招かれた軍
「本当に、私を正式な司祭になさるおつもりなのですか。こんな大事な交渉で、私のような者のことまで――」
議事堂の高窓は、砲煙を逃がすためにまだ開いていた。エーレンフェルト伯爵と大公家の軍務官を乗せた馬車が、広場を横切っていく。長卓に残ったのは三通の書状と、ヴァルテンの市章をつけた旗だった。
オーレリアンは、ようやく杖を卓へ立てかけた。
「うん。ミラはこの町に必要だし、私にも必要だ。足りないものは、これから学べばいい。胸を張って受けてほしい」
ミラが手にしている書状の末尾には、「オルカペル司祭」と彼女の名が並んでいた。
「私に聞かず、そこまで条件にしたのですね」
「認めさせるところまで。受けるかどうかは、あなたが決めて」
ミラは書状に記された自分の名を、指で一度なぞった。
「では、戦が終わって、お帰りになった時に、お受けします」
続く頁には、破門を認めない司教たちの連署が約束されていた。
「大公殿下に近い司教たちには、破門を認めないと約束させた。祈りも埋葬も、今までどおりだよ」
「同じ教会が、二つの答えを出すことになります」
「ブレーゲンでもう割れてたよ。同じ服を着て、割れていないふりをしていただけだ。隠したまま、こちらだけ破門されるよりはいい」
別の一通には、戦後の昇爵を支持するとの約束があった。
「伯爵になるのも、戦の後ですか」
「約束が守られればね。今朝までは、欲しいとも思ってなかったけど」
「大公殿下か、エーレンフェルト伯爵の下へ組み込まれないためですね。男爵の軍と呼ぶには、もう大きすぎるから」
「男爵のままローデンの道とこの軍を抱えていれば、そうなる。勝った後で断るより、戦う前に値段をつけた方が安い」
「ローデンの子爵位は?」
「要らない。欲しいのはアッシュマークの家格と、戦の後もこの軍を誰にも預けないという約束だけ」
書状にあるのは、伯爵家と大公家の軍務官の印だけだった。
「大公殿下の署名がありません。まだ決まったとは言えませんね」
「大公殿下の連署は、これから持ってこさせる。取れなければ、この先まで付き合う理由もなくなる」
三通目は、ヴァルテンからの招請だった。カシミール皇子に属する諸軍が援軍を名乗り、東門へ向かっている。町の正式な回答がまとまるまで、代表者の権限でアッシュマークへ防衛を求めていた。
「エーレンフェルト伯爵の軍は?」
「先に東の街道を押さえる。でも、伯爵の軍と私たちは別に動く。ヴァルテンへ入るのは、私たちだよ」
ヴァルテンの旗へ目を移し、ミラはようやく息をついた。「ずいぶん多く、約束させましたね」
「そのぶん、こちらも軍を出す。安い取引ではないよ」
窓の外では、訓練場の重い足音が夕暮れまで途切れなかった。
◇
ひと月後、東門の前には、大剣と長柄を背負ったバスティオンが幾列にも並び、その間へ物資を抱えたオートマタが入っていた。門楼にも通りにも、見送る人々の姿がある。
テオヴァルドは、青い布に包んだ本を抱えていた。山の西から届き、町から町へ余白を増やした昔話だ。
オーレリアンは東門の石段に立ち、鎧の列と、その向こうに続く町を見渡した。
「これから、私たちはヴァルテンへ向かう。大公の兵になるためではない。助けを求めた町へ、アッシュマークの軍として行く」
門楼に上がった子どもたちまで、声を潜めた。
「せっかく町が落ち着いてきたところなのに、皆を戦へ連れ出すことになった。これは私の判断だ。すまない」
門の上で旗布が鳴った。誰も歓声を上げなかった。
「勇敢さを競う必要はない。できるだけ怪我をしないで。危なくなったら退いて、隣にいる人も連れて帰ってきてほしい。勝った話は、帰ってからいくらでも聞かせてくれ」
列のどこかで、拳が胸甲を打った。鋼の音が一つ鳴り、やがて門前の端から端まで広がった。
ヴァルテンの代表者が馬上から旗を掲げた。春の風を受け、市章が大きくひらく。
その旗の下を、バスティオンの列が歩き始めた。巨体の足音が重なり、開いた門の向こうまで春の街道を埋めていった。




