弔う町
議事堂の前に、花とパンが持ち寄られていた。故郷で食べていたものを焼いてきたという人もいて、祭壇の脇には形の違うパンが並んでいる。籠を受け取ったミラへ、食べ方を教える声がした。
広場の端にいるオーレリアンの前を、仕事着の人々が通り過ぎていく。足を止め、荷を下ろして頭を垂れる者もいた。
片隅では、あの司祭が刷り上がった自分の文章を配っていた。受け取った人に尋ねられ、書いた時の事情を話している。
「あれ、学院の近くでも売っていました」
クレイドが指したのは、平たく焼いたパンだった。
「中に肉を入れて。熱いうちに食べると、汁が服に落ちるんです」
「あとで、分けてもらおうか」
返事の代わりに、クレイドは籠へ目を戻した。
マルタが祈りを始めると、人々は知っている言葉から唱和した。歌の節はところどころ違ったが、声が途切れることはなかった。オルカペルに入りきらない人々の祈りが、通りにまで届いた。
ミラは、その祈りのあとに進み出た。
「故郷へ帰りたい方も、もう帰りたくない方も、ここにはいらっしゃるでしょう。お話しになれないことまで、今日ここで伺うつもりはありません」
うつむいていた人が、顔を上げた。
「亡くなった方のために、しばらく、ともに祈りましょう」
続いた沈黙の中で、子どもが泣き始めた。抱いていた母親があやし、やがて自分も泣いた。
オーレリアンは何も唱えられずにいた。あの時、ルーカスへ伸ばしたフォルマは、本人には届かなかった。今どこにいるのかも、分からない。
袖を引いたクレイドは、顔をこちらへ向けられずにいた。
「少し、ここを離れてもいいですか」
「一緒に行こう」
二人で人垣を抜ける間も、テオヴァルドは頭を垂れたままだった。
◇
裏手の階段へ腰を下ろしても、歌は聞こえていた。
「来ない方がよかった、とは思っていません」
帰ろうか、と言いかけたのを呑み込んだ。
「さっき、あのパンを食べたいと思ったんです。ルーカスとよく買いに行きました。あいつは、熱いうちに食べようとして、いつも服を汚して……思い出したら、笑いそうになって。でも、僕が笑っていいのか、分からなくなりました」
「ルーカスが何と言うかは、私には分からない。でも、あの店に誘ってもらって、私は楽しかったよ。また一緒に行きたい」
広場の歌が話し声へ変わる頃、ようやく返事があった。
「……今度は、ミラさんも」
「誘おう。今日は、あの人が一番働いてる」
テオヴァルドが、二つに割ったパンを持ってきた。
「僕はもう食べました。どうぞ」
その袖に煮汁の染みを見つけ、クレイドの口元が緩んだ。何も言わず、差し出された半分を受け取る。
◇
広場へ戻ると、ハンナがミラを待っていた。人々へ別れの言葉をかけている司祭のそばで、声をかけあぐねている。
近づこうとしたところで、坂の下から彼女を呼ぶ声がした。
駆け上がってきたのは、商会の服を着た男だった。片腕を押さえ、口元には血がついている。ハンナを見つけると、人垣の向こうから叫んだ。
「レーネさんが、連れていかれました」
女主人の手から、祈りの紙が落ちた。
「どこへ?」
「水路の方です。教会の者だと言って、戸を壊して……馬車へ押し込むのが見えました」
ミラが男を支えるそばで、ハンナはオーレリアンへ向き直った。
「朝、異端審問官にあの子を引き渡せと言われたんです。こちらの司祭様に確かめるまで、渡せないと断ったのに。閣下、あの子を――」
「どちらの橋へ?」
男が指した坂の先では、祈りを終えた人々が水路を渡っていた。その途中に、幌を掛けた馬車が見えた。御者が立ち上がり、道を空けろと鞭を振っている。
テオヴァルドも見つけていた。こちらへ向いた目に、うなずく。
「連れ戻す」
オーレリアンは坂へ駆け出した。




