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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
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御前

「まだ、続けるつもりか」


 天幕の入口から届いた声に、レオポルト大公が言葉を切った。カシミール皇子も立ち上がった。


「陛下。なぜ、ここへ……」


 侍従の腕に支えられ、老人が天幕へ入ってきた。頬は痩せ落ち、杖を握る手が震えている。大公が膝をつくのを見て、オーレリアンも椅子を離れた。


 両家がヴァルテンで顔を合わせるまで、あれからさらに二か月かかった。宮廷から来るのは仲裁の使節だと、オーレリアンも聞いていた。


 上座に腰を下ろした皇帝が息を整える間、諸侯は跪いて待った。先ほどまでの言い争いが嘘のように、その呼吸だけが聞こえている。


「二人とも、余を見るがよい」


 弟と息子が顔を上げた。


「余の名を掲げて争う姿を、いつまで諸国へ見せるつもりだ。どちらの言い分も聞いた。もうよい。ここで兵を退け」


「陛下。私を頼った町が、まだ占領されたままです。ヴァルテンを返していただければ、こちらも――」


「取った土地を返させるなら、そなたの要塞も元の主へ戻すことになる。それを望むか、カシミール」


 皇子は答えなかった。


「土地は当面、今の主に預ける。権利を争うなら、余の裁きを待て。兵を出して取り返すことは許さぬ」


「御裁定に従います」


 大公はすぐに頭を垂れた。皇子は返事をせず、オーレリアンへ目を向けている。こちらも目を逸らさずにいた。


「カシミール。余に、そなたを討てと命じさせるな」


 かすれた声に、皇子の顔が父へ戻った。


「……仰せのとおりに」


 皇帝は答えを聞いて、ようやく杖から片手を離した。


 (この人が死んだら、二人は――)


「アッシュマーク男爵。前へ」


 エーレンフェルト伯爵の隣から進み出て、改めて膝をついた。


「ヴァルテンとローデンは、引き続き卿に委ねる。卿の軍を他家の指揮へ移すことは認めぬ。ローデンを通る交易も、妨げさせぬ」


 領地を返せと言われることも覚悟していた。軍まで手元に残るなら、他家の命令で戦場を渡り歩かずに済む。隣のエーレンフェルトも、ようやく肩の力を抜いた。


「謹んで、お受けいたします」


「町の再建に努めよ。卿への褒賞は、大公からも願い出があった。余も認めよう」


 褒賞への礼を述べてから、オーレリアンは顔を上げた。


「陛下。兵士を魔獣と融合させていた件は、学院だけの仕業ではございません」


「報告は読んでおる。学院長も学監も、すでに死んだそうだな」


「軍にも、関わった者が――」


「今、その責を問い始めれば、誰が兵を退ける」


 大公も皇子も口を挟まなかった。皇帝の目は、オーレリアンから動かない。


「戦を終えるために、ここまで来た。男爵。余を助けてはくれぬか」


 先ほど息子を黙らせた声で、今度は助けを求めてくる。


 エーレンフェルトと目が合った。伯爵は、かすかに首を振った。


 知らないのではなかった。あの報告を読んで、なお終わりにしようとしている。


「……承知いたしました。ヴァルテンの再建に尽くします」


 口にしかけた告発の続きを呑み込み、頭を下げた。皇帝も、それ以上は求めなかった。


 捕虜の交換と街道の再開は、使節の間で話がついていた。両家はその条件を受け入れ、遠方の軍にも、勅命が届き次第、戦いを止めさせることになった。


「両家の争いは収まった。諸侯も和解した。帝国の内外へ、そう知らせよ」


 弟と息子が並んで頭を下げると、皇帝の口元に笑みが浮かんだ。侍従に促されても、しばらくは二人を見ていた。


 学院で何が行われていたかは、停戦の布告に載らなかった。


      ◇


 天幕の外で待っていたテオヴァルドは、こちらの顔を見て、声をかけるのをためらった。


「帰れるよ、テオ」


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