衝突
指揮官が剣に手をかけた時には、もう鞍から落ち、首筋へテオヴァルドの刃を突きつけられていた。
丘の射手も二射目を放てなかった。オーレリアンの銀光に杖を砕かれ、斜面を駆け上がったテオヴァルドに弓まで断たれると、残った兵は武器を捨てた。
◇
「誰の命令だ。何を命じられた」
「ヴァルテンの東にいる司令官から……西より来る軍を、三日遅らせろと。この先にも、同じ命令を受けた兵がいる」
指揮官の声は、最後まで震えていた。
テオヴァルドが取り上げた命令書には、カシミール皇子方の軍印があった。文面も、今の答えと違わない。
だが裏面には、西の街道を写した地図があった。丘と道標、煙を上げる順番。どの谷ならヴァルテンの西塔から見え、どこへ入れば姿を隠せるか。塔から返される合図まで、細い線と数字で記されている。
街道の先で煙が上がり、少し遅れて、さらに東から細い煙が返った。命令書にある順番と同じだった。
「この合図は、どこで教わった」
「知らない。命令と一緒に渡された。俺たちは、書かれた丘で待てと――」
使者は命令書の裏を見たまま言った。
「皇子方の軍は東から着いたばかりです。西塔から見える谷まで、知っているはずがありません」
やはり、ヴァルテンはカシミール皇子方へ傾いていた。
(兵を入れずに、目だけ貸した)
地図の上では、カシミール皇子方の軍がヴァルテンの東にあり、アッシュマークはまだ遠く西だった。
「カシミール皇子方は、先の戦いに勝ったあとも陣を解いていません」
ヴァルテンへ先に入れば、その軍を背後に残すことになる。
「先に、東の軍を退かせる」
全軍では遅い。だが隊列を崩せば、見えていない一撃で死人が出る。
「私とテオ、足の速いバスティオンだけ先に出る。本隊には、街道と砲列を守りながら追わせる」
遠くの丘で、また煙が上がった。
「煙は止めない。まだ遅れていると思わせる。エーレンフェルト伯爵には、これ以上兵を寄こさないよう伝えて。東の軍もヴァルテンも、こちらで引き受ける」
使者が東へ馬を返した。
ヴァルテンまでは、急いでも数日かかる。丘から丘へ渡る煙を追い、先行隊は東への街道を走り始めた。
◇
数日後、煙の先にヴァルテンの城壁と学院が見えた。町の東には、カシミール皇子方の軍が陣を敷いている。
城壁の術者も野の兵も東を向いていた。西塔の見張りは、アッシュマーク軍の到着を二日後と告げる煙を、そのまま町へ返した。
オーレリアンたちは西塔から見えない谷を抜け、城壁の北を回った。陣の背後へ出ても、警号は鳴らなかった。
「ここを越えればヴァルテンだ。先に、あの軍を退ける。皆、準備はいい?」
「いつでも!」
声が重なった。
「では、行こう」
オーレリアンの前で、幾重ものオルビスが開いた。
銀光が陣を横切り、兵たちの武器を吹き飛ばした。その切れ目をテオヴァルドが走り、バスティオンたちが続いた。
遅れて迎撃のフォルマが上がった。光が鎧を叩いても、突進は止まらなかった。
遅れて警号が鳴り、東を向いていた隊列が崩れたまま西へ向き直った。その先では、テオヴァルドがすでに指揮旗の下へ踏み込んでいた。




