旅の目的は、書いてない?」


「残っているのは、この辺りを歩いた分だけです。目印にしたものの絵もありますが」


 重ねてあった紙を開くと、崖の間に石碑が描かれていた。


 黒く塗られた面を、いくつもの溝が走っている。正面と横から、石の形そのものを写した図だった。


 オーレリアンは、卓の下で左手を握った。テオヴァルドを抱き、血に濡れた掌を押しつけた時の感触が戻ってきた。


「これも、あの谷に?」


「位置は確かめました。崖も沢も、記録の通りでしたが」


 ヴェラは、絵の中央を指した。


「この黒碑だけが、ありませんでした」


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