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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
92/109

弔う町

  議事堂の前に、花とパンが持ち寄られていた。故郷で食べていたものを焼いてきたという人もいて、祭壇の脇には形の違うパンが並んでいる。籠を受け取ったミラへ、食べ方を教える声がした。


 広場の端にいるオーレリアンの前を、仕事着の人々が通り過ぎていく。足を止め、荷を下ろして頭を垂れる者もいた。


 片隅では、あの司祭が刷り上がった自分の文章を配っていた。受け取った人に尋ねられ、書いた時の事情を話している。


「あれ、学院の近くでも売っていました」


 クレイドが指したのは、平たく焼いたパンだった。


「中に肉を入れて。熱いうちに食べると、汁が服に落ちるんです」


「あとで、分けてもらおうか」


 返事の代わりに、クレイドは籠へ目を戻した。


 マルタが祈りを始めると、人々は知っている言葉から唱和した。歌の節はところどころ違ったが、声が途切れることはなかった。オルカペルに入りきらない人々の祈りが、通りにまで届いた。


 ミラは、その祈りのあとに進み出た。


「故郷へ帰りたい方も、もう帰りたくない方も、ここにはいらっしゃるでしょう。お話しになれないことまで、今日ここで伺うつもりはありません」


 うつむいていた人が、顔を上げた。


「亡くなった方のために、しばらく、ともに祈りましょう」


 続いた沈黙の中で、子どもが泣き始めた。抱いていた母親があやし、やがて自分も泣いた。


 オーレリアンは何も唱えられずにいた。あの時、ルーカスへ伸ばしたフォルマは、本人には届かなかった。今どこにいるのかも、分からない。


 袖を引いたクレイドは、顔をこちらへ向けられずにいた。


「少し、ここを離れてもいいですか」


「一緒に行こう」


 二人で人垣を抜ける間も、テオヴァルドは頭を垂れたままだった。


      ◇


 裏手の階段へ腰を下ろしても、歌は聞こえていた。


「来ない方がよかった、とは思っていません」


 帰ろうか、と言いかけたのを呑み込んだ。


「さっき、あのパンを食べたいと思ったんです。ルーカスとよく買いに行きました。あいつは、熱いうちに食べようとして、いつも服を汚して……思い出したら、笑いそうになって。でも、僕が笑っていいのか、分からなくなりました」


「ルーカスが何と言うかは、私には分からない。でも、あの店に誘ってもらって、私は楽しかったよ。また一緒に行きたい」


 広場の歌が話し声へ変わる頃、ようやく返事があった。


「……今度は、ミラさんも」


「誘おう。今日は、あの人が一番働いてる」


 テオヴァルドが、二つに割ったパンを持ってきた。


「僕はもう食べました。どうぞ」


 その袖に煮汁の染みを見つけ、クレイドの口元が緩んだ。何も言わず、差し出された半分を受け取る。


      ◇


 広場へ戻ると、ハンナがミラを待っていた。人々へ別れの言葉をかけている司祭のそばで、声をかけあぐねている。


 近づこうとしたところで、坂の下から彼女を呼ぶ声がした。


 駆け上がってきたのは、商会の服を着た男だった。片腕を押さえ、口元には血がついている。ハンナを見つけると、人垣の向こうから叫んだ。


「レーネさんが、連れていかれました」


 女主人の手から、祈りの紙が落ちた。


「どこへ?」


「水路の方です。教会の者だと言って、戸を壊して……馬車へ押し込むのが見えました」


 ミラが男を支えるそばで、ハンナはオーレリアンへ向き直った。


「朝、異端審問官にあの子を引き渡せと言われたんです。こちらの司祭様に確かめるまで、渡せないと断ったのに。閣下、あの子を――」


「どちらの橋へ?」


 男が指した坂の先では、祈りを終えた人々が水路を渡っていた。その途中に、幌を掛けた馬車が見えた。御者が立ち上がり、道を空けろと鞭を振っている。


 テオヴァルドも見つけていた。こちらへ向いた目に、うなずく。


「連れ戻す」


 オーレリアンは坂へ駆け出した。


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