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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
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帰る場所

 宿を出ようとした男は、通りに立つバスティオンを見るなり引き返した。裏口にも同じ姿があり、抱えていた荷を下ろした。


 借りていた部屋からは、向かいにあるレーネの家が見えた。窓辺を離れない客を怪しんだ主人が、衛兵に知らせていたのだ。荷の中からは、商会の者が出入りする時刻を記した紙も出てきた。


 ブレーゲンを発ってから、街道で何度か一緒になった旅人だと、ハンナは言った。


「あの時、夕食まで分けたんですよ」


 議事堂へ連れてこられた男を見て、ユディトは自分が雇ったと認めた。商会を街道から追わせ、町では娘の住まいを見張らせた。今朝、娘の引き渡しを拒まれ、ハンナが追悼の集いへ出た隙に踏み込ませたという。


「なぜ、先に私へ申し出なかった」


「保護を願い出た者は、返さない領主だと伺っておりました」


「黙って連れ出せば済むと思ったか」


 男がユディトの顔をうかがったが、彼女は口を開かなかった。


      ◇


 ヴェラは、本を置いて帰ると言った。


「レーネの話と比べてみてください。私の説明だけでは、お信じになれないでしょうから」


「借りるよ。君が援助していた治療院の資料も見せてほしい。ラザールに頼んだ報告とは別に」


「取り寄せます。ただ、すべて差し上げるお約束はできません。官房が持っていった原本は、私にも取り戻せない。閣下まで、あちらの説明だけをお信じにならないでください」


「官房にも、同じように求める。けれど、資料と引き換えにレーネを会わせることはしない」


 ヴェラの笑みが消えた。


「では、本人が私と話したくなった時には、お許しいただけますね」


「本人が望めばね。だが、商会の見張りは引かせろ。彼女や患者の居場所を探らせれば、君も捕らえる」


 ヴェラは一礼した。


「承知いたしました、伯爵閣下」


 残された本へ、つい手が伸びた。


 (読みたいんだよな。こういう時にまで)


 本を手に、ミラのところへ戻った。


      ◇


「店を閉めるの?」


 部屋へ入ると、レーネが叔母に尋ねていた。


「誰が、そこまで言ったの。店を空ける間、仕事を頼める相手を探すんだよ」


「でも、私のせいで」


「店の心配は私がする。あんたは、どうしたい?」


 娘はしばらく迷ってから、ミラを見た。


「ここにいたいです。でも、逃がした人たちには、私が無事だと知らせたいんです。便りを出してもいいですか」


「返事は商会で受け取れる。あんたから書きなさい」


 レーネがうなずくと、隣で聞いていたミラはオーレリアンへ向き直った。


「司教様には、私からお知らせします。ハンナさんたちへの圧力を止めてもらえるよう、お力を借りたいんです」


「お願いする。ユディトたちは、まだ帰せない。先にブレーゲンへ戻って、ハンナたちだけを罪人にされては困る」


「留守の者たちには、私から事情を書きます」とハンナが言った。「あの子を荷車に隠して帰らずに済むだけでも、ずいぶん助かりました」


      ◇


 ハンナたちが食事を取りに行くと、オーレリアンは見舞いに来ていたクレイドを呼び、本を広げた。


 同じ著者の本を、二人は以前にも読んでいた。土地を移るとフォルマを使えなくなる男が、故郷へ戻って力を取り戻す話だった。


 こちらには、身体へフォルマを施した患者の経過が記されていた。歩いて退院したはずが、故郷では動けなくなっている。


「歩けるようになっても、家には帰れなかったんですね」とクレイドが言った。


 食事を持って戻ったレーネに、オーレリアンは本を示した。


「この人に、会ったことはある?」


 患者の名を見ると、娘は身を寄せて記録を読んだ。


「ここ、違います。こんなに早く、歩けるようにはなっていません」


 レーネは、記録の日付を指した。


「この日は、まだ、私が背負って運んでいました」


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