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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
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砲火の先へ

 砕けた城壁から怪物がなだれ出し、バスティオンの大肩甲へ爪を叩きつけた。火花が散り、騎士の足元で石が割れる。脚甲から肩へ文様が灯り、騎士は踏み込んだ。跳ね返された怪物が、後続の群れへ倒れ込む。


 斜面で腕を振り下ろした術者に応じ、オートマタの砲が吼えた。反動で機体の脚が土へ沈む。城壁に沿って走った光は、もつれ合う群れを横から貫き、胴も脚も瓦礫の上へ吹き飛ばした。


 砲火が途切れると同時に、バスティオンたちが斬り込んだ。大剣が首を飛ばし、長柄の刃が起き上がる胴を地面へ縫い止める。脇から食らいついた顎を籠手で砕き、騎士は血を浴びたまま次の一頭へ踏み込んだ。


 群れを押し退けた騎士たちが、壁の裂け目の両側を固める。その間をオーレリアンが駆け抜けた。


「ここは任せる。テオ、行くよ」


 テオヴァルドと少数のバスティオンが続き、砲声は家並みの向こうへ遠ざかっていった。


 上空のオルビスから坂を見渡し、学院への道を選ぶ。前を塞ぐ怪物はテオヴァルドが斬り伏せ、脇道から迫るものは騎士たちが押し留めた。坂を下ってくる人々とすれ違いながら、一団は上へ進んだ。


 その先で、中央棟の窓が内側から弾けた。壁を伝って亀裂が走り、建物を覆う光が揺らぐ。


 オーレリアンは窓の奥へ像を寄せた。舞い上がる埃に遮られ、人影は見つからない。


 広場に残る群れを衝撃で散らし、オーレリアンは講堂の瓦礫を越えた。中央棟の石段に、男が立っている。


「学監のヴェルナー・ハーゲンと申します。学生たちは中へ避難させました。兵の方々には外を守っていただけますか。お二人は私が中へご案内します」


 ヴェルナーは身を引き、石段の上へ手を差し出した。オーレリアンは足を止めた。上空から見れば、柱の陰のオルビスまで見える。勧められるまま上れば、背後から撃たれる位置だった。


「背中から撃つつもりなら、もう少しうまく隠せ」


 ヴェルナーは答えず、差し出した手を下ろした。


 柱の陰からせり出したオルビスが、二人へ光を放った。オーレリアンが杖を払うと、砲撃は斜め上へ逸れ、庭に面した回廊の屋根を吹き飛ばした。


 爆風を突き抜け、テオヴァルドが喉へ剣を突き出す。男の衣が裂けたのは、その時だった。


 脇腹から獣の前脚が突き出し、剣を石段へ叩きつけた。砕ける石を蹴り、テオヴァルドは剣ごと横へ抜ける。


 ヴェルナーの腰が持ち上がった。その下で獣の胴が膨れ、前脚が石段を踏み砕く。人の上半身は獣の背へ沈み込み、裂けた衣の下では二組の肋骨が押し合っていた。


 ヴェルナーの目はテオヴァルドを追っていた。爪で剣を払い、人の手から光を撃つ。その一撃を、横からオーレリアンが弾き飛ばした。


 石畳を跳ね上げる爆風に紛れ、テオヴァルドが懐へ入った。前脚を一本斬り落としても、胴は崩れない。


 腹の下のオルビスが巨体を支えていた。残った脚まで地面を離れ、横へ滑る。追いすがる剣を避けながら、爪だけが庭を薙いだ。


 中央棟へ回り込もうとしたオーレリアンの前にも、その身体が滑り込んだ。学監はこちらを見下ろし、獣の脚は背後のテオヴァルドを蹴り払っている。


「自分にも使ったのか」


「他人に使うだけで、ここまで扱えると思うかね」


 ヴェルナーが腕を上げると、庭を囲んでオルビスが開いた。石段の上からも、頭上からも、二人へ光が向く。


 バスティオンたちは庭の入口で、追ってきた群れを食い止めていた。その背後まで、砲撃の光が届こうとしている。


 オーレリアンは騎士たちの前へ出た。広げたオルビスに光が激突し、熱風が庭を吹き抜ける。受け流した砲撃は空へ逸れ、頭上で爆ぜた。


 その轟音の中で、中央棟の上階が沈んだ。内側から裂けた壁が窓ごと落ち、建物を守っていた光にも穴が開く。


 オーレリアンは石段へ駆け出した。爆煙を突き破った獣の爪が、その頭上へ降ってくる。


 テオヴァルドが割って入った。


 剣で受けた爪に押され、切っ先が石畳を削る。少年は退かず、刃を傾けてその重さを横へ流した。前脚が地をえぐり、空いた腹へオーレリアンの銀光が走った。


 腹を覆う光が一撃を止めた。ヴェルナーはその向こうで人の腕を振りかぶったが、撃つより早く手首が飛んだ。テオヴァルドの剣が、守りの外へ出た腕を捉えていた。


 悲鳴とともに、獣の脚が少年を抱え込もうと曲がった。


 オーレリアンが地へ杖を打ちつけた。石畳を割って衝撃が噴き上がり、巨体を浮かせる。閉じた爪の下から、テオヴァルドが抜け出した。


 腹の下に開いたオルビスへ、剣から放たれた光が走った。支えを砕かれた胴が傾き、人の胸が空を向く。


 オーレリアンは杖を振り上げ、衝撃を途切れさせずに巨体を押し上げた。腹を覆う光がへこみ、押し潰されていく。中央棟の屋根を越えたところで、守りは弾け飛んだ。


 石段への道が開いた。オーレリアンは中央棟へ走った。


 ヴェルナーが残った手を地上へ向けると、テオヴァルドがその眼前へ跳び上がった。剣で腕を払い、獣の爪が背後を掻く間に、青白い光を帯びた刃を頭上へ返す。


 振り下ろされた剣が人の肩口へ食い込み、獣の胸まで重なった骨ごと断ち割った。二つに裂けた巨体は血を撒いて落ち、回廊の跡を押し潰した。


 瓦礫に埋もれたヴェルナーは、もう動かなかった。


 テオヴァルドが庭へ降りた時、オーレリアンの行く手で中央棟の正面が崩れ落ちた。石段まで地中へ沈み、開いた穴から土煙が噴き上がる。


 その奥で響いた叫びは、石を砕く音にかき消された。

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