↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
83/108

金枝

「この印をつけた人が、研究所へ来ました」


 クレイドは紹介状を開かなかった。裏へ返し、枝を組んだ封を見ている。


 客を待たせ、オーレリアンは家の食堂へ戻った。テオヴァルドも隣に座ったが、話を促すことはしなかった。


「ヴァルテンより前です。人の姿で歩けるところを見せろと言われて、客室へ。そこに、同じ印の指輪をした人がいました」


 あの時たどった記憶には、いなかった相手だ。


「怖い人には見えませんでした。菓子をくれて、よくここまで戻れたねって。だから、普通のフォルマが使えないことも話したんです」


 クレイドは封から手を離した。


「僕には、答えませんでした。先生に、どのくらい人の姿を保てるのかと。帰っていいと言われるまで、そこに立っていました。二人はずっと話していたのに、何を言っていたのか、よく覚えていません」


「今日来た人かどうか、見たい?」


「はい。違っても、聞きたいことがあります」


 テオヴァルドがこちらを見た。オーレリアンはうなずいた。


「一緒に会おう。話したくないことは、そのままでいい」


      ◇


「金枝会からお越しの、ラザール様です」


 ロートに紹介された男は、卓へ本を置いて立ち上がった。旅の間も読んでいたらしく、紙片が何枚も挟んである。


 クレイドが、かすかに首を振った。記憶の客ではない。


「お時間をいただき、感謝いたします。こちらの材について、ずっとお話を伺いたいと思っておりました」


 男が卓へ置いたのは、ブレーゲンで買った継手だった。


「長く海に沈めたあとも、内側が変わっていない。普通の石とも金属とも違います。作り手の方に、ようやくお会いできました」


「買った品を調べるのは構わぬ。製法は売らぬが」


「本日は、買う話をしに来たのではありません」


 広げられた本には、同じ形のフォルマが違う土地で崩れる例が並んでいた。旅の記録と、何年もかけた比較だ。オーレリアンは、次の頁をめくろうとする手を止めた。


「こちらの二つは、同じ人物が試したものか」


「はい。場所だけを変えた記録をお探しでしたら、この本のほかにもございます。各地の学者へ旅費を出し、写しを集めているのです。同じ問いを追う方をご紹介することもできます」


 ミラも書き手の名に気づいた。彼女が学んでいる医書の著者も、若い頃に援助を受けたという。


 金だけでは手に入らない知識だった。会が持つ写しを借り、互いの結果を伝える。その提案には、断る理由より、尋ねたいことの方が多かった。


「私も、この比較をしてみたい。参加すれば、製法まで差し出すことになるのか」


「求められても、断れます。閣下の研究に必要な知識と、こちらへお渡しいただけるものを伺えれば」


 男が次の頁を開く前に、クレイドが口を開いた。


「人と魔獣を、一緒にする研究もですか」


 ラザールの手が止まった。


「……どこで、その話を」


「僕が、そこにいました」


 声は小さかった。だが、止まらなかった。


「会の印をつけた客が来て、先生たちと話していました。帰ったあとも、処置は続きました。何を見に来たんですか。何ができたら、終わるはずだったんですか」


 男はオーレリアンを見た。こちらは答えず、少年へ視線を戻させた。


「研究所は、どちらに。会員が個人で訪ねることもございます。会の援助を受けた研究なら、私も記録を探せますが」


 ラザールは本を閉じた。


 クレイドは逃げ出す前の町の名を告げた。建物の場所を説明しかけると、男はそれで分かると言った。


「その町へは、会からも援助を出しています。報告にあったのは、傷ついた身体を元へ戻す研究です」


「僕はクレイドです。あの人たちに身体を変えられました。客の前で人の姿を保てれば、治ったことになっていたんですか」


「あなたのことが、どう書かれているかまでは」


 卓の本を返しかけ、オーレリアンは手元へ残した。


「この本は、借りておきたい。それと、報告書を見せていただこう。研究を共にする話は、それを読んでからだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。