買いに来る町
ミラが欲しがったのは、ヴァルテンで仕立てた服だった。
商館の窓に飾られたものを見上げ、似合うでしょうか、と尋ねる。答える前に、店の女が中へ招いた。
アッシュマークへ戻って三日。商人を集めた市は、広場から隣の通りまであふれていた。遠くから来た荷には買い手がつき、新しい店の二階からも品が下ろされる。
以前なら、食料の到着を待つ顔だった。今日は財布を握り、どれにしようかと迷っている。
ミラを待つ間に、オーレリアンは外へ出かけた。ちょうど戸口へ戻ってきた彼女とぶつかり、肩をつかんで踏みとどまる。
「ごめん。……少し、背が伸びた?」
「少し前から、服が合わなくて」
袖には刺繍があり、いつもの仕事着より肩がすっきり見えた。こちらを見下ろす角度も、以前と違う。
「よく似合ってる」
ミラがうつむいた。店の女が代わりに喜び、鏡の前へ連れ戻してしまった。
オーレリアンは、硝子に映る自分を見た。服も肩甲も替わったのに、顔の高さは変わらない。
領内でそのことを尋ねられれば、昔のフォルマで身体を傷めたのだと答えている。嘘ではない。それで、病人を見るような目をされることもあった。
「閣下も、お召し替えになりますか」
「今日は、あちらを先に」
女はうなずき、またミラの裾を見た。伯爵の服を売りつけなくても、ここには客がいた。
◇
商館の一階に、ロート商会の看板があった。
中から出てきたエメリク・ロートは、こちらを見ると深く頭を下げた。ブレーゲンで、食料の後払いを断った男だった。
「場所だけは、早めに借りておきました」
「今度は、私の支払いを心配しなくてよいと?」
「閣下お一人のお買い物を当てにするより、安心できますので」
思わず笑った。棚には、河舟の形をした銀の杯がある。帆を外すと酒を注げ、舳先では花嫁と花婿が寄り添っていた。
工房で働く男が、娘の婚礼に買っていったという。
「見本だけ借りたつもりが、朝には売れてしまいました。次の荷にも入れさせます」
ミラは値を聞き、もう一度杯を見た。共同倉で一日の食事を数えていた頃なら、買う理由を見つけられなかった品だ。
通りでは、ヴァルテンの仕立屋が客の肩へ布を当てている。布そのものはアッシュマークから出したものだった。安く織った布に、向こうの手が加わり、今は高い服になって戻っている。
ミラの袖も、その一つだった。
「皆さん、今日は泊まっていかれるんですね」
「ええ。明日の取引を待つ方が多いので」
ロートは店の奥へ目をやった。布を買うだけでなく、今後の買い付けを決めたい客が来ている。父の領内から来た商人も、その中にいた。
西の船主たちには、マティアスの紹介があった。ヴォス以外の船で運ぶ最初の荷が、この市で決まる。
◇
議事堂の広間では、ミラが客を迎えた。
新しい服の上に、司祭の印をつけている。オーレリアンが挨拶を終えると、すぐに彼女の周りへ人が集まった。
破門された者を受け入れた話を聞いて来た聖職者もいた。ミラは、すべての教会で裁定が済んだわけではないと伝え、それでもここで祈る場所はあると言った。
話し終えると、隣の客に土地の歴史を尋ねている。
「最近、上院に来られた先生から習っているんです。古い法の本も。読めるようになると、知らないことが増えてしまって」
以前なら、オーレリアンを呼んだ場面だった。今日は、自分で聞き返している。
テオヴァルドはクレイドと料理を選んでいた。客が集まるたび、二人の皿から少しずつ減る。役目を代わろうかと言うと、まだ食べている途中です、と真面目に断られた。
笑っていたところへ、父の領内から来た商人が進み出た。
「明日を待たず、お耳に入れたいお話がございます」
新しい工房を建てる費用と、五年分の買い取り。その額を聞いて、そばにいた者の声が止まった。
「新しい工房で織る布は、すべて私どもへ。売れるかどうかを、お考えになる必要はございません」
オーレリアンは、まだ手を出さなかった。
向こうでミラの袖を褒めていた西の商人が、こちらを見ていた。




