↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
55/108

発症

 背後で火球が爆ぜた。


 振り返りざまにテオヴァルドの剣が炎を割る。熱が二人の脇を抜け、街道に火を引いた。


 炎の向こうでは、旗を失った兵が将校の怒声に押され、盾を重ねて戻ってくる。怪物を押さえるバスティオンは動けない。残った者へ槍列が迫った。


 オーレリアンの衝撃が先頭の足を払い、崩れた列へテオヴァルドが入る。術者の杖がまとめて宙を舞った。それでも矢は止まらない。


 その背後で、城壁の内側から石が噴き上がった。


 人影が胸壁を越え、戦場へ落ちる。四本の脚で起き上がると、敵兵へ跳んだ。


 足元でオルビスが光った。四本の脚が自ら地面を穿ち、胴がつんのめる。追いついたテオヴァルドの剣が、首へ伸びた腕を払った。


 城壁から矢が降った。


 横殴りの衝撃が矢を散らした。胸壁では、なお弓を引く者と石段へ走る者がぶつかっていた。


 その頭上をオルビスが越え、空から見たヴァルテンが視界に重なった。


 城壁際だけではない。町の奥でも屋根が弾け、怪物が軍服を引きずって人々を追っている。石段は逃げる者で塞がっていた。


 敵陣の奥に、別の旗が上がった。ヴァルテンの像を視界の端に残したまま、オーレリアンはもう一つのオルビスを敵陣へ送った。


 杖を振り下ろすと、銀光が増援へ落ちた。地面が弾け、騎兵も槍列も土煙へ消える。裂け目は後続まで走り、旗を倒した。


 傍らでは、テオヴァルドが土から伸びる腕を踏んでいた。怪物になり果てても、見上げる顔は苦痛に歪んだ兵士のものだった。


「あと二日。本隊が来るまで、ここを通さない」


 返事の代わりに、東から火球が飛び、胸壁からも怪物が跳んだ。オーレリアンが炎を撃ち落とし、テオヴァルドが怪物を迎えた。


      ◇


 ――少し前、ヴァルテン城内。


 負傷兵が薬を飲み下した途端、喉が引きつった。息が戻らず、胸の包帯から光が漏れる。向かいの寝台でも、別の兵士が身体を折った。


 ニコが手を伸ばすと、兵士の左手がニコの肩を押し返した。


「逃げろ」


 背中が反り、軍服の下で肩の形が崩れた。腰が寝台から浮き、増えた脚が床を打つ。右肩から生えた腕が梁を砕き、石と木を廊下へ降らせた。


 ニコは剣を立てた。腕が刃を打ち、靴の下で床が削れる。


 兵士の顔は変わっていない。肩から生えた顎が剣を噛む間も、人の左手はそれを止めようと首元を掻いていた。


 顎に押された剣が、ニコの頬まで戻る。横からルーカスの衝撃が怪物をさらい、せり上がった床石がその間を塞いだ。


「今のうちに!」


 ルーカスの声に、エーベル先生と学生たちが患者を廊下の奥へ逃がした。


 その間にも、別の寝台が跳ねた。包帯の下から同じ光が漏れ、床に亀裂が走る。どちらも、軍の治療痕から出ていた。


「先生、同じ治療を受けた人は――」


「ここだけじゃない。東から来た負傷兵は、町じゅうへ分けられた」


 屋根の弾ける音が、上の通りから次々に響いた。目の前の壁にもひびが走る。


 エーベル先生が患者を奥へ追いやったところで、石壁が破裂した。


 飛び込んできた腕をニコが受け、ルーカスの衝撃が巨体を天井へ叩きつけた。二人は落ちてくる身体を左右へ避ける。


 怪物は床へ触れるなり、ニコへ向きを変えた。


 速い。それでも、踏み込むたび片肩が沈み、人の脚を残した側へ重心が傾く。


 ニコは沈んだ肩へ踏み込み、爪をくぐって刃を脇腹へ滑らせた。光を帯びた剣が突進を逸らす。


 ルーカスが床を突き上げ、怪物を中庭へ放り出す。巨体は転がった勢いのまま起き上がり、逃げる人々を追った。


 ニコも窓から飛び降りた。


 軍服の切れ端を引きずる怪物が、坂を逃げる人々を屋根伝いに追っていた。守備兵のフォルマが一体を落としても、別の通りからまた現れる。


 人の流れに逆らい、ニコは正面の怪物へ剣を合わせた。押し返したところへルーカスのフォルマが足元を崩し、倒れた身体に守備兵たちが縄をかける。


 守備兵の一人が、怪物の胸へ剣を突き立てようとした。


 ニコは刃で弾いた。怒声が返るより早く、隣の建物が内側から割れた。


 そこから飛び出した怪物が守備兵をさらい、屋根へ跳ね上がる。縄をかけられた一体まで暴れ出し、兵たちが散った。


 ルーカスのフォルマが、屋根の怪物を空中で止める。腕から放れた兵が瓦の上へ転がった。


 怪物の背に埋まった光が脈打ち、触れていたオルビスへ滲み出した。


「解いて!」


 ルーカスがフォルマを解く。右手は握り込んだまま開かず、左手で指をこじ開けた。


「何だ、今の」


「分からない。でも、もうあれにフォルマを使わないで」


 ニコの剣だけは、まだ光を保っていた。


 答えを探す間もなく、治療棟の床がまた割れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。