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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
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橋上の客

「あの娘は、私どもが調査している治療院に勤めていました。どうしても聞かねばならぬことがあります。患者の命にかかわるのです」


「何の調査であれ、私を通せ。本人はこちらで保護する」


「官房の調査に、領主の許可は要りません」


 ヴェラが笑った。


「また、それ。司教を通して尋ねても、その方には話せないとおっしゃるのでしょう?」


「あなたが口を挟む話ではありません」


「では、伯爵へ説明して差し上げたら? ここまでして連れていく理由を」


 ユディトは答えず、ハンナの背へ隠れた娘を見ていた。


 町の衛兵が橋の両側を塞いだ。男の一人が銀印を示したが、弩は取り上げられた。


「続きは議事堂で聞く。部下を連れて、衛兵に従え。娘には近づくな」


 ほかの男たちも、上役のうなずきを待って武器を預けた。


「ご説明はいたします。ただ、あちらの女に任せるおつもりでしたら、先に私の話をお聞きください」


「本人が断った相手に、渡すつもりはない。貴殿にもだ」


 連れていかれる一行を見送り、ハンナはようやく姪の顔を覗き込んだ。


「家には戻らなくていい。ミラ様のところへ行こう」


      ◇


 オルカペルには、先ほどの商会の男も運ばれていた。腕を吊って寝台にいる姿を見て、レーネが立ち止まる。礼を言おうとして声にならず、何度も頭を下げた。


 姪をミラに預けたあとも、ハンナは病室の前を離れなかった。オーレリアンが来ると、声を落とした。


「先日、勉強させたいとだけ申し上げましたけれど……本当は、匿うつもりで連れてきたんです」


 商会の宿とは別に家を借り、そこから聖堂へ通わせていた。ここなら暮らし直せると思ったのだと、病室を見ながら話した。


 ブレーゲンの店へ姪が来た時には、旅費も残っていなかったという。勤め先を辞めただけなら、なぜ家へ帰らないのか。尋ねて初めて、追われていることを知った。


「勤め先は、学者たちがお金を集めて開いた治療院です。治らない怪我を抱えた人が、遠くからも集まるようになって。あの子は、そこで世話をしていました」


 歩けるようになっても、患者は帰してもらえず、次の処置が待っていた。レーネは嫌がる人を逃がし、自分も治療院を去ったと話していた。


 異端審問官が踏み込んだのは、そのあとだった。残っていた職員と患者は連れていかれ、知っている人からの便りも途絶えたという。


「これで、あの子も家へ帰れると思ったんです。それなのに今度は、あの子まで連れていくと言う。何をしたのか尋ねても、取り調べが済めば分かるとしか」


「渡さなければ、どうすると言われた?」


「何も。ブレーゲンの店番をしている者の名を挙げて、よい働き手ですね、と。それだけです」


 ハンナは自分の店の話を、病室へさえ聞こえない声でしていた。


「姉も向こうにいます。あの子をここに残せても、私まで帰らずに済ませるわけにはいきません」


「ブレーゲンにいる人たちまで守れるとは、今は言えない。でも、レーネは渡さないよ」


「ありがとうございます。あの子が何をしたのか、私も全部は知りません。それでも、連れていかれてからでは遅いと思ったんです」


 ハンナが姪に呼ばれて病室へ戻ると、入口を見ていたテオヴァルドが近づいてきた。


「あの方が、まだ外にいます。レーネさんに会いたいと」


      ◇


 ヴェラは聖堂の入口から、病室へ続く廊下を見ていた。オーレリアンに気づくと帽子を取る。


「お話しできる状態でしょうか」


「先に、君のことを聞かせて。治療院では、どんな立場だったの?」


「資金を提供していました。ラザールから、閣下のお話は伺っております」


「金枝会の?」


「はい。私たちが援助していた施設を、官房が閉じたんです。押収された資料も、返していただけなくて」


 (ラザールは、これをどこまで知ってるんだ)


「閣下になら、治療院で何を研究していたか、お話しできます。レーネにも会わせていただけませんか」


「話は聞くよ。レーネには、今は会わせられない」


 廊下の奥で戸が開いた。声を聞きつけたレーネが入口の女を見つけ、付き添うミラの袖をつかんだ。


「ミラ様。あの人と、二人にしないでください」


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