招く側
約束の夕方、議事堂を出るとクレイドが待っていた。
今夜は彼が先に立ち、いつもの帰り道とは逆へ歩き出した。角を曲がるたびに二人を振り返る。
「そんなに気を遣わなくても、ちゃんとついていくよ」
「……慣れなくて。お二人を案内するのは」
隣へ並ぶと、ようやく前を向いてくれた。ミラには三人で食事に行くと伝え、「楽しんできてください」と送り出してもらった。
以前の東門を通り過ぎ、坂の途中から建物の中へ入った。家へ上がる階段だと思ったが、抜けた先にも通りがあった。工房の屋根と同じ高さに食事を出す店が並び、仕事帰りの人々が椅子を埋めている。
「ここです」
空いた卓から、町の中心が見渡せた。下の通りを乗合車が行き、家々の窓に明かりが灯り始めている。
顔を覚えられていたらしく、店の者から声が掛かった。前と同じ物を三人分と頼んでから、クレイドも席につく。
「よく見つけたね」
「あの乗合車で、工房へ行く人に聞きました。ヴァルテンから来た料理人がいるって」
運ばれてきた器には、豆の上に肉がのり、縁に添えたパンへ煮汁が染みていた。クレイドは、さっそくその一切れを取った。
「ヴァルテンでも、これを食べていたの?」
「学院から外へ出られる日に。もっと量が少なくて、豆の方が多かったです」
「僕のいた所でも、肉はなかなか出ませんでした」とテオヴァルドが言った。「でも、食事の時間になると、どこにいても分かったんです。下の子が先に走るので」
「学院の食堂だと、上の課程からでした」とクレイドも笑った。「遅いと鍋の底しか残っていなくて。剣で勝てても、それは変わりませんでしたね」
「おいしいね。また連れてきてよ」
オーレリアンが言うと、彼は照れたようにパンをちぎった。
◇
お代わりを頼む頃には、隣の卓で賭け事が始まっていた。小銭と一緒にパンまで積まれ、負けた男が取り戻そうとして笑われている。
「学院でも、ああいうことを?」
「見つかると、皆で掃除でした。僕は隣で見ていただけだったんですが」
「それは、気の毒に」
「勝ちそうな方を教えていたので、あまり言い返せませんでした」
テオヴァルドが笑いかけ、慌てて口を押さえた。まだパンを飲み込んでいなかった。
あの時に流れ込んだ記憶には、こんな話はなかった。顔を合わせても、怪我やフォルマの具合ばかり尋ねていた気がする。
「今度、私にも教えて。掃除をさせられない場所で」
「負けることもありますよ」
「構わないよ。一緒にやろう」
追加の料理が届き、オーレリアンが財布を出しかけると、向かいから声が掛かった。
「今日は、僕に払わせてください。訓練を手伝った分で、本も買えました。残りは、こうして使いたかったんです」
財布をしまった。
「じゃあ、ご馳走になる。次は私に選ばせて」
「場所を知っているんですか」
「これから探すよ」
◇
帰りの回廊では、授業を終えた大人たちとすれ違った。抱えた本を友人へ開いて見せながら、食事の匂いがする方へ歩いていく。
「僕も、あそこで教えてみたいです」
クレイドが見ていたのは、灯りの残る教室だった。
「剣や砲のことを聞かれるのも、嫌いではないんです。でも、学院で習った計算なら、戦わない人にも教えられると思って」
「ヨナスに話してみよう。何を教えたいか、君から聞かせてあげて」
「その前に、一度、聞いてもらえますか。僕の説明で分かるかどうか」
「僕も、聞きたいです」
テオヴァルドが加わると、彼は困った顔をした。
「二人とも、分かったふりはしないでくださいね」
「そこまで信用がないの?」
「優しくしてくださるので」
真顔で言われ、オーレリアンは笑い出した。
◇
翌日、ミラを迎えに来た学校の前で、懐かしい声に呼び止められた。
「……伯爵閣下」
かつて「あんたに賭けたんだ」と言い切った人が、道の端へ退き、深々と頭を下げていた。




