↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴代領主の平均生存年数三年の追放先を聖都にしてみた  作者: Lemonade
奇跡と騎士と産業革命の始まり
50/108

煙の向こうへ

 二発目の轟音はさっきより遠く、窓枠が鳴っただけで、床の硝子は動かなかった。


 ルーカスはニコと伏せたまま次を待ったが、着弾は来ない。


 町の外で砲声が重なり、耳を澄ますうち、その間が少しずつ長くなった。


 ルーカスは窓の下から外を覗いた。


 東の空は土煙に消え、遠い丘にはレオポルト大公の旗が並んでいた。その手前で、カシミール皇子の援軍がヴァルテンへ背を向けている。


 泥と包帯にまみれた兵たちは、もう盾の後ろへ弓兵と術者を収め、ひとつの軍列へ戻っていた。


 丘から光が放たれるたび、盾列の前でオルビスが開く。砲撃は空中で弾け、外れたものだけが城壁の外へ土を噴き上げた。


 大公の旗の下から歩兵が坂を下り始めても、町を背にした軍列は動かなかった。


 その後ろから、窓のない箱車が現れた。


 一台ではない。斜面へ並ぶと、扉がほとんど同時に落ちた。


 最初に這い出した兵士は、人の顔と胸を残したまま、四本の脚で地面を蹴った。


 片腕だけが地面へ届く者、肩から獣の顎を生やした者も続く。


 破れた帝国の軍服が、どの身体にも残っていた。


「マルクと同じだ」


 隣で、ニコの手が剣の柄を握った。


 異形の兵士たちは、後ろの歩兵を置き去りにして坂を駆け下りた。地を蹴る音が、砲声の切れ間にも届く。


 まだ、矢は放たれない。弓弦も杖も上がったままだった。


 先頭が盾へ届く寸前、軍列の中央が左右へ割れた。一瞬、押し破られたようにも見えた。


 突進した身体が、その隙間へ飛び込む。四本の脚は前へ走りながら、人の顔だけが後ろを向いていた。


 両側から矢と光が降った。


 矢を弾いた脚を光が砕き、倒れたところへ盾が閉じる。それでも人の腕は、土をつかんで前へ進もうとした。


 長槍は、人の胸を地面まで貫いた。


 次の一体が盾を飛び越えた。盾兵たちの頭上を、その影が覆う。


 宙へ上がった顔だけは、怯えた兵士のままだった。開いた口が、何かを叫ぼうとしている。


 その腹の下でオルビスが開き、巨体が折れて落ちる。声は届かなかった。


 残った者たちは左右へ散った。


 逃げ道に見えた場所だけが、不自然に広く空いている。そこへ追い込むために、最初から列を割ったのだとルーカスは気づいた。


 そこへ踏み込むたび、三方から射撃が重なった。


 ヴァルテンの城壁へ届いた者は、一人もいなかった。


 異形が倒れ切る前に、その後ろの歩兵は坂の途中で足を止めた。


 その迷いへ、騎兵が左右から走り込む。丘の歩兵はようやく退こうと向きを変えた。


 騎兵はその脇を抜け、逃げ道へ先回りするように斜面を駆け上がった。


 正面からは盾の列が進み、丘の術者たちへ迫っていく。


 旗が一本倒れた。隣の旗は、自ら下がった。


 ヴァルテンの門は、最後まで閉じたままだった。


 城壁から歓声が上がり、町の下段へ広がっていく。


 廊下で息を潜めていた学生たちも窓辺へ戻り、誰かが笑い、別の誰かはその場へ座り込んだ。


 ルーカスも、ようやく息を吐いた。


「勝ったんだ」


 ニコは答えなかった。退いていく兵ではなく、丘に残された箱車を見ていた。


 坂を制した兵たちは、倒れた異形と壊れた車へ火を放った。歓声はもうない。


 その傍らでは、白衣の者たちが後ろ手に縛られ、扉の開かなかった箱車へ馬がつながれていく。


「……あれは、焼かないのか」


 やがて箱車は、捕虜とともに軍列の奥へ運ばれていった。


 その後ろで、異形を焼く煙だけが高くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。