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歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
52/109

衝突

 指揮官が剣に手をかけた時には、もう鞍から落ち、首筋へテオヴァルドの刃を突きつけられていた。


 丘の射手も二射目を放てなかった。オーレリアンの銀光に杖を砕かれ、斜面を駆け上がったテオヴァルドに弓まで断たれると、残った兵は武器を捨てた。


      ◇


「誰の命令だ。何を命じられた」


「ヴァルテンの東にいる司令官から……西より来る軍を、三日遅らせろと。この先にも、同じ命令を受けた兵がいる」


 指揮官の声は、最後まで震えていた。


 テオヴァルドが取り上げた命令書には、カシミール皇子方の軍印があった。文面も、今の答えと違わない。


 だが裏面には、西の街道を写した地図があった。丘と道標、煙を上げる順番。どの谷ならヴァルテンの西塔から見え、どこへ入れば姿を隠せるか。塔から返される合図まで、細い線と数字で記されている。


 街道の先で煙が上がり、少し遅れて、さらに東から細い煙が返った。命令書にある順番と同じだった。


「この合図は、どこで教わった」


「知らない。命令と一緒に渡された。俺たちは、書かれた丘で待てと――」


 使者は命令書の裏を見たまま言った。


「皇子方の軍は東から着いたばかりです。西塔から見える谷まで、知っているはずがありません」


 やはり、ヴァルテンはカシミール皇子方へ傾いていた。


 (兵を入れずに、目だけ貸した)


 地図の上では、カシミール皇子方の軍がヴァルテンの東にあり、アッシュマークはまだ遠く西だった。


「カシミール皇子方は、先の戦いに勝ったあとも陣を解いていません」


 ヴァルテンへ先に入れば、その軍を背後に残すことになる。


「先に、東の軍を退かせる」


 全軍では遅い。だが隊列を崩せば、見えていない一撃で死人が出る。


「私とテオ、足の速いバスティオンだけ先に出る。本隊には、街道と砲列を守りながら追わせる」


 遠くの丘で、また煙が上がった。


「煙は止めない。まだ遅れていると思わせる。エーレンフェルト伯爵には、これ以上兵を寄こさないよう伝えて。東の軍もヴァルテンも、こちらで引き受ける」


 使者が東へ馬を返した。


 ヴァルテンまでは、急いでも数日かかる。丘から丘へ渡る煙を追い、先行隊は東への街道を走り始めた。


      ◇


 数日後、煙の先にヴァルテンの城壁と学院が見えた。町の東には、カシミール皇子方の軍が陣を敷いている。


 城壁の術者も野の兵も東を向いていた。西塔の見張りは、アッシュマーク軍の到着を二日後と告げる煙を、そのまま町へ返した。


 オーレリアンたちは西塔から見えない谷を抜け、城壁の北を回った。陣の背後へ出ても、警号は鳴らなかった。


「ここを越えればヴァルテンだ。先に、あの軍を退ける。皆、準備はいい?」


「いつでも!」


 声が重なった。


「では、行こう」


 オーレリアンの前で、幾重ものオルビスが開いた。


 銀光が陣を横切り、兵たちの武器を吹き飛ばした。その切れ目をテオヴァルドが走り、バスティオンたちが続いた。


 遅れて迎撃のフォルマが上がった。光が鎧を叩いても、突進は止まらなかった。


 遅れて警号が鳴り、東を向いていた隊列が崩れたまま西へ向き直った。その先では、テオヴァルドがすでに指揮旗の下へ踏み込んでいた。


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