戦争が始まる
テオヴァルドの読み声が、草地に膝をついたバスティオンの間を流れていた。
大公家からの使者を待って、ここで足を止めて三日。ヴァルテンは、軍の足でなお二十日余り先だった。
東からは誰も来ない。風が草を揺らすたび、鎧のどこかで小さな音がした。
胸甲は開き、兵士たちは鎧の中で脚を伸ばしていた。
長柄と大剣は傍らに置かれ、物資を抱えたオートマタも道沿いに止まっている。
オーレリアンは道標の石に腰掛け、杖を膝へ載せていた。
テオヴァルドが頁をめくろうとした時、東の街道から蹄の音が届き、読み声が止まった。
開いていた胸甲が次々に閉じ、草の上の武器が持ち上がる。誰も命じていない。さっきまで昔話に耳を傾けていた者たちが、一息で兵士の顔へ戻っていた。
坂の向こうから現れた使者の肩には、先日アッシュマークを訪れた軍務官と同じ章があった。
「まだ動かなくていい」
オーレリアンが片手を上げると、武器は下がったものの、胸甲までは開かなかった。その間を進んできた使者は馬を降り、乱れた息のまま口を開いた。
「エーレンフェルト伯爵から、こちらの街道を預かる軍務官へ新しい作戦が届きました。伯爵はすでに先遣隊を出しています。皇子方の守りを見るための攻撃で、結果はまだ分かりません。ただ、伯爵はその勝敗を待たず、数日のうちに総攻撃を始めます。アッシュマーク軍には、予定どおり西からヴァルテンへ進んでいただきたい、と」
「ヴァルテンから、新しい返事は?」
「ありません」
(結果も町の返事も待たず、総攻撃。もう誰も止まる気はないらしい)
テオヴァルドは本を閉じ、外套の内側へしまった。
「進むのですか」
「うん。向こうの本隊が動いてから、二十日歩くつもりはないよ」
オーレリアンが立ち上がると、草地にいた兵士たちの視線が集まった。
「出発する。ヴァルテンへ――」
言い終える前に、丘の両側から矢が飛んだ。
テオヴァルドの剣から衝撃が走り、矢はオーレリアンへ届く前に砕け散った。破片の向こうから騎兵が斜面を駆け下りてきた。その旗には、カシミール皇子の紋章があった。
オーレリアンの銀光が騎兵の先頭を薙ぎ、崩れた列へテオヴァルドが斬り込んだ。




