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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
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祈る人の言い分

「学校の帰りに、そのままお勤めへ?」


 ハンナに尋ねられ、ミラは本の間から刷り見本を取り出した。


「今日は、これを神父様にお返しするところです。皆さんに配る前に、私にも読んでほしいと頼まれて」


 司教への反論を綴った、あの司祭の文章だった。書かれた経緯はヨナスが確かめ、印刷の準備まで進んでいる。


 最初の頁には、葬儀を断られた兵士の話があった。


 主君が教会の命令に背いたため、従軍した兵の埋葬にも祈りを添えてはならない。故郷の司教はそう命じた。書き手は従わず、遺族と墓地へ行った。それが追放の始まりだった。


「戦に行く時は、教会で祝福を受けたそうです。それなのに、帰ってきた時には」


 差し出された紙を受け取っても、ハンナはすぐには目を落とさなかった。


「ブレーゲンにも、葬儀代を借りた奥さんがいました。夫は家族に借金を残すのを嫌がっていたのに、見送るために借りなければならなかったと。神父様には言えず、うちの店でこぼしていかれました」


「この方は、祈りを断るなら司教自身が遺族の前で理由を話せ、と書いている。人に命じるより、ずっと難しいだろうね」


「でも、後ろの方は、閣下もお困りになるのでは」


 先まで目を通したハンナが、遠慮がちに言った。


 死者の扱いで人を従わせるな。それは司教に限らぬ。人を救った領主であっても、救われた者の祈りまで自分のものにしてはならない。


 書き手は、この町に来てから最後の一節を加えていた。


「困るよ。私を褒める本なら、配りやすかったのに」


「刷るのを、お止めには?」


「しない。最後だけ切り取ったら、あの人の言うとおりになってしまう」


 女主人は声を立てて笑い、それから紙を返した。


「扱う店があるか、帰ったら聞いてみます。ただ、どれだけ売れるかはお約束できませんよ」


「それは、書いた人に言ってあげて」


      ◇


 夕食の席でこの話をテオヴァルドとクレイドにも聞かせると、ミラは、この町でも弔いをしたいと言った。


 墓を残して移ってきた人も、遺体がどこにあるか分からない人もいる。新しい地区の礼拝で、何度か相談を受けていたという。


「オルカペルでは、入りきりません。議事堂の前をお借りしてもよろしいですか」


「もちろん。私が出た方がいい?」


「ぜひ。ただ、戦勝の式にはしたくありません。ヴァルテンで家族を亡くした方も、いらっしゃいますから」


 クレイドは食べかけのパンを置いた。何かを言いかけ、顔を下げる。


「僕も、行っていいですか」


「ええ。どなたのことを祈るかも、言わなくて大丈夫です」


「私も後ろにいるよ。挨拶は、しなくていいんだね」


「お願いするつもりはありませんでした」


 ミラの答えが早く、テオヴァルドが笑った。


「少しは迷ってくれてもよかったんだけど」


      ◇


 食事のあと、テオヴァルドが一枚の紙を持ってきた。


 西の物語の続きかと思ったが、読んでみると、食事を待つ子どもたちの話だった。目の前の椀が冷めていくのに、神父の説教は終わらない。


「セヴェリン神父様?」


「はい。いつもではなかったんです。でも、好きな話になると、なかなか終わらなくて」


 読み進めると、説教の途中で神父自身の腹が鳴っていた。次の行は、何度か書き直されている。


「笑ってもいい話?」


「神父様も笑っていました。……こういう話を、残してもいいでしょうか。最後のことばかりになってしまうのは、嫌で」


「私は、続きを読みたい」


 しばらく考えてから、少年は続きを書き始めた。


「ここで、僕たちは叱られるんです」


「何をしたの?」


「次の日、わざと同じ話をお願いしました」


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