対峙
三週間後、ヴァルテンを訪れたのは味方の軍だった。
丘から下りてくる兵が、いつまでも途切れない。街道を外れた騎兵が左右へ広がり、後ろから砲車が続く。城内の守りを引き継ぐだけなら、道を囲む必要はない。
ヴァルテンへの道を塞ぐバスティオンの間から、オーレリアンはヴェイル家の旗を見ていた。近隣の要塞から退いた部隊を率いているのは、父のエルガン・ヴェイルだった。
先に来た使者は、ヴァルテンの守備を引き継ぐと告げた。断りを持たせて帰したが、停戦の返答より先に、その軍が着いた。
「止まりませんね」
隣のテオヴァルドも、進んでくる旗を見ていた。
「本人が来れば、私も退くと思ったかな」
数では、とうてい及ばない。こちらの列は、両側へ広がる騎兵に包まれかけていた。
「兵を休ませたいなら、陣は貸せる。町ごと預けたら、私たちは次の城へ回されるよ」
「僕たちにも、帰りを待つ人がいます」
「分かってる。引き受けるつもりはないよ。ただ、ここであの軍を潰しても、その穴を埋めるのは私たちだ。厄介だね」
騎兵が速足になった。こちらの列の端を越え、その後ろへ回ろうとしている。
草を蹴って、バスティオンが走った。馬に追いつき、一気に前へ出て進路を塞ぐ。騎兵が避けようとした斜面には、砲を据えたオートマタがいた。
馬が止まった。続く騎兵も、砲の前へは出てこない。
正面の歩兵が盾を寄せ合い、槍を傾けた。対するバスティオンは剣を下げたまま、草原に広がる軍を待っている。
号令が響き、歩兵の足も止まった。
両軍の間には、弓の届くほどの距離しかない。突撃が始まれば、途中で止める暇はなかった。
ヴェイル家の旗の下で、将校たちがエルガンを囲んでいた。何を言っているのかは聞こえない。馬上の男は、その間からまっすぐこちらを見ている。
オーレリアンは前へ出た。テオヴァルドも隣を離れず、二人で軍列を抜ける。
向こうの騎兵が動きかけたが、エルガンの手が上がると止まった。軍旗を後ろへ残し、一騎だけが街道へ進んできた。
馬は歩みを緩めずに近づいた。オーレリアンが立ち止まっても、まだ来る。
鼻先が頭上へかかるほどになって、ようやく手綱が引かれた。
「オーレリアン。兵を退かせろ」
馬上を見据え、オーレリアンは答えた。
「ヴァルテンは、私の軍が守る」
エルガンは動かなかった。オーレリアンも杖を脇に下ろしたまま、返事を待った。
エルガンの背後で、砲車から馬が外されていく。兵たちが車輪を押し、砲をこちらへ向け始めた。
斜面では、フォルマ使いたちが身を伏せた。その上でオートマタの砲が向きを変え、街道の砲列を狙う。
槍の間にも杖が見えた。砲ばかり見ているわけにはいかなかった。
砲を潰すだけなら難しくない。だが、正面のフォルマ使いまで同時には止めきれない。近すぎる。何かを放たれてからでは、こちらの兵にも届く。
(この距離で、誰かが勝手に始めたら)
馬上へ視線を戻した。エルガンも砲から目を離していた。手綱を握る手は動かない。まだ、あの男が兵を抑えている。
すぐ隣でテオヴァルドも軍列を見ていた。剣には触れず、わずかに前へ出ている。撃たれれば、そのまま間へ入るつもりだ。
エルガンの視線も、その少年へ移った。
馬の鼻息が髪を揺らした。オーレリアンは足を引かなかった。
「兵を休ませるなら、城外の陣を使うといい。ヴァルテンへは通さぬ」
エルガンは答えず、二人の後ろへ目を向けた。バスティオンたちは、オーレリアンの命令を待っていた。
やがて、馬首が返された。
ヴェイル家の旗を追い、軍は城外の陣へ下っていった。蹄の音が遠のき、背後に兵たちの声が戻った。




