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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
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残響

 ルーカスを抱き起こすと、頭が後ろへ傾いた。首を支え、ニコは自分の肩へもたれさせた。頬を寄せても、息はかからなかった。


 崩れた壁の向こうに空が見える。二人で逃げようとしていた出口だった。


「外へ、出られるよ」


 口元から目を離せなかった。何か言ってくれれば、今度こそ立ち上がれる気がした。


 膝へ落ちた左手を握る。背をつかんでくれた時の力は、もうなかった。


 抱き直した拍子に、指が胸の傷へ触れた。


 刃を押し込んだ感触が戻ってきた。夢で見た廊下が重なり、扉の前に倒れた男が見えた。地下から助けを求める声を聞いて、あの扉を開けたのも自分だった。町の守りまで失われると、止められていたのに。


 あの時も、誰かを助けるつもりだった。


 頭が痛む。ルーカスの制服へ額を押しつけても、悲鳴は遠のかなかった。あの町からなのか、今いる広間からなのかさえ分からない。


「もう、やめて……」


 自分の声まで、叫び声に紛れていった。


 学院長が何と言ったかまで、思い出せてしまう。


 ルーカスを床へ寝かせ、剣を拾った。立ち上がれず、座ったまま柄を握る。手の震えが止まらなかった。


 外から人の声がした。助けを呼ぼうと口を開いたが、声にならなかった。


 ニコは刃を自分へ引いた。剣が手から落ち、ルーカスのそばへ崩れた。


      ◇


 梁を押しのけた先に、二人が倒れていた。


 伸びた髪の間に顔を見つけ、オーレリアンは瓦礫を駆け下りた。


「ニコ!」


 目が開き、唇が動いた。声は出なかった。


 ルーカスにもたれた身体を支え、傷へ掌を当てた。オルビスの光が二人を照らす。


 血が止まり、傷が塞がり始めた。それでも脈は弱くなっていく。


 (間に合え)


 傷の奥へフォルマを届かせた。ニコは息を吸おうとしたが、胸は膨らまず、唇から音だけが漏れた。


「聞こえる? 私だよ」


 ニコの指が袖へ触れ、つかめずに落ちた。


 その手を握り、オーレリアンはもう一つオルビスを開いた。


 治療のフォルマが、身体の奥で乱れた。傷を直そうとすると、別の場所へ負担がかかる。外で戦った怪物とも違った。


 腕の黒を見て、道端で消えたオルビスを思い出した。剣にしか力を渡せなかった理由も、分からないままだった。


 (原因はあとだ。今は――)


 呼吸を支えるフォルマを重ねた。


 隣でルーカスを診ていたテオヴァルドが、こちらを見た。


 何も言わないその顔に、オーレリアンはルーカスへもフォルマを伸ばした。ニコへ通す力は緩められない。


 裂けた胸を直す方法なら見つかる。だが、その先へいくら探っても、ルーカス本人には届かなかった。


 そちらへ伸ばしたフォルマを解いた。


「ルーカスを、頼む」


 テオヴァルドはルーカスを石から離して横たえた。


 天井から落ちてきた石を、テオヴァルドのフォルマが庭へ払った。その向こうでは、バスティオンたちが怪物を食い止めている。


 ニコの胸が浅く持ち上がり、息が漏れた。


 次の息は来なかった。


 オーレリアンは顔を寄せ、呼びかけた。脈は触れず、身体の温かさだけが残っている。魂と身体をつないでいたものが、途切れた。


 治療は、間に合わなかった。


 掌の下で、オルビスが歪んだ。


 ニコの胸は動かない。治療を続ける掌に、わずかな力が返ってきた。


 息を詰め、オーレリアンは自分の喉を押さえた。そこにはない傷が、痛んでいた。


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