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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
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増える言葉

 圧板が下りるたび、同じ文章が紙に刷られていく。


 オートマタが持ち上げると、職人が刷り上がりを抜く。干された紙は梁の下から窓際まで並び、読本に載るパンと器の絵が、工房いっぱいに増えていた。隣の台では文字の型を拾う手が動いている。


 読本が刷り上がったと聞いて訪れた工房で、テオヴァルドは、乾いた一枚を広げていた。頁の順はばらばらで、逆さになった絵もある。職人が折り方を教えると、パンの絵が先頭に来た。


「これを、学校へ持っていきたいです」


「綴じたものもありますよ。一冊でよろしいですか」


 奥の机にいたロートが答えた。学校で使う分に加え、彼の商会へ卸す分も刷っているのだ。


 値を聞いた少年は、もう一度、手の中の頁を見た。


「それなら、二冊ください。自分の分も欲しいので」


 圧板の高さを変えているハルドに、オーレリアンは気づいた。渡した時にはなかった留め具で、紙の厚みに合わせて調節している。


「私が渡した時より、使いやすくなったね」


「届く紙の厚さが揃わないので。これなら、途中で別の紙に替わっても刷れます」


 絵は彫った版を使い、文章は文字の型を組み替える。圧板を作り、必要な型を揃えてからは、職人たちに任せていた。


 ヨナスが見せてくれた原稿には、読本の続きに交じって、工房で使う計算を教えるものや、詩もあった。


「こちらも、皆さんから?」


「刷れると分かってから、持ってこられるようになりました。読本の続きを書きたいのですが、人のものを読む方が忙しくなってしまって」


 買った本を手に、テオヴァルドもそばへ来た。


「これを読み終えた子には、物語を渡せませんか」


「書いてくださる方を探しているところです。私が選ぶと、どうしても教訓のある話ばかりになりまして」


「西で聞いた話なら、いくつか覚えています。エルネリス様に、書いてもいいか聞いてみたいです」


 今度は、オーレリアンへ顔を向けた。


「抜けている所があったら、教えてくださいね。続きを勝手に作ったら、叱られそうなので」


「あの人なら、違う結末も読みたいと言いそうだけど」


「僕が聞いた方を、先に残したいです」


 ヨナスから紙を分けてもらうと、少年はしばらく考えてから書き始めた。


 二冊の代金を手に、ロートが笑った。


「この値なら、子どもが習い始めた家にも売れます。これまでは、本を探してくれと頼まれてから仕入れていたのですが、今度はほかの町の店にも置いてみたい」


 町の外でも売ると聞いて、ヨナスは束の下にあった原稿を取り出した。


「それでしたら、閣下に伺っておきたいことがあります」


      ◇


 ある司祭が、故郷を追われるまでの経緯を書き綴っていた。誰に何を問われ、自分はどう答えたか。そのあとには、追放を命じた司教への反論が続いている。


「書いた方は、ここに?」


「はい。学校の本とは別に、これも刷れないかと相談されています。書かれたことは、私の方でも確かめるつもりです」


 ロートが覗き込み、途中で口を結んだ。


「これを扱うなら、売り先は選ばせていただきたい。読本と一緒に並べられる店は、多くありません」


 ヨナスは頷いたが、原稿をしまわなかった。


「教会で使う本なら、教える者が内容に責任を持ちます。ここは領主の工房ですから、外では閣下も同じお考えだと受け取られるでしょう。ご意見の異なるものまで、出してよいのでしょうか」


「全部同じなら、一冊で足りる。学校で使う本は君たちが選んでほしいけれど、ほかは書いた者の名で出そう。私が賛成するものしか刷れないというのでは、せっかく集まった原稿がもったいない」


 ロートは笑ったが、ヨナスの表情は晴れなかった。


「ただ、名前を載せても、なぜ刷らせたのかと問われるのは閣下です」


「だろうね。意見に賛成するのと、話す場所を貸すのは違う。そう答えて、納得してくれる相手ばかりじゃないだろうけど」


 (俺の悪口も、そのうち立派な本になるんだろうな)


「名前を出すことは、本人も承知している?」


「はい。故郷の司教にも読んでいただきたい、と」


 オーレリアンは受け取った原稿を、初めから開き直した。


「なら、読ませて。何があったのか、私も知りたい」


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