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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
53/109

人のまま

 剣の折れる音が重なり、指揮官を囲んでいた護衛が退いた。


 その間をテオヴァルドが抜ける。振り下ろされた刃は空を切り、返す一撃が旗竿を根元から断った。


 指揮旗が倒れても、軍は止まらなかった。


 別の旗が上がる。東を向いていた隊列の両端が曲がり、背後へ入り込んだアッシュマーク軍を包み始めた。


 オーレリアンたちは、ヴァルテンの城壁と敵の本陣の間へ突き入っていた。テオヴァルドが中央の旗を追い、その左右でバスティオンが包囲を押し返している。


 オーレリアンは後方から全体を見ていた。北では騎兵が退路へ回り、正面では長槍の列が揃い始めている。


 長槍の前で、地面が弾けた。


 バスティオンが土煙に隠れた。そこから槍の列が押し戻され、後ろの者たちも崩れた隙間へ踏み込んだ。


 一人が割れた地面へ膝まで沈んだ。槍が集まる前に左右の二人が引き上げ、大剣が穂先をまとめて払う。列は止まらなかった。


 鎧へフォルマが当たるたび、足元の土が抉れた。それでも倒れない。前列を押し込み、左右から閉じかけた隊列を内側へ折っていく。


 陣の奥で、オルビスが一斉に開いた。


 狙いは鎧ではない。光が、バスティオンたちの足元へ集まっていく。


 (鎧は耐える。地面が先に落ちる)


 オーレリアンの一撃が戦場を横切り、術者たちを薙いだ。完成しかけたフォルマが空中で弾け、地面へ届く前に消えていく。


 轟音に遅れて土が降った。その下から現れたバスティオンの列は、すでに盾へ手をかけていた。


 そこへバスティオンたちがなだれ込んだ。大剣が盾を割り、長柄が槍を跳ね上げる。押し戻された兵が後ろの列へぶつかり、向きを変えかけていた軍列が中央から崩れた。


 テオヴァルドは、その混乱よりも速かった。


 上がった旗へ向かう途中で、立ちはだかった者だけが倒れていく。衝撃が術者の列を裂き、二本目の旗も地面へ落ちた。


 真っ先に逃げたのは騎兵だった。崩れる歩兵を置き去りにし、馬腹を蹴って東へ走る。


 だが、振り返った騎兵の横を、バスティオンが並んで走っていた。脚甲の文様が灯り、籠手が男を鞍からさらう。ほかの騎兵も陣を出る前に追いつかれ、鞍から引きずり下ろされた。東へ走り続けたのは、主を失った馬だけだった。


 列を保っている部隊も、隣が退けば盾の端が空く。そこへバスティオンが入り、列も分かれていった。


 戦場から、カシミール皇子の旗が消えていく。


 武器を捨てる兵が現れた。将校が立たせても、別の場所でまた剣が落ちる。命令だけでは、もう軍を戻せなかった。


 オーレリアンは杖を下ろさなかった。


 崩れた兵の向こうに、膝をついた一隊が残っている。武器はなく、両手を背中で縛られ、軍服の右半分だけを布で巻かれていた。後ろには術者たちが並んでいる。


 誰一人、顔を上げない。この一隊のことは、使者の報告にもなかった。


 最後の旗が上がり、退いていた兵が一隊の前へ集まった。


 術者の一人が首を振る。将校の剣が、その喉へ向いた。


 オーレリアンは、それが命令になるのを待たずにオルビスを開いた。


 (間に合え)


「テオ、術者を――」


 銀光が届くより早く、オルビスから兵たちの背へ光が落ちた。


 一人が、縛られた腕ごと身体を反らした。


 軍服の下で右肩が膨れ、布と縄を一緒に引き裂く。人の胸が沈み、その脇から別の胸郭がせり上がった。腰から四本の脚が地面へ落ち、肘から先は獣の顎へ変わった。


 その顎が将校の肩へ食いつく。隣の兵も縄を引きちぎった。


 立ち上がるたび、人の形が一つずつ失われていく。


 異形は敵も味方も見分けず、そばの兵と術者へ襲いかかった。将校たちは逃げた。


 後ろから矢が飛び、何本も背へ刺さった。それでも止まらず、近くの人間へ向かった。


 逃げかけていた兵の列が、今度は前から崩れた。


 バスティオンの一人へ、異形が跳んだ。


 大剣が迎える。刃が人の首へ届く寸前、オーレリアンには、その身体を支えている光が見えた。


 魔獣のものではない。


 (魂は、人間のままだ)


「撃つな!」


 考えるより先に、声が出た。


 大剣が止まった。


 刃の向こうで、人の顔だけが泣いていた。


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