↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
72/108

惜しみない人

「あげる。使えそうだから」


 エルネリスが差し出した槍を、テオヴァルドは両手で受けた。背丈を大きく越える槍身は切っ先へ細くなり、握りの前には翼を広げたような鍔がある。


 見送りに来たマティアスが、言いかけた挨拶を呑み込んだ。


「それを、差し上げるのですか」


「私のだよ」


「存じています。展示に貸してほしいという話を、以前はお断りに」


「何年も返してくれないって言うから。使いたくなったら困るでしょう」


 返してもらう気のない贈り物は、構わないらしかった。テオヴァルドが槍を差し戻しかけると、彼女は手を後ろへ回した。


「しまっておくには、惜しいもの。まず、試してみて」


 鍔の裏に残ったフォルマは、見慣れない組み方だった。山の職人と、帝国を出た鍛冶師が一緒に作ったのだという。


 (値段は聞かない方がいいな。テオが持てなくなる)


      ◇


 石切り場の向こうに海が見えた。


 左腕に浮かべた光の盾は、胸から腿までを覆い、前へ膨らんでいる。テオヴァルドが右脇に槍を抱えると、その切っ先が盾の脇から突き出した。


 鍔が光る。だが、穂の付け根で力が止まり、右腕が押し返された。


「槍の方が、先に止めてしまうんですね」


「持つ人が怪我をしないための抑えだよ。あなたには、邪魔だったかな」


 エルネリスが広げた手控えには、元の図が読めないほど訂正が重なっていた。マティアスに探してもらったものだという。


「ここも、私が直したんだ」


「覚えてない?」


「組み方は分かるよ。でも、直した時のことは。何を変えたかばかり書いて、誰と話したか、ほとんど残してないね」


 残念そうに頁を戻し、それでも目は次の図を追っていた。


 オーレリアンは槍へ手を添えた。


「穂へ通る力を増やしたい。手元へ戻る分は、私が逃がす。古い仕組みを支えてもらえる?」


「いいよ。変える時は、少し待って――」


 言い終える前に、光が穂を貫いた。


 二人で顔を見合わせた。槍は崩れていない。別々に組んだフォルマが、どこでもぶつからず、内側を支えていた。


「合わせてくれたんじゃ、ないの?」


「君が合わせてくれたと、思った」


 もう少し動かすと、彼女のフォルマも応じた。説明を挟む場所がない。手を止めるつもりだったのに、次の形まで試してしまう。


「……待って。逆にしたら、どうなるかな」


 その提案にうなずきかけ、テオヴァルドの顔を見た。


「やめよう。違う槍になる」


「僕は、見ているだけでも面白いです」


「それを言うと、返ってこなくなるよ」


 エルネリスが笑い、ようやく手を離した。受け取ったテオヴァルドの右腕は、今度は揺れなかった。


      ◇


 エルネリスが選んだのは、海へ突き出た岩壁だった。その向こうには人も船もない。二人は脇へ下がり、オーレリアンは飛ぶ石を抑えるフォルマだけを添えた。


 踏み込みで、靴の下の石が砕けた。


 盾を前に、少年が飛び込んだ。右脇に抱えた槍が岩へ突き立つ。穂先から光が走り、亀裂が頭上まで駆け上がった。


 海へ向いた側が、爆ぜた。


 轟音とともに岩が海へ吹き飛び、水柱が幾つも上がる。手前へ弾けた石片は盾の曲面に沿って左右へ逸れ、テオヴァルドは槍を構えた姿勢から動かなかった。


 崩れる岩をオーレリアンが支え、テオヴァルドは槍を引き抜いた。片手で持ったまま戻ってくる。その背後には、岩壁を貫いて海が見えていた。


「……いただきます」


 戻ってきてから言うので、エルネリスはうれしそうに笑った。


「うん。傷がついても、遠慮せず使ってね」


 テオヴァルドが深く頭を下げた。オーレリアンも礼を言おうとしたが、先に本を押しつけられた。


「あなたには、これ。旅で話した本」


 余白に、本文と同じくらい反論が書いてある。誰の書き込みなのか聞くと、彼女が悪びれずに手を上げた。


「こっちは返してね。まだ読みたいから」


 槍より念を押すので、テオヴァルドまで笑ってしまった。


 石切り場から港へ戻る船には、二人で乗った。山の家へ帰るエルネリスも、見送りに来たマティアスも、桟橋から手を振っている。


「本の感想、待ってる」


 ほかにも話したいことがある、と言うには、船はもう離れすぎていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。